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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
二章 新人探索者
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2-29 マヌケな強敵




 ドタドタ。

 そんな擬音が似合いそうな左右に足を振り上げる間の抜けた走り方。

 大きく見開いた眼と半開きの口。

 首元でヒラヒラと揺れる襟巻。

 それはまさにエリマキトカゲそのものの。

一時期お茶の間の人気者になったのも頷けるようなコミカルな動きであった。


 しかしそいつが巨体になって、しかも自分を襲ってくるとなれば話は全く変わってくる。


「速い!!」


 後ろ足のみの二足歩行で駆けて来るシールドリザード。その走る速度は今まで戦ったどんな魔物よりも速かった。

 みるみるうちに距離を詰めて眼前へと迫って来たシールドリザードに、レオンは慌ててインベントリを展開した。


 ゴッという鈍い衝突音を響かせてそのインベントリにぶつかるシールドリザード。


しかし大したダメージはなかったようですぐさま体勢立て直し、そのインベントリに足をかけて乗り越えようとする。


 どうやら予想以上に速かったシールドリザードの勢いに少し焦ってしまい、インベントリを展開するのが早過ぎたようであった。そのためシールドリザードが減速してしまい、衝突のダメージをあまり与えることが出来なかったようだ。


レオンは舌打ちをすると、すぐさまインベントリを解除した。

 すると乗り越えようとしていた足場が急に消失したシールドリザードは、バランスを崩してそのままベチャリと地面に叩きつけられた。


 それを見たレオンは、その隙を逃さずカラーボールに入った麻痺ゼリーと毒ゼリーを投擲した。

 しかしそれに反応したシールドリザードがすぐさま襟巻を展開。硬質化したその皮膜で瞬時に身体をガードし、放たれたカラーボールを見事に受け止めてしまった。


 その反応の良さに驚きを隠せないレオン。

そんなレオンを見てシールドリザードが興奮したように「クエェッ!」と一声鳴いた。

 目を見開いて口を半開き、そして荒い鼻息。

 シールドリザードの様子がなんとなくドヤ顔をしているように見えて、レオンは少しイラッとくる。


 そんなレオンの気持ちを察したのか、満足そうな様子で襟巻をたたむシールドリザード。

しかしその襟巻には麻痺ゼリーと毒ゼリーがへばりついており、たたんでも剥がれることなくそのままぶらりと垂れ下がってしまった。

 それに気付いたシールドリザードが鬱陶しそうに首をブルブルと振る。

だがいっこうに落ちる気配がない。

 そのことに苛ついたシールドリザードはよりいっそう激しく首を振り始め、やがて狂ったように暴れ出してしまった。


 そんなシールドリザードを唖然として見ていたレオンであったが、すぐさま気を取り直してせっせと水の入ったカラーボールをシールドリザードにぶつけていく。

一方のシールドリザードはそれでも気にもとめない。

どうやらゼリーを落とすのに必死で、ダメージのない攻撃に対して関心を払う余裕がないようであった。


(なんか予定とはちがったけどとりあえず足止めには成功したかな。それにしても麻痺も毒も効いた様子がないんだけど、やっぱこのクラスの魔物になるとあんまり効かないのか?)


 そんなことを考えならシールドリザードの全身を濡らしていくレオンであったが、襟巻を地面にこすり付けていたシールドリザードがついにゼリーを剥がすことに成功した。


 息をやや荒げながら地面でこそぎ落としたゼリーを睨みつけるシールドリザード。

 その表情はどこか満足げな様子であったのだが、そんなシールドリザードの気持ちに水を差すかのように、その背後でベチャリという粘着質な音が鳴った。

 まさかと思い自分の後方を振り返るシールドリザード。

するとその視界の隅、自分の尻尾の付け根あたりに見覚えのある粘着物質が貼りついているのが見えた。

 愕然とした表情で目の前の人間を見るシールドリザード。

 その視線を悪魔のような笑顔で受け止めるレオン。


 こうしてシールドリザードと粘着物質の新たな戦いの幕が開けた。



 怒り狂って暴れまわるシールドリザードを注意深く観察するレオン。 

 今は自分の尻尾を追いかける犬のような動きでグルグルと回っているのだが、どことなくその動きからキレが失われ始めているように見える。

その原因が麻痺や毒の効果が現れ始めたせいなのか、もしくは単純に疲れ始めただけなのかはわからないが、動きが悪くなってきているのは事実であった。


(最初は想像以上の動きに驚いたけど、頭の悪さも想像以上だったな。それにしてもそろそろ援護に来てくれてもよさそうなもんだけど……)


 そう思ってチラリと後ろを振り返るレオン。


 すると後方にいた二人は唖然とした様子で、暴れまわるシールドリザードを見つめていた。どうやらシールドリザードの想定外な行動に驚き、思わず動きを止めてしまっていたようであった。

 だがレオンの視線に気付いてハッとするとようやく正気を取り戻し、あわてて動きを見せ始めた。

 セフィは急いでレオンの元へと向かい、イリーネはすぐさま冷却魔法を発動しはじめる。


 あっけにとられて初動が遅れてしまった二人であったが、どうやらそのショックのおかげでイリーネの硬さもすっかりほぐれたようであった。

 

