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第29話 招かれざる客

話は第16話直後の時系列に戻る

 ハリーが手掛かりを求めて賭場へ向かった後、アリアはソファに座ってハリーが残していった新聞紙という紙に目を通してみた。自分の国でいう瓦版という奴に近いかもしれない。

 確かに書いてある文字の意味は通じるものの、耳慣れない国や単語ばかりが紙面に並んでいた。アリアは改めて自分の知らないところに来たのだと実感する。


 アリアは溜め息を付くと横で眠る黒猫のトントに目をやった。見知らぬ世界ではあるが、此処にも猫はいるのか。少しだけ安心してアリアはトントの頭を優しく撫でた。



「さて…どうしよう。あの男、ハリーは此処を出るなというし…」



 アリアは気弱な言葉を吐いて項垂れる。トントはアリアの声で目が覚めたらしく、ゆっくり起き上がるとアリアの足にスリスリした。その様子を見てアリアは微笑を浮かべた。



「くよくよしても仕方ないし、一先ずハリーを信じてみようかな」



 アリアが独り言を呟くと、突然玄関のチャイムが鳴った。アリアとトントは驚いてドアの方を向く。



「誰…!?」




 アリアはゴクリと生唾を飲み込む。恐る恐るドアに取り付けられたスコープを覗き込むと、帽子を目深に被ったスーツ姿の男が二人立っていた。


 男たちの表情までは読み取れないが、この上なく怪しい雰囲気を醸し出していた。アリアは居留守を決め込むことにして音を立てずにやり過ごそうとする。


 スコープ越しの男たちはしばらくドアの前に立っていたが、中の反応がないと判断すると去っていった。



「何とかやり過ごせたみたいね」



 ホッとしてソファに戻ろうとすると、再びチャイムが鳴った。ギョッとしたアリアはドアスコープを覗くことなく、急いでマリアが使っていたという部屋へ駆け込んだ。



「…な、何なの一体…?」



 アリアが息を潜めていると、ドアを激しく叩く音が響く。音に圧倒されてアリアは耳を塞いだ。黒猫のトントも驚いてアリアの元へも駆け寄る。



「おいで」



 アリアはトントを抱き締めてドアの向こうにいる来訪者がいなくなるのを待った。しかし、アリアの期待とは裏腹にドアを叩くは止まない。それどころかドアをガチャガチャとこじ開けるような音に変わった。



 入ってくる…!



 アリアは声を押し殺してベッドの脇に身を縮ませた。すると部屋の向こうからドタドタと複数の足音が近づいてくる。どうやら部屋の中に侵入してきたようだ。アリアは震えながらハリーが置いていった拳銃を手に持つ。



「これは非常時よ…もしものときは射つしかないわ…」



 アリアが自分に言い聞かせるように銃口を部屋のドアに向ける。心音が高鳴る中、突然足音が止まった。

 アリアが怪訝な表情でドアを睨むと柔らかな声が聞こえてきた。



「突然の訪問失礼します。アリア女王陛下」


「…!?」



 アリアはドアの近くまで歩いて耳を近づけた。



「ジョーカーの命により貴女をお迎えに上がりました。先日プレッティーノ・ファミリーに拉致されかけたと報告があり、急ぎ保護するようにと派遣されました」


「…貴方たちは何者?」



 アリアは声を震わせながらドアの向こうの侵入者に問いかける。



「我々はメトロポリス執政部の者。ジョーカーは我々の上司に当たります。アリア女王陛下、何卒我々に付いてきてください。必ずや貴女をグランシステリア王国に戻してみせます」



 アリアの心が揺らぐ。侵入者たちはどういう訳かジョーカーや自分の正体を知っている。そもそもアリアは自分の出自をハリー以外に明確に明かしていない。となると、この者たちは本当にジョーカーの手の者なのか…?



「信じていいのね?」


「はい。ジョーカーが貴女と再会できるのを楽しみにしております」



 アリアが答えると足下のトントが慌てた様子でドアの前に立ち塞がる。トントには侵入者の発言に思うところがあるようだ。しかし…



「ごめんね。私は行くわ…いつまでも此処に厄介になるわけにもいかないし、何よりグランシステリア王国に戻れる手掛かりがあるかもしれないからね」



 トントを無視するようにアリアはドアに手を掛け、侵入者の前に姿を見せる。アリアを見た侵入者(先のスーツ姿の男たち)らは恭しく頭を下げて跪いていた。



「ご理解感謝いたします」


「さ、話があるなら連れていってちょうだい。少しでもグランシステリア王国のことで分かる人間に会いたいの」


「仰せのままに」



 アリアは身支度を整えてスーツ姿の男たちにエスコートされるようにハリーの部屋を後にした。アリアを乗せた黒塗りの高級車は真っ直ぐ「蜘蛛の糸」の先にあるアップタウンへと向かっていった。


 トントはしばらくこの様子を呆然と眺めていたが、直ぐに我に返ると急いで部屋を飛び出した。



(これはまずいことなった!!!)



 トントはハリーが向かったであろう賭場へ全速力で走った。

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