第25話 『嫌がる演技』
『着替えが終わったら、店の裏に来い』
バイトが終わり、俺は佐藤沙耶にRINEを送った。
待つこと10分。
薄暗い路地裏に、佐藤沙耶が現れた。
「な、なんですか?」
佐藤は体を縮ませて、ビクビクしていた。
その小動物のような仕草は、俺の嗜虐心を大いに刺激した。
「なぁに、お前にご褒美をやろうと思ってな」
佐藤沙耶が俺のことを想っているのは明白だ。
だって、どうでもいい男に、毎日せっせと弁当を差し出したりしないだろ?
俺は佐藤に顔を近づけ、ご褒美のキスをしようとした。
「ひっ! な、なにするんですか!」
意外にも、佐藤は顔を背けたのだ。
恋愛の駆け引きってやつか?
処女のくせに生意気なやつだ。
「避けるなよ、うぜぇな」
俺は佐藤の肩を強く掴み、強引にキスを迫った。
「いや! やめてください!」
佐藤はあくまで拒絶する演技を続けるらしい。
それから何度俺が顔を近づけても、佐藤は頑なにキスを拒んだ。
俺はイラついた。
わたしはそんなお軽い女じゃありませんってか?
底辺如きが一人前に自己主張してんじゃねぇよ。
生意気なんだよ、豚のくせに。
腹が立った俺は、佐藤を力一杯壁に押し付けた。
力の差は歴然。
なんしろ身長差が30センチ近くだからな。
「テメェ、人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって。いい加減にしねぇと、ブン殴るぞ?」
「ひっ……」
俺はドスの利いた声で、殴る振りをした。
もちろん本当に殴るつもりなんて微塵もない。
これはただのポーズだ。
佐藤へ口実を与えるためのな。
これなら言い訳もできるだろう。
〝殴られたくないから仕方なく〟ってな。
ったく。
手間のかかる女だぜ。
佐藤は抵抗を止めて、ギュッと目を閉じた。
ようやく自分の気持ちに素直になれたわけだ。
それもこれも、俺の機転のおかげだな
それから俺は、佐藤沙耶のやわらかい唇と、豊満な胸を思う存分堪能した。
佐藤も俺との情事をたっぷり楽しんだだろうさ。
その日から、バイト終わりの佐藤との店裏での密会は、恒例となった。
最初は抵抗していた佐藤も、今ではすっかり従順になっている。
かといって、学校での俺の佐藤への態度が変化することはない。
昼飯を教室で食べることは許さないし、罵倒以外の言葉を投げかけることもない。
あくまで俺と佐藤は、以前と変わらず主人と奴隷の関係だ。
俺は居酒屋のバイトに行くのが楽しみになった。
まぁ楽しみなのは、バイトが終わってからだがな。
バイト終了の22時に近くなると、激しく勃起して困るほどだった。
散々胸を揉み、キスをしておきながら、俺は佐藤と最後までヤル気はなかった。
だって、初めてが底辺女なんて、はずかしいだろ?
まぁ、イケてる彼女が出来て、そいつ相手にバッチリ童貞を捨てた後なら、お情けで抱いてやってもいいがな。
そして時は過ぎた。
∮
11月の上旬。
俺は、いまだ彼女を作らないでいた。
勉強やバイトで忙しくて、そんな暇はない。
……いや。
それは、違うな。
彼女を作る気が起きなかったんだ。
どんな女を見ても、心が動かない。
元カノの雨宮麗華に対しても、今ではどうでもよかった。
雨宮と別れた直後は彼女を作るきマンマンだったのに、どうしちまったんだろうな、俺は。
まぁ、いいか。
焦らなくても、星の数ほど女はいるからな。
そんな俺は、いつものように、居酒屋でホール(※接客)の仕事についていた。
当然、佐藤沙耶も一緒だ。
俺がバイトのときは、同じシフトに入るように命令しているからな。
別に俺が佐藤と一緒にいたいからじゃない。
ただ単に、奴隷を目の届くところに置いておきたいからだ。
佐藤も同じ気持ちのはずだ。
だって、それが奴隷としての佐藤の、そして、主人としての俺の責務だろ?
19時になり、一気に客が増えてきた。
さぁ、忙しくなるぞ、身構えたとき、
カラン、カラン。
入り口のドアにつけた鐘が鳴った。
「いらっしゃいま……」
反射的に声を上げ……そして硬直した。
入店してきたのは、182cmの俺より大柄で、眼光の鋭い男だった。
「よぉ、ひさしぶりだな、坊主」
男は俺を見て、平坦な口調で、そう言った。
その態度で、俺は察した。
こいつは、俺がここで働いていることを知った上で来やがった。
だが、どうして、こいつがここに?
いったい、何をしに来た?
俺は警戒するように立ち尽くしていた。
「何突っ立ってんだ。さっさと席に案内しろよ」
ニヤけて立つ男の名は、山﨑真也。
二ヶ月前に俺を半殺しにした男だった。




