第25話 許されざる者
「…先日の銃撃事件のことでしょうか?確かにあの時俺と接点はありましたが、それ以上の繋がりはありません…」
ハリーはマダムに恐る恐る答える。マダムはゆっくり立ち上がると右隣の男にパイプを出させた。そしてパイプを咥えると火を点けて煙を燻らす。
「………」
「………」
互いに沈黙する。ほんの数秒だとは思うが、身動きできないハリーにとっては永遠の長さに感じた。
「別に構成員が一人死んだ件について私は何とも思ってないわ。この程度のいざこざなんて日常茶飯事だし、一々目くじら立てていたら組織も成り立たないしね」
「…そうなんですか」
「アリアのことを話せないなら質問を変えるわ。ケヴィン・モルトシオネは知っているわね?」
「え、…ええ」
ハリーは生唾を飲み込む。まさかマダムからもケヴィンの話が出るとは。
「ケヴィンはモルトシオネ・ファミリーの跡目であり、五年前の大戦で戦死した。そう伺っています」
「確かに。ドン・モルトシオネもそう言ってたわ。だから次の跡目は養子のエリックにするともね」
「そのケヴィンがどうしたのですか?」
ハリーは敢えて知らない振りをした。マダムは何となくハリーが嘘を付いていることを察しているようだが、気にせず話を続ける。
「ここ最近私の傘下の風俗店が軒並み警察の取り締まり対象になって急激に売上が落ちているのよ。おかしいと思って裏を取ったら警察の背後にメトロポリスの執政部が絡んでいることが分かった。更に執政部の中に私の店の娼婦たちを挙って引き抜いている者がいることも判明した。ソイツが警察を操って私の組織を潰そうとしていると推理した」
「メトロポリスの執政部が…?」
「色々伝手を頼って情報を調べた結果、思わぬ人物が黒幕だとヒットした…」
「ケヴィン・モルトシオネ…」
「大正解」
マダムはフーッとパイプの煙を吐き出した。ハリーは背筋をゾクッとさせた。ジムの話の通り、ケヴィンは執政部と繋がっている。アリアの件も含め、何かが繋がり始めている。
「ジョーカーとかいうふざけた偽名を使っていたけど、写真を見る限りケヴィン・モルトシオネに間違いなかった。死んだとか言われてたけど、ノコノコとメトロポリスに戻ってきて執政部に潜り込んでいたとはね」
「マダム…貴方に喧嘩を売ったというのはケヴィンのことだったのですか?」
「そうよ。ただモルトシオネ・ファミリーとは今度の跡目のお披露目会で手打ちにしようと思ってるわ」
「…そうなのですか?」
「跡継ぎのエリックとは悪い関係じゃないし、ドンも老い先短いしね」
「…ドンの病気のことも…ご存じでしたか」
マダムはニヤリと不敵に笑った。エリックと手打ちにするとなれば、自然とケヴィンの存在は邪魔になるのだろう。どうやらマダムの矛先はケヴィン個人に向いているようだ。
「ではマダム…何故アリアを狙うのですか?ケヴィンとは無関係なはず…」
「それについては今から詳しく話すわ。ケヴィンの生存について幾つか気になることがあって調べてみたのよ。その中に面白いものを発見してね」
「面白い、もの?」
「時と場所を越える実験をメトロポリスの執政部が影で指揮している…」
「時と場所を越える、ですと!?」
アリアもケヴィンも時と場所を越えて移動してきた。そして、その背後にはメトロポリスの執政部…。妙だ、一体何が行われているというのだろう?
「実験の中で一人の女がこのメトロポリスに現れたのが確認された。執政部の連中よりも先に女を確保しようと私たちは動いた。それが…」
「アリア…という訳ですか」
「大正解」
「貴女がアリアを狙ったのは…」
「ケヴィンとの交渉材料、言わば人質よ」
ハリーは行きずりの「娼婦狩り」と思っていたが、女王である自分を狙ったというアリアの推察はあながち間違ってはいなかったのか。ハリーは改めて裏を聞いて溜め息を付いた。
「残念ながら貴方に邪魔されたけどね」
「…あの場ではそうするのが正義だと思います」
「そうかしら?「バー・フリーダム」のマスターはそれが原因で殺されたのでしょう?」
「マスターは貴女方が殺したのではないのですか?!」
ハリーの語気が思わず強くなる。周りの男たちが一斉に武器を構えようとしたのでマダムは鋭い眼光で制した。
「私がマスターを殺して何の得になるの?幾ら揉め事が起きたとはいえ、無用な殺しはしないわ」
「…やはり執政部の手の者の仕業か…」
怒りからハリーの握り拳に力が入った。




