第13話 『反撃』
「そういえば、お腹が空いたわね。真也くんも食べていくでしょ?」
「瑛子さんの手料理ですか! ぜひお願いします!」
「うふふ、それじゃ張り切って作っちゃうわね。あ、正広はもういいわよ。部屋に戻るなり、ご飯を買いに行くなり好きにしなさい」
「……はい。失礼します」
俺の飯はどうやら無いようだ。
腸が煮えくり返るのを表に出さないようにして、俺は部屋に戻った。
そして携帯を手に取ると、大量のRINEメッセージを無視して、あるところへ電話をかけた。
あいつら、ただじゃおかない。
そして、10分ほど経過した頃、家の呼び鈴が鳴った。
来た!
俺は階段を降りると、玄関に俺の呼んだ人物達が立っていた。
二人の警察官だ。
先程の俺は、警察に通報をしたのだ。
俺への暴行を訴えるためである。
今度は母さんが警察署へ連れて行かれる番だ。
示談になんてするもんか。
なめたことをしやがった報いを受けさせてやる。
俺を殴った男と一緒に刑務所に入りやがれ。
「助けてください! 俺は殴られたんです! そいつらです! そいつらが犯人です!」
俺は涙ながらに訴えた。
半分は演技で、半分は本気だ。
「はははは! お前らは、もう終わりだよ! 地獄に落ちやがれ、この犯罪者ども!」
勝ち誇る俺を、警察官はオロオロとした表情で見つめる。
男と母さんは余裕の態度だ。
なんだ?
警察は、どうして、こいつらを逮捕しない?
すると母さんが、どこかへ電話をかけ始めた。
「……もしもし、あ、孝太郎さん? 夜分遅くにすみません。はい、瑛子です。……えぇ、……えぇ。それで、息子の件で通報が入っちゃったみたいで……えぇ……はい。じゃあ変わりますね」
母さんが、警官の一人に携帯を渡す。
おっかなびっくり受け取った警官が、携帯を耳に当てる。
瞬間、背筋をピンと伸ばした。
「こ、小橋署長でありますか!? す、すみません! ……はい。……はい。――りょ、了解しました! 失礼します!」
警官は頭を下げて、携帯を母さんに返した。
「それでは事件性は無しということで、上には報告させていただきます!」
警官がビシッと敬礼をした。
「はい、ご苦労さま。ごめんなさいね、わざわざ来てもらったのに」
「いえ、失礼します!」
呆気にとられる俺を置き去りにして、警官たちは帰っていった。
残された俺を、男と母さんが見つめている。
「あ、あの……俺……」
「そういえば、携帯を持たせたままだったわね。というわけでもう一つルールを追加させてもらうわ。携帯は没収よ」
俺は手に持った携帯を思わず握りしめた。
この中には友達や恋人の連絡先。
そして彼らとの今までのやり取りが、すべて入っているのだ。
言うなれば、俺の今までの人生そのものだ。
それを奪われる?
冗談じゃない!
「ふざけんな! 絶対渡さねぇぞ!」
当然そんな要求が通るはずはない。
さらにしこたま殴られた俺は、あっさりと携帯を奪われた。
どうやら母さんは警察の上層部に顔が利くらしい。
国家権力である警察は、俺の助けにはならないのだ。
なんだなんだ。
母さんは普通の主婦じゃなかったのかよ。