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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
二章 新人探索者
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2-10 厄介な魔物




 一斉に跳びかかってきたグラスハウンドたちを見てセフィは慌ててバックステップをしてその場を逃れる。

 標的が突然目前からいなくなってしまったせいで猟犬たちは空中で交錯することとなり、そのうち勢い余った2匹が空中でぶつかると、そのまま絡まり合って地に落ちる。

するとその2匹はそのままケンカを始めてしまう。


 しかし残った3匹はそのまま着地するとすぐさま追撃へと移行する。


 そのうちの1匹がすぐさまセフィへと跳びかかろうと跳躍の姿勢に入ったところで唐突に半透明な球体がその眼前へと現れた。

 レオンの投擲した麻痺ゼリーだ。


 グラスハウンドは反射的に躱そうとして無理やり跳躍の軌道を変える。

 結果、麻痺ゼリーは辛うじて躱したもののセフィへの追撃はならず、無理な姿勢がたたって空中でバランスを崩してしまう。


 麻痺ゼリーだけで仕留めるつもりだったレオンはそれを見て舌打ちすると、すぐさま逆の手に持ったボウガンを突き出し、そのグラスハウンドが着地する瞬間を狙ってボルトを射出する。

 ボルトが見事にグラスハウンドの首元に突き刺さると、そのグラスハウンドは少しよろめいた後その場に倒れて動かなくなった。

 どうやらグラスハウンドは機動力が高い分、耐久力は低いようであった。

 

 レオンが1匹目を処理したころ、残った2匹がセフィへと迫っていた。

 しかもたまたま離れた位置に着地していたため、2匹が同時に襲いかかることで挟撃のような形になってしまっていた。

 だがセフィは一呼吸おいたおかげで、すでに落ち着きを取り戻していた。

 左右から迫ってくるグラスハウンドたちを見て、冷静にタイミング図ってその剣を振るう。


「やあー!!」


 セフィのなぎ払いに合わせて、彼女の身体の周囲1メートルほどの円周上に魔力の刃が発生する。それをまともに受けた2匹のグラスハウンドは4つの肉片となって地に落ちた。


『ホーリースイング』という付与ギフトの1つだ。

『ホーリーエンチャント』という聖属性の上位ギフトを持つセフィは、同じ聖属性の付与ギフトならばそのほとんどを扱うことが出来る。


 2匹のグラスハウンドが動かないことを確認したセフィはフッと息を吐く。


そしてケンカを続けている2匹へと近づこうとした瞬間、真横の茂みから突如もう1匹のグラスハウンドが跳びかかって来た。


セフィは反射的に腕でガードしたのだが、その腕へとグラスハウンドが食らいつく形となってしまった。

だが幸いなことにグラスハウンドの牙は、着けていたアームガードを突き破ることはできなかった。それでも痛みはあったのか顔をしかめたセフィであったが、そのまま腕に食らいついて宙づりとなったグラスハウンドの腹部へと剣を差し込んだ。


 するとグラスハウンドの顎から徐々に力が失われていき、その牙がセフィの腕から離れるとグラスハウンドはそのまま地に倒れた。


 それを確認したセフィが顔を上げると、いつのまにかケンカしていた2匹も処理されており、レオンがセフィの元へと近づいて来るところであった。


「お疲れ様、はいこれ」


 そう言ってレオンが差し出してきたポーションを受け取ったセフィは一瞬不思議そうな顔をする。しかしレオンの視線を追って自分が手の甲から出血していることに気付いた。

 その傷を見るに、どうやらグラスハウンドの爪に引っかかれていたようであった。


「ありがとうございます、けどこんな軽傷で使うのはもったいなくないですか?」


「気にしないで、このダンジョンならいくらでも素材が手に入るから。それに疲労回復効果もあるから怪我してなくてもどんどん使っていく予定だからね」


 そう言ってレオンは自分も一本のポーションを取り出すとそれを飲み始めた。

 それを見てセフィも納得し、受け取ったポーションの半分を傷口にかけると残った半分を口にした。


 ポーションは怪我した場合その幹部にかけるのが一番いいと言われているが、実のところは身体のどこにかけても大して効果は変わらないし、飲んだとしても同様だ。

 ただ傷口を洗う意味でも怪我した箇所にかける探索者は多い。

 しかしこれも気分的な問題で、別に洗わなくてもポーションで治療した場合異物は排除されるので、砂などを傷口に取り込んでしまうということはない。


 ちなみに飲んだのは単純に喉が渇いていたからである。

 ポーション自体にあまり味はないのだが、微かに清涼感のある香りがするだけなので案外飲みやすく喉を潤すにはちょうどよかった。

ただし使われる素材の状態が悪かったり古かったりすると、青臭くなったり効果が落ちたりすることもあるので一定の注意は必要である。



 喉の渇きも癒されて人心地ついたセフィは、あらためて先ほどの戦闘を振り返るとため息を吐いた。


「すみません、結構苦戦してしまいました」


 そう自嘲気味つぶやくセフィ。

 そんなセフィを見てレオンは思わず気休めを口にしそうになったのだが、かろうじて思いとどまった。命のかかった仕事なのだから危険だったことは素直に認めて反省することは必須だ。それに彼女もそんなものは求めていないだろう。


