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第21話 レヴェナント

 ガーランドの苛烈な仕打ちにハリーは顔をしかめつつ、ジムの前にしゃがんだ。ジムはようやく観念したのか項垂れている。



「ジム、質問には必ず答えるのですよ」



 ガーランドは終始丁寧な言葉を使いつつも、その表情はすこぶる恐ろしい。もはや尋問、いや拷問である。



「え、えーとジム」


「…な、何だ?奴のことか…?」


「そうだ。奴の生存や痕跡を示す情報なら何でも欲しい」


「…知らん、そんな男…」



 ジムは未だにはぐらかそうとする。が、しかし…



「ぐがが…あがが!!」


「嘘はなりませんよ、ジム。貴方も中々往生際が悪いですね」



 ガーランドがジムの左足を踏みつけてグリグリと押さえつける。



「…うぐぐぐ…ううう…わ、分かりました、若頭…白状しますぅ……」



 ジムは涙を流して情けない声を上げた。先程のポーカー勝負のときの威勢の良さはまるでない。



「分かればよいのです」



 ガーランドはジムから足を離すと満足げな表情を浮かべた。ハリーは落ち着いて咳払いすると改めてジムに尋ねた。



「さ、奴の情報を教えてくれ」


「…ジョーカー、いやケヴィン…か。奴のことは先の大戦前から面識はあった。何度かこの賭場にお忍びで出入りしていたからな…」


「そうなのか?」


「ジョーカーとかいうふざけた偽名を使っていたが、奴がモルトシオネの跡目だというのはすぐに分かった。ただ余計なトラブルにならないように、ファミリーにも内緒で敢えて黙認していた…」


「それは初耳ですね、ジム」



 ガーランドがジムの話に眉をひそめる。ジムは少し身震いしつつ、話を続けた。



「先の大戦が勃発し、奴は兵士として召集された。それから連絡が途絶え…戦地で死んだものと思っていた」


「その話は俺も知っている」


「だが…大戦から暫く経ってから突然奴がこの賭場に現れた。最初は幽霊でも出たのかと思った。しかし奴は本物のケヴィンだった」


「ケヴィンはやはり生きていたのか…」


「奴は久しぶりに私の前に現れると、奇妙な話を始めた。大戦の際に、とある遺跡にいたところ突然光に包まれ…気づいたら見知らぬ土地にいた、と」


「見知らぬ…土地?」


「王制でメトロポリスまでとはいかないが、文明は発達しており言葉も通じる。しかし…大戦のことやメトロポリスについて全く通じない奇妙な場所に行ったそうだ。どうすることもできず、しばらくはカジノのような賭場へ行って金を稼いだり、用心棒のようなことをして糊口を凌いだそうだ」


「……そこでもジョーカーを名乗ったのか?」


「君が、どこでその情報を得たかは知らんが…その通りだ…」



 ハリーの脳裏にアリアの話が浮かんだ。アリアの話は絵空事と思っていたが、ケヴィンの話を聞く限りグランシステリア王国は実在していたということになる。


「ではどうやってケヴィンは帰って来れたんだ?」


「詳しくは知らんが…行きと同じように遺跡のようなところにいたら光に包まれたと聞いた。全く持って訳の分からない話をされて冷やかしかと思ったんだが…」


「?」


「奴はある()()()を持っていた。それを私と行きつけのバーで自慢気に話していたところ、突如メトロポリスの執政部を名乗る連中が現れ、奴を連行していった」


()()()だと?」



 ハリーの口調が荒くなる。ジムはフゥーと深呼吸した。



「とある王族の身に付けていた見たこともないくらい巨大な宝石をあしらったティアラ、そして古文書らしき文献だ。グラン…何とか王国とか書いてあったな。私には何の価値があるのか分からんが、執政部の連中は妙に焦っていたようだ」


「メトロポリスの執政部が…(グランシステリア王国のことを探っている…!?)」


「最近…そうだな、数ヵ月前くらいか。再びケヴィンがこの賭場に現れた。奴は前に会ったときよりもかなり羽振りが良くなっていた。話を聞くところによるとあの件以降、執政部の特務機関と繋がりを持つようになって、ファミリーには戻ってないそうだ」


「………」


「そして私にある提案をしてきた。見知らぬ土地に飛ばされた話は絶対に他言するな、と。例え所属しているスカルスノフ・ファミリーであっても報告することは許さないと。もし破った場合は痕跡も残さずお前を消すとね」


「何故ケヴィンはそんなことを…」


「さあね。ただその見返りに莫大な報酬を毎年受け取る約束を取り付けることができた。お陰で何不自由なく生活できている」


 ジムは満足そうに笑う。が、それを見つめるガーランドの顔は渋くなっている。



「…なるほど。このところファミリーへの上納金を納めているにも関わらず、それ以上に貴方の羽振りがいいと思っていましたが、そういう裏事情がありましたか」



 ガーランドが眼光鋭くジムを睨む。



「だからハリー、君がケヴィンの話をしたときには本当に焦った。絶対にこの話はできない。信じようが信じまいが、他言したという事実がアウトなんだ…頼む、この話はもう忘れてくれ…」



 ジムは限界が来たのか嗚咽を漏らして泣き始めた。何とも情けない醜態だが、ジムにとっては余程のことなのだろう。



「ジム…ということはケヴィンはアップタウンのメトロポリスの執政部にいるということだな?」


「た、たぶんな…いずれにせよ奴はVIP待遇だろうからそうそう会えないと思うが…」



 ジムの息が荒くなってきた。そろそろ限界が近いのだろう。ハリーは立ち上がるとガーランドに向けて頭を下げた。



「ありがとうございました。貴重な話を伺えました」


「もうよろしいのですか?」


「ええ、これ以上ジムに尋問するのも酷でしょう」


「…分かりました。貴方たち、ハリー様を丁重に送り出しなさい」



 ガーランドはスーツ姿の男たちに告げると頭を下げてハリーを見送った。そして…



「さて、ジム。貴方も中々大胆な男ですね。ファミリーに隠れて私腹を肥やそうとは…裏切り行為と見なすには充分な案件ですよ」



 ガーランドは向き直るとジムを見据えてゆっくりと話す。ジムはガーランドの目力に身動きできず、口をパクパクさせた。ガーランドはスーツ姿の男の一人に右手を差し出した。男は懐から自動拳銃を取り出すとガーランドへと渡す。



「ジム、貴方はファミリーの為に本当に尽くしてくれました。しかし裏切りには死を持って償うのがファミリーの掟。執政部の連中に消されるのが怖いのであれば、せめてもの情けファミリーの手で最期を迎えさせてあげますよ」



 ガーランドは拳銃に消音器を着けると、安全装置を外して銃口をジムに向けた。ジムは赦しを請うために声を上げようとしたが、スーツ姿の男にズタ袋を再び被せられた。



「さようなら、ジム」



 賑やかな賭場の裏で小さな発射音が響いた。

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