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第16話 ジョーカー

 アリアはマリアの部屋を出るとシャワーへと向かった。途中キッチンにいるハリーの近くを通ったが、先程のことを聞くことは避けた。


 ハリーは気持ちを切り替えてコーヒーを淹れるとアリアがシャワーを浴びている合間にソファで新聞を読んだ。しかし記事の内容に大したものはなく、アリアのいうグランシステリア王国に関する情報も見当たらなかった。

 トントは疲れたのか自分の寝床で丸くなって寝ている。



「シャワーありがとう。お陰でサッパリしたわ」



 アリアがマリアの服に着替えてリビングに戻ってきた。頭にはタオルを巻いており、汚れもスッカリ落ちて昨夜とは見違えている。



「…驚いたな」


「何が?」


「いや、全く印象が変わったからさ…」


「プッ、見とれたの?」


「…まー、あんたが高貴な生まれというのが、何となく納得できる佇まいだ」


「それはどうも」



 アリアは満更でもない笑顔を見せて、ハリーの横に座った。ハリーは新聞紙を前の小さいテーブルに投げるとアリアに向き直った。



「さて唐突ですまないが、あんたが来たというグランシステリア王国に関して教えてくれないか?」


「どうして?」


「俺の尋ね人を探す上で色々と知っておきたいんだ。如何せん情報が少なすぎてね」


「大したものじゃないけど、いいわ」



 アリアはハリーの色々な質問に対し、丁寧に答えた。そしてグランシステリア王国に関する幾つかの情報を得られた。


 グランシステリア王国は500年前から続く王制であり、首都は王国名と同じグランシステリア。


 元々は農業国家だったが、蒸気機関と電気が発明されてから、ここ数十年で一気に近代化が進んだのだという。写真や電灯、蒸気機関車はあるらしいが、自動車やラジオをアリアは知らなかった。その辺はメトロポリスにはまだ及ばないようだ。ただし競馬場や遊園地、カジノなどはあるので遊興施設は充実しているらしい。


 公用語はグランシステリア語。しかし発音や文法、単語はほぼ英語と同じであり、アリアは此方の言葉をすぐに理解できたという。

 通貨はバル。バルはドルに比べるとレートは低いようだ。ということはアリアの提示した金額もメトロポリスのレートに直すと安いのか…?


 アリアら王族や貴族階級には男女問わず軍役があるらしく、アリアもある程度の戦闘訓練を受けていたという。なのでピストルの扱いも手馴れたものだったらしい。



「しかし、変な話だな」


「何が?」


「それだけ文明が進んでいるのにメトロポリスや先の大戦を知らないなんて」


「私だって言葉は通じるのにグランシステリア王国を知らない方が衝撃だったわよ。グランシステリア王国が存在してないなんて、まるで別の世界に来たみたい…」


「あながち嘘じゃないんじゃないか?あんたは

 別の世界からメトロポリスに飛ばされてきた」


「バカみたい」



 アリアは溜め息を付いてハリーの推測を否定した。ハリーはやれやれといってカップに残っていたコーヒーを飲み干す。



「ところで話は変わるが、あんたは俺の尋ね人の顔を知っていたんだよな?」


「ええ、去年の今頃王国のカジノで見かけたわ。異国風な感じで印象に残ったのよね」


「…カジノ。ケヴィンが出入りしていた…」


「彼、ケヴィンっていうの?カジノじゃ別の名前だったから知らないけど」


「別の名前…?」


「ジョーカー」


「へ?ジョーカー?トランプの?」


「確かそうだった」


「カジノ…か」



 ハリーはアリアの話を聞いて少し考えると立ち上がった。そしてコートと帽子を被って外出しようとする。



「何処へいくの?」


「一縷の望みだが、街外れの賭場へいく。ケヴィンのことを知っている奴がいるかもしれない」


「私もいくわ」


「ダメだ」



 ハリーはアリアを制した。昨夜の一件から余計なトラブルに巻き込みたくないとハリーは説得するとリボルバー拳銃をテーブルに置いた。



「一応護身用に置いてく。あと武器を持っていると賭場に入れないんだ」


「…分かったわ。気をつけて」


「ああ。拳銃は無闇に発砲しないでくれよ」



 ハリーは冗談をいうとアリアは少し膨れたが、すぐに笑顔に変わった。ハリーはアパートを出るとダウンタウンの外れにある賭場へと向かった。


 そしてハリーの後を二人の男が付けていた。一人はくすんだコートに身を包んだ初老の男、もう一人は黒髪の眼鏡を掛けた若い男だった。

 ハリーは男たちの尾行に気づくことなく歩を進めていた。

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