第24話 女帝
ハリーは白いジャケットの男と赤スーツの男に促されるようにプレッティーノ・ファミリーの黒塗りの車に乗り込むことになった。
しかしながら先日連中とは「バー・フリーダム」前で一悶着を起こした上、アリアの件で因縁が出来ている。
武器こそないもののハリーは最大限の警戒をしつつ、三台の内の真ん中に停められた一番立派な車輌のドアに手をかけた。
ドアを開けてゆっくり乗り込むと中はリムジンのように広く、座席はサロン状にテーブルを囲むように配置されていた。
奥には屈強なサングラスの白人男性が座っており、ハリーに隣に座るよう促す。ハリーが指示に従って腰掛けると、更にその隣に赤スーツの男が座った。さながら途中で逃げられないようにハリーを間に挟む配置である。
そしてハリーの対面に白いジャケットの男が座ると、窓にカーテンが閉められ車輌はゆっくりと発進した。
中の男たちは終始無言で緊張した面持ちをしている。男たちの様子を伺いつつ、ハリーは何故プレッティーノ・ファミリーが自分を釈放したのか、その理由を考えていた。
しばらく走っていると車輌が停止した。男たちが降車するとハリーも外に出るように促される。
ハリーが外に出ると其処はメトロポリスの運河沿いにあるリバーサイドパークの駐車場だった。駐車場にはハリーの乗ってきた黒塗りの車輌と同型の車輌が複数台停まっており、その周りをスーツ姿の屈強な男たちが囲んでいる。
何ともいえない物々しい雰囲気にハリーは息を飲む。ハリーは白いジャケットの男から呼ばれて男たちが居並ぶ中に歩み出た。男たちからの視線は痛く、下手に抵抗しようものならリンチを加えられ運河の魚の餌に成りかねない。
此処は大人しくした方が吉か。ハリーは頭の中で状況に身を委ねることにした。
「ご苦労様」
ハリーの乗ってきた黒塗りの車輌と同じ型の車輌から一人の女性が降りてきた。女性は両脇をタキシードに身を固めた端正な顔立ちの男にエスコートされるようにハリーの前に近づいてくる。女性の動きに合わせるように周りの男たちが一斉に頭を下げ出した。
女性はウェーブがかった金髪に厚塗りの化粧、肌が大胆に露出した黄金色のドレスに身を包んだ熟女だった。シワは化粧で隠しているせいか詳しくは分からないが、少なくともハリーよりは10歳以上は上のようである。
しかしながら全身からフェロモンがむき出しな色気が漂っており、周りの男たちと合わせるとミスマッチで異様な光景となっている。
「お元気そうで何よりね」
「あ、貴女は…?」
ハリーが女性の顔を見て、思わずアッと声を上げそうになった。
ミカエラ・プレッティーノ。
プレッティーノ・ファミリーの現ボスであり、メトロポリスの風俗業界における総元締めでもある。通称は「マダム・プレッティーノ」または「女帝」。
メトロポリスの執政部や警察の上層部とも影で繋がっており、その顔はとても広い。その彼女が何故ハリーを釈放したのか?
「マダム…どうして俺を助けたのです?」
ハリーはマダムに単刀直入に聞いた。マダムにフッと不敵な笑みを浮かべる。
「簡単よ。私の組織に喧嘩を売ったことを後悔させるためよ」
マダムの言葉にハリーは身震いする。まさかあの一夜の出来事が此処まで大事になるとは… ハリーは思わずマダムの前に土下座した。
「この度は大変な無礼と取り返しのつかない行為をしました。気が済むのであれば、何だってします。ただ…ただ命だけはどうかご容赦ください…」
ハリーはプライドを捨てるようにマダムに赦しを請う。ハリーの必死な行動に対し、意外にもマダムは呆気に取られたような表情を見せた。そしてククク…と笑いを堪える仕草を取る。
「…ククク…ハハハッ!貴方、何か勘違いしてない?私は貴方に復讐するなんて一言もいってないわよ?」
「へ?」
ハリーは間抜けな声を出して頭を上げた。マダムはハリーの前にしゃがむと、ハリーの顎をクイッと上げた。
「何の為に貴方を釈放したと思っているの?ハリー・ライナス」
「え…な、何故です?」
「私の狙いはあの女…アリア・ボン・グランシステリアの命よ」
「な…!アリアの…?」
「貴方とアリアは接点があるわよね?あの女は何処にいるの?」
マダムの言葉にハリーは固まる。そんなハリーを他所にマダムは声に凄みを利かせてきた。




