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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
二章 新人探索者
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2-30 祝勝会




「よし、それではレオン君たちの洞窟エリアの攻略を祝して乾杯しましょうか。みなさん、おめでとうございます!」


「かんぱーい!」


「おめでとう」


「ありがとうございます!」



 オットマーの音頭に合わせて皆がジョッキを掲げる。

各々が好き勝手にしゃべっていたためあまり統一感のない乾杯となってしまったが、こうしてレオンたちが洞窟エリアを攻略した祝勝会……という名のただの飲み会が始まった。


 メンバーはレオンたちのパーティー三人と金ランク探索者のカレン、そして探索者ギルドのナターリエとその上司にして財布役のオットマーであった。


 場所はギルド御用達の酒場で個室を一室借り切っていた。


レオンたちの宿である笑う白熊亭でも貸し切りで祝ってくれるとの申し出があったのだが、あそこの食堂は見た目に反して高級店だ。さすがにそれは申し訳ないと思い断った。

 だが店主夫婦であるヨーゼフとヨハンナとしても、同郷出身でアルバイトとしても雇っていたイリーネのことはかなり心配していたようだ。

 そのため銀ランクに昇格した時こそは、必ず店で祝勝会をするようにと約束をさせられてしまった。


 ちなみにイリーネは現在、既にアルバイトを辞めており宿代もきっちり払っている。

ただ今までの恩返しとして、冷却魔法を使って食材の保存や氷づくりには定期的に協力しているようであった。

 



「いやいや、しかし本当に驚きましたね。失礼ながらレオン君たちのパーティーがこれほど早く洞窟エリアを攻略するとは思いませんでした。過去最速とは言いませんが、クラン所属のパーティーと比較してもかなり早い方ですよ」


 そう言ってレオンたちを手放しで称賛するのはオットマー。

しかし彼は本来、レオンの知り合いの中では最もその実力に懐疑的な人物であった。そのためレオンが探索者になるのにも当初は反対していた。

ただそれは探索者ギルドの職員としての経験からくる忠告であって、決して馬鹿にしていたわけではなかった。

つまり純粋に心配したうえでの反対であったので、レオンとしても別に不快に感じることはなかった。

 むしろ相手に嫌がられても率直な忠告が出来る、誠実な人物という印象の方が強かった。


 そのためそんなオットマーから褒められることは、レオンにとっても非常に嬉しいことであった。


「ありがとうございます。でも今回は本当に相性がいい相手を選んだだけなので……。何より攻略できたのは二人のおかげですしね。本当にいいパーティーメンバーに恵まれました」


「そ、そんなことないですよ」


「セフィ本人はこんな風に言っていますが、シールドリザードを正面から一人で抑え込める前衛なんてそうはいないですよね?」


「ええ、普通は二、三人で囲んで牽制しながら戦いますから……それが出来たなら本当にすごいことですよ」


「うん、銀ランクでも出来ない奴は多いと思う」


 レオンに褒められて謙遜するセフィであったが、カレンやオットマーにも褒められて照れ笑いを浮かべていた。


「それに攻撃面ではイリーネが居ましたからね」


「えっ、わたしも?」


「うん、シールドリザードを五分ちょっとで倒しきれたのはイリーネがいたからだよ」


「あのシールドリザードを五分程度で討伐ですか、しかもたった三人で……」


 シールドリザードは防御力も高いが、非常にタフな魔物でもある。それを短時間で倒すというのはなかなか出来ることではなかった。


「確かに普通じゃ無理ね、シールドリザードってなかなか死なないみたいだし……。それにしてもシールドリザードの動きが寒さで鈍るなんてよく気付いたわね」


「トカゲって寒くなると全然動かなくなるって聞いたことがあったので、もしかしたら通じるかもって思いまして……」


 これはレオンとしては当然の知識であったのだが、この世界では常識ではなかったらしく説明した時は随分と驚かれることとなった。


 この世界ではそれほど科学は発達していない。

そのため恒温動物と変温動物の違いについてはほとんど知られていなかった。もしかすると学者などには知られているのかもしれないが、少なくともレオンは探索者界隈でそのようなことは聞いたことがなかった。


 また魔法にしても属性によって効き目が変わるといことが、整理された知識としてあまり周知されていなかった。

 なぜならこの世界では相手に応じて属性を使い分けるということが難しいからだ。こういった特徴のある属性攻撃などこの世界の人間は持っていても一つだけ。どれほど多くても二つが限界だ。

 そのため個人で属性を使い分けるという人間はほとんどいないし、あえて違う属性の人間を集めてパーティーを組んだというのも聞いたことがない。

 むしろ同じような属性の人間を集めて、火力を上げる方が推奨されていた。


 そのため属性による効き目の違いなど、植物系の魔物は火を嫌がるだとか、雪原の魔物には氷が効きにくいといったところがせいぜいであった。


「なるほど……。それで動きを鈍らせてからブレードを連発して削っていくわけですか。確かにシールドリザードからするとイリーネさんは天敵だったでしょうね」


「でもそれはレオン君が戦い方を考えてくれたからだし……。私なんて前のクランではずっと足を引っ張っていたんですよ」


「そう、それよ!レオン君もまたよくそんな戦い方思いついたわね。水をかけて冷却魔法使ったり、付与ギフトなのに遠距離攻撃に専念したり……。確かに聞いてみると理にはかなっているんだけど」


「それこそ弱者の知恵ってやつですよ、俺の場合はそういったことを考えないと生き残れないので……。それに今回は本当にたまたま思いついただけなんですよ。冷却魔法の使い方なんてむしろ自分のギフトの活かし方を考えていたところにたまたまイリーネが来てくれたって感じです……」


