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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
二章 新人探索者
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2-20 パワーオブマネー




 イリーネの持つギフト、冷却魔法のスペックについてはだいたい理解することが出来た。


イリーネ曰く『あまり使い道のない魔法』とのことであったが、レオンがその性能を聞いてみた抱いた感想は、少なくともこの魔法さえあれば食うのに困ることはないだろうというものであった。

 それに戦闘でも全く使えないということはない。

上手く使いこなすことが出来れば、それなりに有用な魔法だと思われた。


 ただそれだけでやっていけるかといえば、それも微妙なラインではあった。



「じゃあもう一つのギフト、付与ギフトの方も聞いていいかな?」


「うん。でもこっちも大したことはないよ。力属性の付与でエッジとブレード。あと一応バーストも使えるんだけど……」


「凄いじゃないですか!バーストを使える人って初めて会いましたよ」


「でも武器は壊れちゃうし下手すると自爆しちゃうからほとんど使ったことないよ」


「それでも力属性はシンプルな分使い勝手がいいし、エクストラまで持っているなら十分優秀だと思うよ」


「そうかな?でもいくらいいギフトでも全然役に立ててないし……」


「うーん……そこは見てないから何ともいえないけど、使い方の問題もあるしそう言い切ってしまうこともないんじゃないかな?」


「…………うん」


 レオンはイリーネの自己否定をやんわりと否定したのだが、彼女も一応は頷いたもののやはり表情は優れなかった。どうやら完全に自信を失ってしまっているようであった。



 付与ギフトとは基本的に属性と技の組み合わせである。

 属性は火や雷、氷といったわかりやすく特徴的なものから、単純な威力アップというシンプルな効果を持つ力属性や、攻撃の一撃一撃が重くなる重属性なんてものもある。

 ちなみにセフィの持つ聖属性の効果は魔物に対する威力アップで、特に一部の敵やアンデットに対しては絶大な効果を発揮する。


 一方の技には基本となる6つの型が存在する。


 付与をした武器の切断力を上げる『エッジ』、打撃力を上げる『インパクト』、そして攻撃の威力の一部が内部まで貫通するようになる『ペネトレイト』。

これら武器に一定の効果を付与するものが3つ。


 斬撃に合わせて魔力の刃を飛ばすことが出来る『ブレード』、自分の周囲を魔力の刃によって円周上に薙ぎ払う『スウィング』、威力は低いが重い相手でも弾き飛ばすことが出来る『ブロウ』といった特定のアクションを繰り出すものが3つである。


 ほとんどの付与ギフト持ちの人間はこの両者を1つずつ、合わせて二つの技を生まれつき使えるのだが、中には系統外『エクストラ』と言われる特殊な技を使える人もいる。

 

 タメが必要だが威力を普段の数倍に高めた一撃を繰り出せるようになる『チャージ』や、攻撃とともに爆発を引き起こすが武器も破損してしまう『バースト』なんかがこれに当たる。


 ちなみにセフィの持つ『エンハンス』もこのエクストラに当たるのだが、武器に『エッジ』『インパクト』『ペネトレイト』の3つの特性を同時に持たせて、『ブレード』『スウィング』『ブロウ』の3つのアクションも自在に繰り出せるという規格外の性能のため、上位ギフトと呼ばれることが多い。

 つまりセフィの持つギフトは別格なのだが、イリーネの持つ付与ギフトも決して悪いものではなかった。



 イリーネのギフトの内容を聞いてから、レオンはその活かし方をよく考えてみる。

 だがレオンからすると、どう考えても彼女の持つギフトは普通に優秀な部類に入る。


(イリーネの立ち回りがよっぽど酷いのか?いや、それでも落ち着いて対処できるようなポジションに置いてやれば、ある程度いけると思うんだが……。なんにせよこれ以上は実際に見てみないと無理だよな。でも他所のクランの人間をうちの探索に勝手に連れていくわけにはいかないし……よし、決めた!)


 レオンは思考の海から抜け出して顔を上げると、自分の様子をうかがっていたイリーネに真っすぐと視線を合わせた。


「イリーネ」


「な、何?」


「最後にひとつだけ聞かせて欲しいんだけどいいかな?」


「うん」


「イリーネは今後どうしたい?」


「えっ?」


「訓練所の借金を返さなきゃならないから、少しでも収入を上げるために採掘をメインにするのはわかる。でもイリーネ自身は今後どうしたいの?もう二度と戦闘なんかしたくない?それともやっぱり探索者としてダンジョンの攻略を続けたい?」


 レオンにそう言われてイリーネは困惑する。

 実際のところ今は少しでも借金を返済するのに必死で、先のことなど考えたことがなかったからだ。むしろそのやり繰りに集中することで考えないようにしていたのかもしれない。

