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第19話 ラッキー・ナンバー・セブン

 最後の勝負が始まった。ハリーは配られた手札の内容を慎重に見定める。


 ハートの7、クラブの4、クラブのJ、ハートの4 、ダイヤの9…


 現在の役はワンペア。ポーカーの役の中で最も弱い。あと少し上の役を揃えないとハリーの勝つ確率は上がらないだろう。


 一方のジムは余裕の笑みを崩しておらず、手札を団扇のように仰ぐ仕草でハリーを挑発している。早く手札を見せたいといってるようにも見える。



「何枚交換するんだ?ハリー」


「…一枚で」



 ハリーが手札からダイヤの9を抜こうとしたとき、聞き覚えのある声が脳内に響いた。



(待て、ハリー。ジムの野郎、イカサマしてやがる)


「…!!!トント?」



 ハリーは慌てて周囲を確認する。ジムは怪訝な表情でハリーの動きを見た。



「何をしている?挙動不審な行為は良くないな」



 ハリーは気を取り直して手札を見ながら「脳内」でトントと会話する。



「イカサマとはどういうことだ?」


(猫の視点から奴に手札が渡った段階でロイヤル・ストレート・フラッシュの役があと一枚完成する並びになっている。ハリー、あんたの動きを待って役を完成させるつもりだ)


「バカな?!思い通りのカードが奴に渡るだと?」


(ジムも中々も曲者だな。カードをシャッフルする際にお前さんやギャラリーにバレないようにロイヤル・ストレート・フラッシュの役になるカードに傷を付けて目印にしてたんだ。おまけにカードを配るときも然り気無くお前さんには強い役が揃わないように細工してたようだ)


「そんなことが…間近でも分からないぞ?」


(そりゃ向こうは百戦錬磨のプロだ。余程の動体視力がないと見破れないだろうよ。どうやらジムはどうしてもお前さんにケヴィンの情報を渡したくないらしい)


「ということは…?」


(奴はクロだ、ハリー)



 トントの言葉にハリーの手札を握る手に力が入る。



「しかし、手札を交換したところで結局奴の所に目当てのカードが渡るんじゃどうしようもないぞ?」


(大丈夫だ、ハリー。私に任せろ)



 トントがそういった瞬間、突如天井からポーカーのテーブルに黒猫が飛び乗った。ハリーやジムは勿論のこと、周りのギャラリーも騒然とする。



「な、何だ、この黒猫は?!何処から入った!」



 ジムが慌てて部下達を呼んで黒猫をつまみ出すように指示する。黒猫はわざとのようにカードの山を崩してテーブルから飛び降りた。



(今だ、ハリー!カードの山を直す振りをして順番を入れ換えるんだ)



 トントの言葉に従い、ジムやギャラリーが黒猫に目を向けている隙にハリーはカードの山を直した。

 ジムの部下たちが慌てて黒猫を捕獲しようと右往左往するが、黒猫は客たちの合間をぬって何処かへ行ってしまった。



「…やれやれ、全く。真剣勝負に水を差しやがって」



 ジムが愚痴りながら勝負を再開しようとする。ハリーは生唾を飲み込み、最後の手札交換を行った。



「一枚交換か…?」


「ああ、それでいい…」



 ハリーの弱々しい言葉にジムは勝利を確信して、カードの山から一枚引いて渡した。



「では私も一枚交換といこう」



 ジムはカードの山から一枚引く…が、どうも様子がおかしい。先程までの余程が嘘かのように表情に焦りの色が見えている。



「どうした?ジム。最後の勝負といかないのか?」



 ハリーはとぼけたような声でジムに話し掛けた。ジムの額からどっと汗が流れ出す。次第に体全体がワナワナと震え出し、ガタッと立ち上がった。



「ハリー、貴様!!イカサマしたな!」


「何のことだ!?」


「とぼけるな!さっきの黒猫がテーブルに乗った際にカードの山を直しただろ。そのときにカードの並びを入れ換えたな!」


「そんなことして何の意味があるんだ?」



 ハリーが食い下がるとジムは我を忘れて対面に座るハリーの胸倉を掴んだ。

 ジムが手札を投げつけるとロイヤル・ストレート・フラッシュ…ではなく、何の役にもならないブタの札だった。


 対してハリーが引いたカードはスペードの7。ツーペアの役が完成していた。



「俺の勝ちだ、ジム。約束通りケヴィンの情報をもらうぞ」


「舐めやがって、このクソヤロウ…」



 ジムはハリーを突き飛ばすと胸元から拳銃を取り出し、撃鉄を起こしてハリーに向けた。突然のことに賭場中が騒然となり、あちこちで悲鳴が上がる。



「正気か?オーナー自ら賭場の禁を破っていいのか?」


「黙れ!イカサマ野郎が!ギャンブラーとしてのプライドをズタズタにされたんだ。くたばりやがれ!!」



 ジムが引き金を引こうとしたとき、背後に巨漢の影が現れ、そして鈍い音が響いた。

 音が響いた直後、ジムは前のめりになり、ポーカーのテーブルの上に倒れ込んだ。


 騒然となっていた賭場が一瞬にして静まり返る。ジムの後ろには身長二メートルはあろうスキンヘッドの黒人男性が手刀の構えで立っていた。



「いい加減になさい。この賭場のルールは貴方が一番ご存知のはずでしょう、ジム。オーナー自ら醜態を晒すのは賭場の風紀や評判にも関わること。これ以上黙って見逃す訳にはいきません」



 黒人男性は丁寧な口調でジムを戒めると周りの客たちに向けて深々と頭を下げた。



「お客様、この度はオーナーの不手際で大変お見苦しい光景を晒してしまいました。この始末は私共で付けますので、引き続きお楽しみ下さいますようお願いします」



 客たちはしばらく動揺していたものの男性の言葉に幾分か納得したのか方々へと散っていき、賭場は再び元の賑やかさを取り戻した。

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