第20話 『クズ男、バイトの面接に行く』
うちの高校ではアルバイトをするにあたって、許可証というものが必要となる。
それには、親の同意書が必要だった。
「もちろん、いいわよ。さ、書類を出しなさい」
母さんは二つ返事で書類に署名捺印してくれた。
おかげで、許可証は無事に入手できた。
書類を渡す際、担任の佐竹にすごい顔で睨まれたがな。
そして、俺は面接に出向いた。
目的の店はすぐに見つかった。
古風な木造の店で、大きな看板に『創作居酒屋〝彩〟』とある。
俺は暖簾の奥にある引き戸を開けて、元気に挨拶した。
「初めまして! 面接に来た大倉と申します!」
すると店員らしき、20代の女性が、
「店長ぉぉぉっ! なんか面接に来たみたいですよぉぉっ!」
と、厨房に向かって叫んだ。
すると、すぐに奥から男が現れた。
「おお、待ってたよ。大倉くんだね? さぁ、奥の事務所へ行こうか?」
「はい! よろしくお願いします!」
俺は背筋を伸ばして、店長と呼ばれた40代くらいの男に着いて行った。
「じゃあ履歴書をもらおうか」
「はい!」
店長は、俺の履歴書を見ると、びっくりした顔をした。
俺が一流進学校の生徒だからだろうか?
まさか私立の高校生がバイトに来ると思わなかっただろうな。
だが、店長が驚いたポイントは少しだけずれていた。
「大倉くんは、江陽東高校の二年なのかい?」
「はい、そうですけど……」
「二年って、まさか二年一組じゃないだろうね?」
「え? どうして、それを?」
「実は……」
店長が何かを言いかけたその時、明るい声が聞こえた。
「ただいまぁ! 遅くなってごめんね! すぐに用意するから!」
それは聞いたことのある声だった。
だが俺の知ってるそいつは、こんなに明るい声を出さない。
俺が振り返ると……いた。
俺の顔を見て、硬直するそいつは――佐藤沙耶。
俺が〝佐藤豚〟とイジメている女だった。
マズい。
俺がこいつをイジメていると知られたらどうなる。
そんなの決まってる。
雇ってもらえるはずがない。
考えうる限りで最高の条件なのが、この居酒屋だ。
ここで雇ってもらえないことは痛すぎる。
「おお、沙耶、おかえり! こちらバイトの面接に来た大倉くんだ。って知ってるか。大倉くんは、沙耶と同じクラスだってな?」
頼むから余計なことを言うなよ……。
俺は佐藤沙耶に、目で訴えた。
すると佐藤は、明るい口調でこう言ったのだ。
「え? バイトの面接って大倉くんだったの? もしかして、わたしの家って知らなくて応募したとか? そうだとしたら、ものすごい偶然だね!」
しめた! 俺はそう思った。
佐藤の言葉で、俺はピンと来たのだ。
こいつはイジメられていることを、親に隠している。
「え? 佐藤さん? ここは佐藤さんの家だったの? 全然気づかなかったよ! すごい偶然だね!」
「やっぱり二人は知り合いだったのか。これは運命みたいなものだな。よし、採用だ! で、大倉くん。来週の月曜日から出てほしいんだが、大丈夫かな?」
「ありがとうございます! もちろん大丈夫です!」
「よしきた。これからよろしくな、大倉くん。オレのことは店長と呼んでくれ」
「はい、店長! ――佐藤さんも、これからよろしくな!」
俺は後ろを向いて、ニヤリと佐藤へ笑いかけた。
「こちらこそ、よろしくね。大倉くん……」
佐藤は引き攣った笑顔で答えた。
バイト代が出て、しかも賄いと奴隷付きときた。
天国かよ、と俺は思った。
実際に、それからは最高だったな。
ある時期まではな。