 冷却魔法はすぐに効果を見せ始め、シールドリザードの全身を濡らしていた水が凍り始める。するとさすがにそれには気付いたシールドリザードが慌てて自分の全身を見回す。そして自分が攻撃を受けていることにようやく気付き、眼前にいる人間へと視線を向けた。


 実際に凍らせているのはイリーネであったが、その原因となる水をかけていたのは目の前にいるレオンだ。

そのためシールドリザードは、この氷は眼前にいるこの人間による攻撃だと認識する。

 実のところしっかりと集中して探っていればこの冷気の発生源はイリーネだと感じ取れるはずなのだが、少なくともこのシールドリザードにはそのような注意力はないようであった。


 怒りに目を血走らせたシールドリザードが、猛然とレオンに襲い掛かる。

 それをインベントリで受けながしながら後ろへ下がるレオン。


 そんな攻防が繰り広げられる中、セフィがようやく両者の元へと到着した。


「あなたの相手はこっちです!」


 斬りかかると同時に大声を上げるセフィ。

 するとシールドリザードは劇的な反応を見せ、すぐさま彼女の方へと向き直った。

 だが実のところこれはセフィの攻撃に反応したのではなく、彼女の発動したギフトに反応したためであった。

 発動したのは彼女の持つ武技ギフト『聖騎士の心得』に組み込まれたギフトのうちの一つ『挑発』。その名の通り相手を挑発し自分に注意を引きつける効果を持つギフトであった。

 

 ちなみに武技ギフトにはホルストの持つ瞬動のようにそれ単体で劇的な効果を発揮するものと、複合ギフト、またはジョブギフトと呼ばれている複数のギフトがセットになったものがある。

セフィの持つ聖騎士の心得はこの後者にあたり、味方を守ることに特化したギフト群であった。

そこには今回の使った挑発の他、自身の魔法耐性や身体の耐久力を上げる『鉄壁』と、大きな相手からの攻撃でも吹き飛ばされなくなる『不動』が含まれている。

 他にももう一つギフトが含まれているようなのだが、こちらはまだうまく扱えないとのことであった。


 ちなみにホルストの持つ、偵察に便利な武技ギフトというのもこの複合ギフトである。



 セフィの挑発によって注意を引きつけられたシールドリザードはレオンに背を向け、標的をセフィへと変更するとすぐさま襲い掛かった。

 前足をビンタのようにして叩きつけるシールドリザード。その勢いは凄まじくレオンが受けたならば即座に戦闘不能にされそうな一撃であったのだが、セフィはそれを正面からしっかりと盾で受け止めた。

その強烈な衝撃にセフィの顔が僅かに歪むが、彼女は怯んだ様子もなく即座に反撃を繰り出す。

惜しくもその攻撃はシールドリザードの襟巻によって受け止められてしまったが、彼女は十分にシールドリザードと渡り合うことが出来るようであった。

 一方レオンはその隙を逃さず、すぐさまインベントリからクロスボウを取り出してボルトを射出。そのボルトは狙い通りシールドリザードの背に突き刺さり、それをすぐさまイリーネの冷却魔法が凍り付かせていく。


 それを鬱陶しがったシールドリザードが再びレオンの方を振り向こうとするが、すぐさま挑発をして攻勢に出てくるセフィがそれを許さない。


 仕方なくそのままセフィの相手をするシールドリザードであったが、その背中に二本、三本とボルトが突き刺さっていき、さらにイリーネの放った飛ぶ斬撃がその後ろ足を傷つけていく。

 一方そのシールドリザードと対峙しているセフィには定期的にポーションが飛んでいき、そのダメージを回復していく。


 するとさすがのシールドリザードも、その動きを徐々に鈍らせていく。

 中でも特にその効果を発揮したと思われるのが、イリーネの冷却魔法であった。

 撃ち込まれたボルトと身体の表面に纏わりついた氷によって、身体の内外から冷却されていくシールドリザード。その体温はみるみるうちに奪われていき、その動きは緩慢になっていった。

 やはり魔物であってもトカゲということで変温動物には違いないのか、体温の低下に弱いようであった。


 動きが鈍くなるにつれシールドリザードの攻撃する頻度は減って行き、逆にセフィの攻撃頻度が増えていく。

 そしてついにその均衡が崩れる。

 最初に耐えきれなくなったのは、イリーネのブレードを受け続けたシールドリザードの後ろ足であった。

 突然ガクリと力を失った左後ろ足のせいでバランスを失ったシールドリザードは、崩れるようにして横転した。

 その隙を逃さずセフィがすぐさま襲い掛かる。

 彼女はあえて頭部を避け、その腹部に向かって斬撃を繰り出す。

 それをシールドリザードはなんとか襟巻によって受け止めようとするが、横出しの状態では上手く身体を動かすことが出来なかった。

「ギャッ!」と悲鳴をあげてシールドリザードの腹部が大きく切り裂かれる。それでもなんとか立ち上がろうとするシールドリザードであったが、その真上に押さえつけるようにしてレオンがインベントリを展開してそれを阻害する。

さらにそこへイリーネから放たれたブレードが迫る。


こうなってしまってはシールドリザードに抵抗する術は残されていなかった。


結局シールドリザードはそのまま立ち上がることは叶わずにセフィとイリーネの攻撃を受け続け、やがて完全に動かなくなった。






 




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