第20話 グッドフェローズ
ジムは昏倒させられたまま、出入口の男たちに両脇を抱えられてバックヤードへ連れていかれた。ジムを見送った黒人男性はハリーの方に向き直ると改めて頭を下げた。
「ハリー様、お怪我はありませんか?この度は当方のジムが大変お騒がせしました」
「い、いや此方こそ助かったよ…」
ハリーは黒人男性の顔を見ると、何かに気づいたのか思わず目を見開いた。
「あ、貴方は…まさかガーランド…ガーランド・スカルスノフではありませんか?」
「…やはり私をご存知でしたか」
「何故貴方が此処に?貴方がいるような場所ではないと思っていたのですが…」
目の前の黒人男性の正体に気づいたハリーの口調が変わる。黒人男性はニッコリと微笑んでハリーに握手を求めた。
メトロポリスの裏社会を取り仕切るマフィアの五大ファミリーの一つであり、カジノや賭場など娯楽産業を資金源とするスカルスノフ・ファミリー。そのボスの養子にして若頭がガーランド・スカルスノフである。
普段はアップタウンにある巨大なカジノを取り仕切る支配人を務めており、滅多にダウンタウンに現れることがないのに何故彼が場末の賭場にいるのだろう?
「このところダウンタウンの賭場の風紀や治安が乱れているとタレコミがありましてね。所謂抜き打ちチェックという奴です。娯楽を提供する場を乱すような不埒な輩やルール違反がないか目を光らせていたのですが、オーナーがこのような行為に及ぶとは予想外でした」
「此方こそ場を乱して申し訳ございません。すぐに出ていきます」
賭場の大ボスが出てきたのならこれ以上余計な揉め事は避けたい。ハリーは急ぎ帰宅の用意をして賭場を後にしようとする。
「ハリー様、お待ち下さい。ジムに用があるのではありませんか?」
ガーランドがハリーを引き留める。ハリーはばつ悪そうに振り返ると頭を掻いて頷いた。
「実は人探しをしていて…ジムに心当たりがあるかと思って尋ねたところ、先の勝負に発展したんです。ジムは情報が漏れることを恐れているのか必死だったようです」
「ジムが貴方に情報を隠している?」
「私としても依頼人からの期限が迫っているので、どうしても聞いておきたいのですが…」
ハリーの話を聞いたガーランドが顎に手を当てて少し考え込む。何かを思い付いたのか、再びハリーを見据えた。
「突っ込むようなことをお聞きして申し訳ございません。その依頼人とは私共と同じマフィアの者ですか?」
「それは…」
「ハリー様、詳しくは結構です。しかし貴方の今の態度、並びにジムの必死な様子を見ると恐らく別のファミリーが絡んだ一件でしょう」
ハリーはガーランドの鋭い考察に身震いする。下手に口を開こうものなら薮蛇だ。ガーランドは少し笑みを浮かべるとハリーをバックヤードへと促す。
「ひとまず此処で話していては他のお客様の邪魔になりますので続きは此方で伺いましょう。ジムもそろそろ起きると思いますので、私共の方から聞き取りましょう」
ガーランドとハリーはバックヤードの扉の向こうへと移動する。すると賭場の賑やかな雰囲気とはうって変わって無機質な内装と静寂に包まれた部屋が視界に広がった。
まるで舞台の書き割りのような…華やかなのは表向きだけのようである。
ハリーが興味深そうに視線を動かしていると、部屋の隅にズタ袋を被せられたパンツ一丁の男が後ろ手に手錠を掛けられて椅子に座らされている姿が目に入った。
男の周りには屈強な黒人男性が複数名おり、男を囲むように立っている。よく見ると出入口にいたスーツ姿の男たちのようだ。
異様な光景にハリーは思わず後退りしそうになる。ドン引きしているハリーとは対照的にガーランドはスーツ姿の男たちを労うように声を掛けると、躊躇なくズタ袋を取った。
ズタ袋の男は予想通りジムであった。顔面がボコボコに腫れ上がり、所々痣や血が出ている。ジムは息も絶え絶えなのか、呼吸が荒い。
しかし、この短時間で此処までボコボコにやられるとは…。
丁寧な物腰とは裏腹に身内の不祥事には容赦ないガーランドの姿勢にハリーは寒気を覚えた。
「お待たせしました、ハリー様」
ジムの様子を見たガーランドが笑顔を見せてハリーを呼ぶ。
「さあ、何なりとご質問ください」
ハリーは恐る恐るジムに近づく。ジムはハリーを腫れ上がった目で睨み付けると、プッと血を吹いてハリーのコートを汚した。
その瞬間ガーランドの顔つきが変わり、裸足のジムの右足を革靴で踏みつけた。追い討ちを掛けるようにグリグリと押さえつける。
ジムは悲鳴と苦悶の表情を浮かべてガーランドに赦しを請う。
「いけませんよ、ジム。貴方に与えたオーナー権限はこの時を持って剥奪します。貴方に非があるのですから大人しく白状なさい」
この凄惨な光景にハリーは急いで逃げ帰りたくなった。




