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第17話 ゲームの達人

「メトロポリス」のアップタウンとダウンタウンとを繋ぐ巨大な橋が運河に懸かっている。誰が呼んだか「蜘蛛の糸」と称される橋は自動車や鉄道を通して物流の要となっており、毎日多くの人が行き交う。

 何故「蜘蛛の糸」なのか。一説によるとアップタウンを「天国」、ダウンタウン側を「地獄」と見立てて二つを繋いでいるかららしい。


 その為かダウンタウン側の人間がアップタウンに入るには「通行証」のようなものが要るため橋の袂には検問所がある。言うなれば選ばれた者のみがアップタウンの地を踏めるのだ。


 ハリーが向かっている賭場は「蜘蛛の糸」のダウンタウン側の袂にある。賭場は小さな倉庫に擬装されており、一見港の施設の一部に見える。


 賭場はメトロポリス富裕層かマフィアの構成員、或いはその伝手で紹介された者しか入ることはできない。要は一見さんお断りだ。


 また入る際には紹介時に取り決められた合言葉が必要。賭場への武器の持ち込み及び武器の使用はご法度。禁を破った場合は賭場への立ち入りは永久に不可となる。


 ハリーはかつての警察時代にマフィアから賄賂を受けていた経緯もあり、特別に賭場への立ち入りを認められていた。



「自分にとっては忘れたいが、こういうときに必要な毒もあるんだな」



 ハリーはポツリと自分に言い聞かせるように呟く。そうしている内にハリーは目的の建物へと着いた。


 建物の鉄扉には目出しの覗き窓が付いており、ハリーがノックすると覗き窓が開いて中から鋭い眼光が睨み付けた。



「合言葉は?」



 中の人物は機械的な抑揚のない声でハリーに尋ねてきた。



「赤いバラの花束と冷えたターキー、そしてウィスキーのレモンソーダ割」



 ハリーは何の脈絡のない単語を告げた。次の瞬間、覗き窓は閉じられ鉄扉の鍵が開く音が聞こえた。どうやら合言葉は合っていたらしい。


 ハリーが中に入ると狭く暗い照明の部屋になっており、周りには四名ほどの屈強な黒人の男性がビシッとした背広とサングラスを付けて立っていた。彼等は賭場に入る人間のボディーチェックや門番をしているようだ。



「武器や危険物はありませんね?」


「イエスだ」



 丁寧な言葉で男の一人がハリーに確認を取り、他の男たちがハリーの体を触ったり金属探知機を当てたりする。


 問題ないことを確認すると男たちはハリーを先にある鉄扉に通す。ハリーが鉄扉を開くと地下へと続くエレベーターになっていた。そして下の階層のボタンを押して、エレベーターのドアが開かれると…


 地上の簡素な建物とは真逆の豪華絢爛な内装と選ばれた者が行き交う賑やかな賭場のエントランスが視界に広がった。


 ハリーは帽子にコート、そしてネクタイを締めているが、タキシードやドレスで決めた周りの人間に比べると些か貧乏臭い印象で浮いていた。


 しかし、ハリーは臆することなくチップの換金コーナーへ向かうと真っ赤で派手なドレスに身を包んだ受付嬢に話し掛けた。



「ジムはいるか?」


「オーナーでしょうか?オーナーは今、ポーカーのコーナーでお客様と勝負されておりますが」



 受付嬢の言葉を聞いてハリーの視線は賭場の一角にあるポーカー専用のテーブルに向かう。


 テーブルには如何にも羽振りの良さそうな恰幅のいい禿げた中年男性とシックな黒いドレスの老婆、痩せた色白のタキシードの青年がディーラーらしき男とポーカーで勝負していた。


 ディーラーの男は髪をポマードでオールバックに決めて口髭を生やし、如何にもできる男を体現したかのようなオーラを全身から放っていた。


 なけなしの金でチップを手に入れたハリーがゆっくりとテーブルへ向かうと、ディーラーと勝負していた三人の客たちの悲鳴や怒号が上がった。彼等はディーラーに敗れて本日の持ち金を持っていかれたらしい。


 ディーラーは満面の笑みを浮かべ再戦を促したが、客たちは興を削がれたのかテーブルを離れた。ハリーはチャンスとばかりにディーラーの前の椅子に腰かけた。



「随分羽振りがいいな、ジム」


「ハリー・ライナスか。君が此処に来るなんてどういう風の吹き回しだ?」


「あんたの知っている情報が欲しい」


「情報?」


「ケヴィン・モルトシオネのことだ」



 ケヴィンの名前を聞いた途端、ディーラーのジムの顔付きが変わった。その表情は言ってはならない言葉を言ってしまったような緊張感と焦燥感が滲み出ている。



「…知らないな」


「…嘘だね。あんたはケヴィンについて何かを知っている」


「そんなこと証明できるのか?証明できたとしても君に話す義理はない」



 ジムがシラを切ろうとすると、ハリーはジムの前にチップを出した。ジムが怪訝な表情を浮かべる。



「何の真似だ?」


「ポーカーで勝負して俺が勝ったら知ってる情報をよこせ」


「君が負けたら?」


「…俺をプレッティーノ・ファミリーに引き渡せ」


「何故だ?」


「奴等の構成員を殺したのさ。恐らく血眼になって犯人を探しているはずだ」



 ジムは顎に手を当てて少し考えると、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。先程の客たちに向けた愛想笑いとは真逆である。どうやら此方が本性のようだ。



「取引成立だな」


「…やれやれ身の程知らずほど怖いものはないな。君とは長い付き合いだが、余計なトラブルは避けたいのでね。覚悟したまえ、ハリー」



 ジムは新品のトランプの封を切ると丁寧にカードをシャッフルしてハリーに手札を配った。

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