 だからレオンも彼女に同意してから今後の反省を口にすることにした。


「確かに最後の一匹はちょっとあぶなかったね。俺もグラスハウンドは同時に襲ってくるものだと思っていたから油断していたよ。あいつが賢かった……というよりは単純に遅れて到着しただけなんだろうけど、こういうイレギュラーがあることも想定しておかないといけないね」


「そうですね。確かにそういう習性だから同時にしか襲ってこないと思いこんじゃうのは危険でしたね。今回のように偶然遅れて不意打ちの形になってしまうなんてこと、いくらでもあると思いますし……」


「うん、それに俺たちだけだとどうしても索敵能力が低くなるからなぁ……後衛の俺がもう少し周りを見られるといいんだけどこっちは俺の課題かな。とにかく今後はなるべく戦闘中も索敵は怠らないようにしよう」


「はい、私もなるべく周りに気を配るようにしますね。それから……さっき戦ってみて思ったのですが、やはり私は盾を持った方がいいと思うんですがどうでしょうか?」


 セフィは貴族家に生まれギフトにも恵まれたことから、幼少期から騎士としての闘い方を学んできていた。そのため盾の扱い方にも精通していた。

 しかし彼女の中で探索者が盾を使うイメージがあまりなかったことと、家を出る時にかさ張って邪魔であったことから剣しか持って来ていなかったのだ。

 ところがいざ迷宮都市に到着してみると、チラホラと盾を持っている探索者を見かけて自分も持った方がいいのかと思い、レオンとも相談していた。

 そこでひとまず一度ダンジョンに潜ってみて様子を見ようとことになっていたのだが、今回戦ってみて彼女の中で結論が出たようであった。


「うん……そうだね、俺もその方がいいと思う。ホルストさんが帰って来ないうちは当分の間、前衛はセフィ一人になるだろうからね。そうなると今回のように囲まれるケースも多いだろうし、確かに盾を持った方が安定するだろうね」


「はい。それにさっき戦ってみて、自分が多数の相手と戦うこと関してはまだまだ未熟だということを実感しました。ですから敵を処理する速度は落ちるかもしれませんが、少なくとも余裕をもって対処できるようになるまでは盾を持とうと思います」


「それがいいだろうね。無理してもいいことはないだろうし、盾も使えた方が戦術の幅も広がる。それに1階層だと俺の攻撃も問題なく通ると思うから、多少火力が落ちても問題ないと思うよ」


 実際レオンのメインウェポンである魔法水ボウガンや麻痺・毒ゼリーはグラスハウンドより格上のフォレストエイプにも通じていたので、1階層の間は問題なく通用するだろうとレオンは見ている。

 しかしそれがどこまでも通用するとも思ってないので、調合の素材探しは必須事項でもあった。


「よし、それじゃあ反省はこれまでにしてそろそろ死体を回収して、他の魔物が寄ってこないうちに移動しようか」


「はい!」


 魔物の死体の回収はインベントリを持つレオンの仕事だ。

 あまり売る部位のない魔物場合は魔石だけ取って死体は放置するが、グラスハウンドの場合は毛皮が売れるので死体を回収することにしている。

 

さっそく最後にセフィが倒したグラスハウンドの元へと向かったレオンであるが、その死体を改めて見ると苦笑を浮かべた。


「それにしてもこんなグラスハウンドっているんだな」


「そうですね、まさか魔物にもぽっちゃりさんがいるとは思いませんでした」


 最後のグラスハウンドが後から現れた理由を単純に到着が遅れただけだとレオンが思った理由、それがこの個体の体形であった。 

 どう見ても肥満体だったのだ。身体が大きいとかではなく、腹部や頬がたるんでおりすべてのパーツが太かった。

 どうやら魔物にもこういった個性があるようであった。


「それでもやっぱり私を狙ってきましたよね。本当にグラスハウンドって女性しか襲わないんですかね?」


「…………まぁ絶対ではないらしいけどね」


 曖昧な返事を返したレオンであったが、あまりこの話題には乗り気ではなかった。実のところ、レオンはセフィに「グラスハウンドには女性の方が狙われやすい」とだけ伝えており、脂肪うんぬんの話もしていなかった。


 なぜならこの『グラスハウンドのグルメ問題』というのは、意外と女性にとってはデリケートな問題でトラブルが多かったからだ。



 ある有名な笑い話がある。

 とあるパーティーに女性探索者が二人属していた。

 一人は戦士系の前衛、一人は魔法系の後衛だった。

 そんなパーティーの前にグラスハウンドの群れが現れた。

 ところがグラスハウンドたちは、一匹を除いて前衛の女性を無視し、後衛の女性へと襲い掛かったのであった。


前衛の女性は激怒した。「私は女じゃないと言いたいのか」と。


後衛の女性も激怒した。「私の方が太っているといいたいのか」と。


 そんな女性陣にグラスハウンドたちは襲いかかる。

 ある個体は太腿に、そしてある個体は腹部へと。


そこで女性陣は再度激怒した。「何故胸元に来ない』と。


 結局グラスハウンドたちは女性陣によって血祭に上げられたのだが、そのパーティーは3日後に解散したということであった。



 そのためレオンは、グラスハウンドたちが全てセフィへと向かい、無事胸元へと襲い掛かった時、ホッとしたような、申し訳ないようななんともいえない心境であった。


 だが、とにかくこうして肉体的にも精神的にも大きな傷を負うことなく、二人のダンジョン攻略初日は無事に終了するのであった。




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