2-21 破竜の英傑
クラン『破竜の英傑』。
ダンジョン『頂きの迷宮』の四階層に出現し、数多の白金ランク探索者を葬ってきたと言われる竜。その竜をいつか狩れるような存在になるという誓いの元に創設されたクランである。
規模としては中規模というにはやや少ないが、リーダーのファビアン率いる金ランクパーティーを筆頭に、銀ランクパーティーが2つ、銅ランクパーティーが5つ所属している。
また人材確保にも積極的で、この規模のクランにしては珍しく、才能のある子どもたちを引き取って育成するための訓練所も運営していた。
そんなクランの拠点である建物の一室で、二人の男が話し合っていた。
「…………そうか、もう洞窟エリアをクリアしたのか」
そう言ったのはこのクランのリーダーであるファビアン。長身で肉付きの良い身体をしているが、顔立ちが比較的整っているためむさ苦しいといった印象はない。
「ああ。まだまだカラのついたひよっこどもだがこの先が楽しみだぜ。もしかしたら俺たちの後を継ぐのはあいつらかもな」
一方でもう一人の男の方は細身でありながら無精ひげを生やしており、その表情もどこか歪んだ笑い方をしているのであまり育ちが良くないような印象を受ける。
この男の名はギード。魔法系のギフトを持っており、ファビアンのパーティーにおいては遠距離攻撃役を担っていた。
「それにしても訓練所か。最初は金がかかるばかりで半信半疑だったんだが設置して大正解だったな。こりゃあお前の親父さんには足を向けて眠れねえな」
「ははは、俺も初めて自分の生まれに感謝したよ。昔はなんで三男なんかに生まれたんだって結構恨んでたんだけどな」
「ケッ、贅沢なこって……。俺からしたらガキの頃から裕福な暮らしが出来ただけでも恵まれてるとしか思えねえけどな」
ファビアンは地方都市の領主の家の生まれであった。ただし三男に生まれたため家督を継ぐことは出来なかった。
そのため残された道は兄に家臣として仕えるか家を出るかしかなかったのだが、優秀なギフトを授かり剣の才能にも目を見張るものがあったファビアンは、家をでて探索者になることを決断した。
その結果、ファビアンはこの迷宮都市ベギシュタットでその才能を遺憾なく発揮し、仲間にも恵まれて一気にその階段を駆け上がることで、自らの判断の正しさを証明することとなった。
そしてついに金ランクまで昇格し、自分たちでクランを立ち上げることとなった。
ただその時に問題となったのだが、人材の確保であった。
ファビアンたちのパーティーは才能に溢れた優秀な探索者たちの集まりであったが、別に周りの探索者たちから慕われているわけではなかった。
むしろ他を一気に追い抜いて駆け上がったこともあり、多少傲慢なところもあるメンバーもいたため、嫉妬も相まってどちらかというと好かれてはいなかった。
それでも新進気鋭のクランということもあり、加入を希望するパーティーも多少なりともいたのだが、後が続かなかった。
仮に自分たちから動いて優秀な探索者を見つけたとしても、他所のクランとのスカウト合戦に勝てる見込みもなかった。
そこで提案されたのが訓練所の設置であったのだが、これが意外と難しかった。
まず、最初の壁として立ちはだかったのが経済的な問題であった。
仮に10歳の子供を引き取って来たとしても探索者としてデビュー出来るのは6年後。それまでの間は無償で彼らを養った上に訓練まで施さなければならない。
それが一人二人ならまだしも、パーティー単位で養うなら最低でも五、六人は必要だ。さらに後進を育てるなら十人単位で養わなければならないため、非常に金がかかるのであった。
そしてさらにそれよりも難題なのが、どうやってその人材を見つけるかであった。
ギフトに恵まれた探索者候補の子供たちを集めるには、当然その鑑定結果の情報を手に入れることが出来るだけの伝手が必要だったのだ。
そこでさんざん苦労をした結果、ダメ元で頼ってみることとなったのがファビアンの実家であった。