「それでも私はそんなこと思いつかなかったし、戦えるようになったのもレオン君のおかげだよ。まさか私がエリアボスと戦って役に立てるなんて夢にも思わなかったんだから」


 そう言って嬉しそうに笑うイリーネ。どうやらクランに所属していたころのトラウマはかなり解消されつつあるようであった。


 ちなみにイリーネの新しい戦い方についてはナターリエたちにも話していた。

本当は秘匿しようかとも思ったのだが彼女のようなデュアルギフトは少ないしどうせそのうちバレる。それなら同じような苦労をしている人にも教えてあげたいというイリーネの希望を優先した形であった。


「確かに戦い方は俺のアイデアだけど、戦えているのはイリーネに遠距離アタッカーとしての資質があったからだよ。それを前のクランが読み違えただけの話だからイリーネはもっと自信を持ってもいいと思うよ」


「うん、ありがとう。私もこれからも頑張ってみんなの役に立てるように強くなるよ」


「そうですよ、私たちもまだまだこんなところで満足してちゃ駄目ですしね」


 そう言って笑い合うセフィとイリーネであったが、そこにカレンが爆弾を落とす。


「その通り。レオンには早く三階層に来て私の手伝いをして欲しい」


「えっ、三階層って……金ランクですか!?な、なるべく早く行けるように頑張りはしますけど……」


「さすがにそれはちょっと……」


 お茶の木の栽培は現在色々なエリアで行われているのだが、やはり基本的には高地の斜面が一番栽培には適しているようであった。

 そのため迷宮の外でも高地を利用しての栽培が実験的に行われているのだが、今のところ一番品質が高いとされているのは、やはりダンジョン内の山地エリアで採れる茶葉であった。


 ただし、山地エリアは迷宮の三階層にある。そのためそこに足を踏み入れるには金ランクの探索者になることが必要なのであった。


「そういえばカレンさん、抹茶の栽培の方はどうなんですか?」


「なかなか難しい。もし良さそうなのが出来たらまた呼ぶから試飲して」


「わかりました、楽しみにしておきますね」


「おお、新しいお茶ですか。たしか緑茶の一種とのことでしたが、私は煎茶も好きでしたし楽しみですね」


「そっかぁ。でも私は紅茶の方が好きだからちょっと残念だなあ」


 現在カレンが新しく研究しているのは抹茶。

その完成に期待して目を輝かせるオットマーであったが、一方で甘いものが好きなナターリエの反応は薄かった。

 だが現代日本人であったレオンにとって、抹茶はどちらかというとデザートでこそ輝くイメージで強い。

そのため実物が出来た時、ナターリエが手のひらを返すのではと密かに楽しみしていた。


 ただ抹茶の開発は今までのお茶の開発とは全く違う。

 カレンは独学で紅茶の開発に成功してレオンと出会い、その漠然とした知識を得てからさらに研究を重ね、烏龍茶、そして緑茶の製造も成功させていた。

しかしこれらのお茶は基本的に発酵の度合いが違うだけなので、加工する工程を少し変えればよく、わざわざ収穫する前の茶の木に手を加える必要などなかった。


 だが緑茶の一種である抹茶や玉露を製造する場合は、収穫をする少し前に茶の木に覆いを被せて日光を遮り、成長の仕方を変える必要があった。

 そのため今までのお茶の開発とは勝手が違い、カレンもかなり苦戦しているようであった。

 そもそも茶の木がどのような状態になるのが正解かも分からないため、手当たり次第やってみるしかない。そのため苦戦するのも当然といえば当然なのであった。


 そしてだからこそカレンはレオンに早く三階層に来て手伝って欲しいと思っているわけなのだが、さすがにそれはレオンにとっても容易なことではない。

 少なくとも現状の三人パーティーではまず無理だろう。

 戦力を強化する必要があるのだが、そのために個々のレベルアップはもちろん新たなメンバーの補充も必須であった。


 そこまで考えてレオンの脳裏に浮かんだのは、やはり本来は一緒に活動しているはずであった男のことであった。


「そういえばホルストさんに関しての情報はまだ入ってないんですか?」


「そうねえ……。あっちの情報も一応は入ってきてはいるんだけど……」


 ナターリエはそこまで言って口をつぐみ、チラリとオットマーの方へと視線を向けた。するとその視線を受けたオットマーが一つ頷いてから口を開いた。


「まあ部外秘ってわけではないし、レオン君たちもパーティーメンバーの安否がかかっているんだから一応は関係者と言えなくはないからね。あっちの情勢を教えても問題ないよ」


「わかりました、ありがとうございます。それじゃああっちの情勢に関して説明するね」


「あの、その前に……。そもそもフィレット王国はなんでセヴェーロ王国に攻め込んだのですか?」


 イリーネにそう聞かれてナターリエは少し答えるのをためらった。


 フィレット王国が攻め込んだ際に発表した大義名分は、セヴェーロ王国がフィレット王国に対して不当な行いをしただとか、そもそもセヴェーロ王国が不当占拠している国境付近の土地は本来フィレット王国のものだというありきたりなものであった。


 しかしイリーネが聞いているのはそんな名目上の話ではなく、フィレット王国が攻め込む本当の目的、攻めることによって得られる利益は何なのかといった話であった。

 

 ナターリエはどう答えようかとやや迷ったものの、結局はオットマーが再度頷くのを見て、仕方ないといった風に大きく息を吐いた。


「わかったわ。それじゃあ戦争になった経緯からちゃんと説明するわね。ただしこれはギルド側の推測も交えた話だから、この見方が絶対正しいわけじゃないっていうことだけは理解しておいてね」


 そう言ってナターリエはこの街の南方で起こった戦争について語り始めるのであった。


 











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