第28話 失われた過去を求めて
何かの偶然か、もしくは同姓同名の赤の他人か。
ハリーの中で「ヘンリー・ダマスカス」という名前が何処かで引っ掛かっていた。
しかし、考えていても疲れた体では何も思い浮かばない。やむなくハリーはソファにもう一度寝転んで目を閉じた。
「どうやら明日やることは決まったようだ」
ハリーは独り言のように呟くと一眠りした。トントもハリーの胸元に乗ると添い寝するように丸くなった。
………………
翌朝、といっても既に正午を回る頃にハリーとトントは目覚めた。最近は朝のルーチンが崩れているせいか目覚めは悪いが、ハリーは気にせずにブランチを食べながら仕度を始める。
シャワーを浴び、丁寧に髭を反り、新しい服を着て身なりを整えた。コートを羽織って外出しようとするハリーをトントが呼び止める。
(ハリー、部屋も片付けないで何処へ行くんだ?)
「調べものがある。プレッティーノ・ファミリーの呼び出しは明日だからまだ時間はあるはずだ」
(調べもの?)
「ヘンリー・ダマスカスのことだ。妙に気になる名前なのでね。図書館に行けば何か分かるかもしれない」
(まー、執政部の議長だからそれなりの地位にいる人物だとは思うが…過去を調べるのか?)
「そうだ。マリアと繋がりがあるのであれば、これまでの出来事の点と線が繋がるような気がするんだ」
ハリーはトントに留守を頼むとアパートを出てダウンタウンの繁華街へと向かった。繁華街の一角に古書を扱う昔ながらの書店がある。其処の店主は古今東西の書物から新聞雑誌の切り抜きまで収集していることで有名であった。
ハリーは「図書館」と呼んでたまに利用している。
勿論本来のメトロポリスの図書館はあるのだが、アップタウンの中心に建てられているため恐れといけない事情がある。
ハリーは「図書館」に着くと本の山に埋もれている店主に会釈して目当ての新聞紙の切り抜きのコーナーへと向かった。
切り抜きのコーナーは無造作に置かれているように見えるが、年代や新聞社ごとに振り分けられており探しやすく整理されている。
ハリーは新聞紙の山の中で三年前から遡って記事を探すことにした。
三年前…ハリーにとってはマリアを失った忌まわしい年である。マリアの事件の記事も当然載っているが、扱いは驚くほど小さかった。まるで何かの力でも働いたかのようである。
ハリーは気を取り直して一月単位で社会面から経済面と記事を隈無く探す。ハリーが長く居座ることに対して、店主はいつものことだと気にすることなく自分の仕事に没頭している。
かれこれ数時間は経過しただろうか。記事を探すハリーの目も疲れてきて、思わず伸びをした。そしてフーッと溜め息を付く。
「…勘違いだったのかな…何か引っ掛かるものがあったんだが…」
ハリーはあと一年分の記事を探したら一旦休憩しようと決めた。スパートを掛けるように読むペースを早める。と、その時…
「あった…!これだ」
ハリーが手に取った一枚の記事。其処にはやや大きめの見出しでこう書かれていた。
『世紀の大発見か!?メトロポリス自然科学研究所が異世界に通じるとされる物質転移の法則を発表。鍵を握る未知の素粒子について所長のヘンリー・ダマスカス氏の談話を紹介』
昔、ハリーも見た記憶があったが、眉唾物の話として読み飛ばしていた。まさか此処に繋がるとは…。そしてその記事の中身を見てみたが、肝心のマリアに関する記述は何処にもなかった。
「…?どういうことだ?あの手紙の中身はどういう意味が…」
ハリーが独り言のように呟くと、ある仮説が思い浮かんだ。
「…まさか、な。もし本来の発見者がマリアだとしたら…その成果をヘンリーが横取りした…?」
あくまでも仮説に過ぎないし、何の証拠もない。奇妙な感覚だが、この考えはハリーを捉えて離さなかった。
悶々とした気分を抱えていると午後六時を告げる鐘が鳴った。店主がハリーの元にやって来てそろそろ店を閉めると云ってきた。
ハリーは店主に見つからないように件の記事を破ってポケットに入れると外へ出る。
夕飯を買いに市場へ向かいながらハリーは明日以降のことを考えた。
「ケヴィン…、アリア…、ヘンリー・ダマスカス…、マスターの死、…執政部が指揮する時と場所を越える実験…全てが繋がり始めている。何としてもアップタウンへ行って事実を暴き出してやる!」
ハリーは心の中で強く決意して足取りを速めた。




