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第14話 『取られちゃうわよ?』

 次の日の金曜日。

 朝起きると、違和感があった。

 目が開かないのだ。

 鏡を見る。

 驚くほど顔がパンパンに腫れ上がっていた。

 昨夜のことを思い出す。

 山﨑真也。

 俺を殴りまくった男は、まだこの家にいるのだろうか。


 恐る恐る階段を降り、リビングに入る。

 母さんがいた。

 何かを飲んでいる。

 いつもの光景。

 匂いからして、コーヒーではない。

 あの男は……見当たらない。

 だが、油断はできない。

 また隠れているのかもしれない。


 すると母さんが俺に気づいた。

 こちらを向き、ニコリと笑った。


「あら、おはよう。随分とマシな顔になったものね。まぁ私も人のことは言えないのだけど」

「あいつは……?」

「まずは挨拶、でしょ?」

「お、おはよう」

「こんな基本もできないようじゃ、先が思いやられるわね。真也くんは、とっくに帰ったわよ」

「あいつは……母さんの彼氏なのか?」

「真也くんが? まさか! でも、これからは余計な詮索はしないでちょうだいね。私のプライベートは、あなたには関係ないんだから」

「…………」

「返事は?」

「……わかったよ」

「それで学校はどうするの?」

「こんな顔で行けるわけねぇだろ……」

「それもそうね。私もこの顔じゃ出勤できないし、お互い、二、三日は自宅待機ってことかしら。明日が休みでよかったわね、あと休むなら自分で連絡なさい」

「……飯は?」

「ご飯はあるけど、あなたの分はないわね」

「金か? 金を払えば作ってくれるのかよ?」

「……まだ勘違いしてるようね。私はお金に困ってるわけじゃないの。ただあなたの母親でいることが嫌になったのよ」

「…………」

「はぁ……金を払えばご飯を作るのかって? いくら積まれても、あなたには絶対にご飯を作らな……いいえ、最後の晩餐なら作ってもいいわ。それ以外はお断りよ」


 母さんのため息。

 確固たる意思表示である〝母さんのため息〟が出た以上、この言葉は絶対だ。


「……飯を買ってくる」

「そう、いってらっしゃい」

「……いってきます」


 そうして奇妙な共同生活が始まった。

 母さんはいつも通りだった。


 いつも通り料理をした。

 いつも通り掃除をした。

 いつも通り洗濯をした。


 ただ俺の分の家事をしなくなっただけだ。

 俺の方はというと、

 コンビニで飯を買わなくなった。

 スーパーの弁当のほうが安いからだ。

 コンビニだと500円する弁当がスーパーだと、300円で買える。

 しかも、19時になると、さらに値引きされるのだ。


 俺は安くなった弁当や総菜を買い込んで、冷蔵庫に入れた。

 冷蔵庫の俺が使えるスペースは限られている。

 真ん中にある一段だけだ。

 それも新しいルールとして加えられた。


 今の状況を確認する、

 今までの貯めたお年玉貯金と財布の中身を合わせると、32万5836円だ。

 月一万もらっていた小遣いは残っていない。

 雨宮麗華とのデートで散財したのだ。

 こうなると、誕生日に貰った3万円はありがたかった。

 つまり、全財産は約36万円。

 これが多いのか、少ないのか俺にはわからなかった。


 携帯はプリペイド式のものを購入した。

 同意書が必要だったので、恐る恐る母さんにお願いした。

 意外なことに、母さんはあっさりと同意書にサインをしてくれた。

 これでなんとか携帯を確保できたわけだ。

 俺は、データを移すために、古い携帯を少しの間だけ貸してほしいと、母さんにお願いをした。


「ダメね」

「はぁ? なんでだよ!」

「あの携帯は私の名義で購入したものよ。そして私が毎月の料金を支払っていたの。つまり完全に私のものなの」

「ちょっと貸すくらいいいだろうが!」

「お断りよ」

「ぐっ……」

「あら、その手は何かしら? また暴力? いいわよ。どうぞ、おやりなさい。ただし、さらに店を休むことになったら、その分の損害も、あなたに補償してもらいますから」

「くそっ……わかったよ……もういい……」


 諦めて部屋に戻ろうとした俺に、母さんが気になることを言った。


「可愛い子ね。麗華さんって」

「……見たのか? 携帯の中を?」

「私のものをどうしようが勝手でしょ? でも気をつけてね」

「は? 何をだよ?」

「あんなに可愛い子。放っといたらすぐに取られちゃうわよ?」


 母さんがニコリと笑った。

 ゾクッ。

 途端に背筋に悪寒が走った。

 あれは母さんが何かを企んでいるときの笑顔だ。

 子供の頃、誕生日に〝サプライズ〟を仕込んでいたときの笑顔と同じだったのだ

 。

 とてつもなく嫌な予感がした。

 そして、その予感はすぐに現実のものとなった。


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