領主の家であれば領民たちの子供のギフトの鑑定結果を手に入れるのは容易であるし、彼らの許可があればその引き抜きも問題ない。
本人は乗り気ではなかったものの、条件だけ見ればまさに理想的な人脈であった。
そこでファビアンが実家に戻り交渉した結果、いくつかの条件と引き換えにその協力をもぎ取ることに成功し、出資までしてもらえることとなった。
地方に住む領主にとっても、独自のルートで迷宮の産物を安定供給してもらえることは大きなメリットであったからだ。
交渉がまとまった半年後、早速数えで十歳になる子供たちが十名送られてきた。
他所のクランだと鑑定直後の六歳の頃から訓練所に入れることもあるのだが、ファビアンたちは六歳時点では一時金を渡して契約するだけにとどめ、十歳になってから引き取ることで領主側と合意していた。
その方がクラン側の負担も少ないし、領民側の不満も少ないと判断してのことであった。
引き取った十名を育てるのには、非常に苦労した。
ファビアンたちは一流の探索者ではあったが、人を育てた経験はない。ましてや子供に教えるとなるとその難易度は跳ね上がる。かといって人に任せることは出来ない。一流に登りつめた自分たちが教えてこそ、一流の探索者になれるだけの実力が身につくと判断したからだ。
すぐ泣く子、コミュニケーションが苦手な子、癇癪持ちの子、ガキ大将。
一人一人違った個性を持つ子供たちへの対応に苦労しながら、時間をかけてなんとか自分たちの経験を彼らに注ぎ込んでいった。
そして今年になって、ようやくその一期生たち十人がデビューしたのであった。
「それにしてもケヴィンの奴、上手くやっているようだな。昔はただの生意気なクソガキだったのが、いまじゃあのパーティーを纏めるリーダーだ。変われば変わるもんだよな」
「ああ、ケヴィンはよくまとめていると思うよ。パーティーを初めて組んだ頃の俺よりもよっぽどいいリーダーだと思うよ」
「ハハハ、お前は全然頼りになんなかったからな。だがそのための訓練所だろ。あいつらの育成にお前の経験が役にたったと思えばいいだろ」
「そうかな?それなら嬉しいんだが……。でもな……」
そこでさっきまでにこやかに話していたファビアンの表情が曇る。
それを見て彼の言いたいことを察したギードが、先回りするかのように言葉を重ねる。
「イリーネのことか?」
「ああ」
「あいつに関しては仕方ねえんじゃねえのか?ウチだって慈善事業やってるわけじゃねえんだ。いくら才能があったとしても本人にやる気がねえんじゃ仕方ねえだろ」
「別にやる気がないわけじゃないだろ?訓練だって真面目にやっていたし……」
「それでもビビッて動けなかったり、すぐテンパったりしてちゃしょうがねえだろ。それなりに時間も与えてやってたみたいだし、それでもちゃんと動けねえってんじゃ本人の覚悟が足りなかったってだけの話だろ」
「お前はいつも妙にイリーネには厳しいよな」
「は?見てたらいつもウジウジしてて苛つくんだから仕方ねえだろ。昔っから才能があるなんて言って甘やかしてきたからあんなことになるんだよ」
「うーん。それでもメインパーティーならまだしも、サブパーティーにも入れてやらないってのはやり過ぎじゃないのか?」
訓練所出身の新人は十人。そのうち六人でメインパーティーを組んで、そこに入れなかった者たちで四人のサブパーティーを組む。
当初の予定ではそのはずであったのだが、イリーネはサブパーティーにも入れてもらえず、サブパーティーの方は三人で活動していた。
「仕方ねえだろ。サブの方は人数が足りねえんだし、臨時で他所から面子を入れて人数を揃えたりしてんだ。そこにやる気のない足手まといがいたんじゃ、他所の面子からもそっぽを向かれるようになるし、うちのクランの面子にもかかわる。それに……」
「それに?」
「さっきもいったようにイリーネの奴は昔から才能があるなんてチヤホヤされてきたんだ。そんな奴が昔から才能がないなんて下に見られてきたサブ組に入って上手くやっていけるとでも思うのか?」
