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第2話 『クズ男の小学校、中学校時代』

 


 ∮



 さて、いかがだっただろうか。

 我が事ながら、実に微笑ましい日常の光景だ。


 小さい頃、誕生日には母の『サプラーイズ!』が恒例だった。

 物心ついた頃からずっとだ。

 俺は母のその言葉が好きだった。

 本当に大好きだったんだ。

 小学校6年生までは……。


 小学6年に上がった時、俺はちょっとしたイジメを受けた。

 初めてクラスメイトになった男子が俺に絡んできたのだ。

 それも執拗に。

 そいつの名は、古波蔵和道

 古波蔵は、どこぞのボンボンだった。

 見た目や話し方、そのすべてがいけ好かないやつだった。


 どこから聞いたのか、古波蔵は俺の母親の職業を知っていた。


「おい、大倉! お前の母ちゃんは〝水商売の女〟だってな!」

「おい、大倉! お前の母ちゃんは毎晩男に股を開いてるんだろ? 汚ねぇ女だな!」

「おい、大倉! お前は父ちゃんはいないんじゃなくて、誰かわからないだけなんだろ!? ギャハハ!」


 そんな言葉を、会うたびに言われた。

 それどころか、もっと汚い言葉を浴びせかけた。


「いんばい」だの「やりまん」だの「ちつどかた」だの。


 俺だって、最初はムキになって否定していた。

 だが、不思議なものだ。

 言われ続けるうちに、段々と考えが変わってきたのだ。


 ――もしかして、こいつの言っている通りなのかも……と。


 そして、さらに言われ続けると、俺はこう考えるようになった。


 ――俺の母親は、体を売ってる汚い女だ。


 妙なことに古波藏は、三学期になると、母さんのことを何も言わなくなった。

 それどころか、俺に話しかけることすらなくなっていた。

 だが、時すでに遅し。

 中学に上がる頃になると、俺は母親のことが大嫌いになっていた。

 ちなみに、古波蔵だが、こいつは別の中学へ行った。

 私立の金持ち中学だそうだ。


 公立の中学校へ進んだ俺は、反抗期も重なってか、家庭内で荒れに荒れた。

 母親の言うことなんて、絶対に聞かなかった。


「正広、あなた何時だと思ってるの!」

「うるせぇ、ババァ! テメェだって毎日午前様じゃねぇか!」


 そんな口論は日常茶飯事だった。

 あまりに母さんがうるさいとき、俺は手を上げた。

 暴力を振るったのだ。

 たった一人の母親に。


 俺の体は平均よりかなり大きかった。

 中学一年の冬には、俺の体は母さんより大きく、重くなっていた。

 母さんの作るバランスの良い食事のお陰だ。

 そんな恩も俺は忘れていた。

 少しでもイライラすると母さんを殴った。

 蹴った。

 物を投げつけた。

 そんな俺の理不尽な暴力を、母さんは黙って耐えていた。


 そして中学二年の9月9日。

 俺は14才の誕生日を迎えた。

 前もって母さんから何が欲しいか聞かれていた。

 俺はぶっきらぼうに「サバイバルナイフ」と答えた。

 そのころ、男子の間で、サバイバルごっこが流行っていたのだ。

 ある映画の影響だ。

 友人の一人が映画に出ていたのと同じナイフを持っていた。

 羨ましかった。

 ナイフを持つ友人が、大人っぽく見えた。

 強そうに見えたんだ。


 目覚めた俺は、枕元にプレゼントがあるのを見つけた。

 それは小さな箱だった。


「チッ!」


 舌打ちして、手にとって見ると、明らかに軽い。

 お目当てのナイフじゃないのは明白だ。


「クソババァが! こんなのいらねぇよ!」


 中身を見ずに、俺は箱を踏み潰して、ゴミ箱に投げ捨てた。

 よくわからないが、それは万年筆だったと思う。

 恐らく高級品だ。

 それが現金以外で、母からの最後のプレゼントだった。

 いや。

 違うな。

 それは正確じゃない。

 正しくは、最後から二番目の、だな。

 最後のプレゼントは、いま俺の目の前にあるのだから。


 ともかく、それから誕生日には、現金をもらうようになった。

 ちなみにサバイバルナイフを買ってくれなかった理由だが、

 使用目的のわからない刃物は怖いから、だそうだ。

 それを使って自分が怪我をしたり、誰かを傷つけると思ったのだろう。


 ふむ?

 そう考えると、今の状況は納得だ。

 だからこそ……ってわけだ。

 ハハハ。

 やっぱり、母さんにはかなわないな。

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