だがレオンに真剣な様子で問いかけられてみて、改めて自分がどうしたいのか考えてみる。


 やがてイリーネは自分の気持ちを確認するかのようにゆっくりと、途切れ途切れに自分の心情を話し始めた。


「その……正直わからないの。私は元々探索者になりたかったわけじゃないの。たまたまいいギフトを授かったから、知らないうちに探索者になることが決まっていて……。でも一生懸命訓練しているうちに頑張ろうって思えるようになってきて、それなのにいざ戦ってみると全然駄目で……。それが凄い悔しくて、だから必死で頑張ってみたんだけど、結局上手くいかなくて……」


 滔々と語っていたイリーネの表情が何かをこらえるかのようにキュッと歪む。恐らく自分のせいでパーティーメンバーが怪我した時のことを思い出したのだろう。


「だがら……このままじゃ悔しいし、出来ることならもっとチャレンジしてみたいと思う。今の採掘も好きってわけじゃないし……。でもそのせいでまた周りの人に迷惑をかけるのはもっと怖くて……。だから、矛盾しているようだけど、もう一度やってみたい気もするけど、やっぱりもうやりたくないって気持ちも強いの」


 そう言って困ったような表情を浮かべるイリーネ。それを見たセフィもその心情を思いやってか辛そうに表情を曇らせる。


 だがレオンはそんな二人の空気をぶった切るかのように唐突に声を上げた。


「…………うん。よし、採用!」


「えっ?」


「セフィ、俺はイリーネをうちのパーティーに入れたいと思うんだけどいいかな?」


「えっ?…………は、はい!もちろんいいと思います!」


「えっ?えっ?」


 突然なされたレオンの提案にセフィは少し戸惑ったものの、すぐさま嬉しそうに賛同した。元々イリーネに好意的だったうえに、彼女の話を聞いてなんとか力になれないかと思っていたので、当然と言えば当然の反応であった。

 もっとも当のイリーネの方は急な話の展開について行けずかなり混乱している様子であった。

 だが、そんなイリーネの様子を無視してレオンはそのまま畳み掛ける。


「よし、イリーネ。俺たちのパーティーに入ってくれ!」


「えっ、でも……」


「勘違いしないように言っておくとこれは別に同情とかじゃない。俺は今の話を聞いたうえで、それでも君は十分にうちのパーティーの戦力になると思って勧誘している」


「そんな、私本当に……」


「俺は昔、持っているギフトだけで判断されて絶対探索者になるのは無理だと言われていた。だけど実際は十分やっていけているし、セフィと二人だけのパーティーで銅ランクになることが出来た。そんな俺から見てもイリーネは間違いなく探索者としてやっていけるだけの能力はあるんだ」


「そんなこと言われても……」


「うん、そうだよな。だからしばらくはイリーネが失敗しても大丈夫なように安全マージンをとって探索するようにするし、最悪の場合、イリーネが探索者を諦めてもいいようにする。イリーネがもう探索者をやりたくないと思った場合でも、俺なら間違いなく今の採掘よりいい仕事を紹介出来る。元々商人をやっていたし、それなりに人脈もあるからね。だからもし探索者を辞めたくなっても、無理なく借金を返していけるように出来ることだけは約束するよ」


「それは……」


 それはイリーネにとって間違いなく魅力的な提案であった。

 もちろん仲のいい二人がパーティーに誘ってくれたのも嬉しかったのだが、イリーネ自身は自分のことを信じられなくなっていた。

 そのためいくら二人に誘われて頷くことに躊躇していたのだが、先ほどレオンがしてくれた提案によってその意味が全く変わってくる。

 レオンは自信の持てないイリーネのために逃げ道も用意してくれると言っているのだ。探索者として上手くいかなかった時でも、金策に忙殺されている今より状況が良くなるというなら断る理由がなかった。


 だがそれでも問題がないわけでもない。


「でも私、クランに借金がある状態だから抜けられないと思うし、レオン君たちとパーティーを組むことは出来ないよ」


「ああ、それは肩代わりするから問題ないよ」


「えっ?」


 だがその問題もレオンによってあっさりと解決されてしまった。


「でも……」


「言ったろ、これでも元商人だって。それなりの蓄えはあるし、確実に回収できる見込みがあると判断したってことだから気にしなくていいよ。それに俺たちにとってもメリットは大きいんだ。うちパーティーは俺のギフトのせいでなかなかパーティーメンバーが増やせないからね。借金を一時的に肩代わりをするだけでメンバーを増やせる可能性があるなら、俺は喜んで投資するよ。だからあとはイリーネがこの手を取るか決めるだけだ」


 そう言ってレオンが差し出した手をイリーネはジッと見つめる。

 

 彼女の頭の中を様々なことが駆け巡る。

 優しくかけられた言葉、徐々に変わっていく仲間の態度、思い出したくない場面、そして失望したかのような眼差し……。

 そんなイリーネの心の内の葛藤を表すかのように、その手が開いたり閉じたりを繰り返す。

 その手の動きをハラハラした様子で見つめるセフィ。

 黙って手を差し伸べたままその決断を待つレオン。

 そんな状況がしばらく続いた後、イリーネの手の動きがピタリと止まった。


 そして……


「ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いします!」


 イリーネは差し出されたレオンの手を、両手でそっと握りしめたのであった。




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