「…………だが、イリーネは別に見下すようなことはしていなかっただろう?」
「はあ…………。天才のおまえにゃわかんねえかもしれねえが、才能に恵まれないやつからすりゃあ、優秀だってチヤホヤされてる奴がいればそれだけで目障りなんだよ。本人の態度なんて関係ねえんだよ、嫉妬ってやつは……」
「別に俺は天才なんかじゃ……いや、すまん。なんでもない」
ファビアン自身は自分のことを天才などとは思っていないのだが、傍から見れば才能に恵まれているのは事実なのだ。
実際周りからよくそのようなことは言われてきたし、他人を見下しているなどと、いわれのない中傷や恨み言を言われたことも少なくない。
だから不本意ながらもギードのいわんとすることも理解出来てしまったのであった。
「まあそんなわけであいつは今後もサブパーティーには入れねえだろ。むしろ無理矢理入れても居心地は最悪だろうし、あいつにとっては入れねえ方が幸せなんじゃねえか?」
「だが……それなら彼女の今後はどうするんだよ」
「さあ?そこまで面倒見てやる義理もねえんじゃねえの?やる気のない本人が悪いんだしな。それにあいつ、最近は一人で鉱石の採取ばっかりしてるみてえだぞ。それなりに稼いでいるみてえだし、あいつ自身戦わなくてもいいんだ。うちにも多少なりとも金が戻ってくるんだしこのままでいいじゃねえのか?」
「それはいくらなんでも……」
ファビアンが反論しようとしたところで、部屋のドアがノックされる音が響いた。
仕方なく反論をやめたファビアンが返事をして入室を許可すると、このクランで事務員として働いている女性が入って来た。
「失礼します。レオンと名乗る銅ランクの探索者の方が数人のお供の方とともに、クラン長に面会を求めているのですが、いかがいたしましょうか?」
「レオン?聞いたことがないな。ギードは知ってるか?」
「いや、知らねえな。銅ランクの探索者ってことだし入会希望ってことじゃねえのか?」
「あの……」
ファビアンとギードが不思議そうな顔で話していると、先程の事務員が遠慮がちに話に入ってきた。
「ん、どうした?」
「そのレオンという探索者は、探索者になる以前からギルドに出入りしていて、肉坊主と呼ばれていた者です」
「ああ、あのガキか!」
「ん?ギードはしっているのか?」
それを聞いても生憎とファビアンには心当たりはなかったが、どうやらギードは知っているようであった。
「ああ、なんでも戦闘系ギフトも魔術系ギフトも持っていないくせに、チャージボアをソロで狩って来たっていう頭のイカれたガキだ。確かインベントリ持ちだったかな?一時期ギルドでも話題になってたぜ。まさか本当に探索者になって銅ランクになってるとはな」
「それはすごいな!どうやったんだろう?まさかギフトなしに魔物を狩れる剣の達人だとか?」
「さあな。本当かどうかもわかりゃしねえよ。だがそんなガキがうちのクランに何の用なんだ?まさか入会希望ってわけじゃねえだろうし……」
「わからんぞ。もしかしたらウチに入りたいって思ってるかもしれないじゃないか」
「あ、あの……」
「ん?まだ何か?」
「それが、一緒にいるお供の中にイリーネさんがいるみたいなんですが……」
「はぁ!?」
「え?イリーネが?なんでだ?」
さっきまでリラックスして話していた二人であったが、事務員の一言で二人の空気が一気に訝しげなものへと変わった。
「おい、まさかあのバカなんかやらかしたんじゃねえだろうな!」
「え?そんなこと……。それこそまさかだろ」
「わかんねえだろ!探索者として上手くいってねえんだ。ヤケになってなんかヤベえことに手を出したかもしれねえだろ!」
「そんなまさか。でもまあ……どちらにせよとりあえず話を聞いてみるしかないか」
「確かにな。気は進まねえがそれしかねえか」
「よし、それじゃあ会ってみるか。連れて来てもらえるか?」
「かしこまりました」
こうして二人は、レオンと名乗る胡散臭い探索者と面会することとなったのであった。




