2-03 新進気鋭?
レオンが内心でかなり失礼な結論に至ったことなどはなどつゆ知らず、何事かを楽しそうに話し合っているセフィとイリーネ。
そんな二人をレオンが眺めていると、話がまとまったようで唐突にセフィが立ち上がってから姿勢を正した。
「こんにちは、もうすぐ探索者になるセフィです。ギフトは戦技と付与で主に剣を使って戦いますが必要であれば楯も扱えます。一応遠距離攻撃の手段もありますが、あまり得意ではありません。あとレオンさんとパーティーを組む予定です!」
どうやら先ほどのレオンを真似して探索者風の自己紹介を考えていたらしい。
言い終わったセフィがきれいな一礼をしてから「どうですか?」といった感じでこちらを見て来たので、レオンが頷いて見せると嬉しそうに破顔する。
すると今度はその様子を見ていたイリーネも立ち上がる。
「こんにちは、クラン『破竜の英傑』に所属する銅級探索者のイリーネと言います。ギフトは付与と放出魔法ですが、魔法はあまり戦闘向きではないので主に剣で近接戦闘を行っています。でもあんまり剣も得意じゃないです……」
最後は少し自信なさげに表情を曇らせて、消える様につぶやいたイリーネ。
しかしセフィは気にした様子もなく彼女を絶賛する。
「おお、デュアルギフトなんですか!しかももう銅ランクなんて……とっても凄いじゃないですか!」
「いえ、私なんて全然ダメです……草原エリアをクリアできたのも仲間のおかげですし……」
謙遜するイリーネであったが、セフィが心から褒めていたことが分かったのか表情から暗さが消えていた。
一方それを横で聞いていたレオンであったが、内心ではかなり驚いていた。
(イリーネさんからは全く想像できない、もの凄いアグレッシブなクラン名だな。まあ幼少期に連れて来られた本人には選ぶ余地はなかったんだろうけど……。それにしても聞いたことのないクラン名だけど中堅どころなのかな?イリーネさんが幼少期からこっちに来てたってことは少なくともここ数年で出来た新興クランってわけじゃないだろうし……)
レオンもベギシュタットに来るようになってから3年以上経過しているので、有名どころのクランの名前くらいは網羅している。
つまりイリーネが所属しているクランは大手ではないはずだが、訓練所を持っていて優秀なギフト持ちをスカウトしてきていることから小規模というわけでもないだろう。
(もしかしたらイリーネさんの世代が訓練所の初期メンバーなのかもしれないし、これからのクランなのかもしれないな。それにしてもイリーネさんデュアルギフトって……これじゃあやっぱ勧誘は無理だよなぁ)
最初イリーネが探索者をしていると聞いて、レオンたちとは歳も近いことだし一度パーティーに誘ってみるのもアリかと思っていた。
しかし彼女がクラン所属と聞いて望みが薄れ、デュアルだと聞いて完全に諦めた。
『デュアル』というのは、戦闘系、魔術系、一般系と3系統に分けられたギフトのうち2つの系統にまたがってギフトを授かった人のことを指す。
戦技と付与など同系統のギフトを同時に授かることは比較的多いのだが、彼女のように魔術系である放出魔術と戦闘系である付与を同時に取得することは珍しい。
そしてその場合、かなりの有望株と見なされることが多い。
なぜならそれぞれの系統の長所を併せ持つことが出来るからだ。
つまりイリーネの場合は、身体強化の強度が高いうえに魔力量が多く、魔法障壁などの基礎魔法も扱えるということなり、それだけでもかなりのアドバンテージを有するということになるのだ。
ちなみにベギシュタットに来る道中で出会った盗賊のリーダーもこのデュアルだったのだが、だからこそ盗賊としては破格の強さを誇っていた。
もっともそれだけのギフトを授かりながら盗賊に身を落としていたということは、よほど立ち回りが下手だったか、素行が悪すぎたということでもあるのだが……。
なんにせよそんな人材であるイリーネをみすみすクランが手放すとは思えないので、彼女とパーティーを組むことはまず無理だろう。
(まぁ俺の場合はセフィが組んでくれるだけでも幸運なんだ。そうなんでもかんでも上手くはいかないよな。それにしても俺の周りの女性探索者って凄いギフト持ちばっかりだよなぁ)
ワイワイと楽しそうに話す二人を見ながらレオンは内心で苦笑する。
デュアルギフトであるイリーネはもちろん、上位貴族しか持たないと言われる優秀なギフトを持つセフィ。そしてイリーネと同じくクランの訓練所出身の金ランク探索者カレン。
探索者として優秀なギフトを持つ女性ばかりであった。
一方でインベントリと調合という戦闘に不向きなギフトを持つレオンに、付与ギフトを持たないため魔物に対して十分なダメージを与えられない先輩探索者ホルスト。探索者としては微妙なギフト構成の男性陣であった。
そう考えるとなんともいえない気分になったレオンであったのだが、実際のところ二人とも職業の選択が間違っているだけで、ギフトとしては他人から羨まれるものを持っていたりする。
実際レオンの授かった『インベントリ』に『調合』といったギフトは、商人やポーション職人という職に就けば、持っているだけで生涯生活には困らないと言われるようなものだ。
一方ホルストの持つ『瞬動』も優秀なギフトで対人戦では無類の強さを誇る。さらにもう1つ持っているギフトも斥候向きの能力でそれなりに有用なものなので、兵士や衛兵にでもなっていれば間違いなく重宝されていたであろう。
二人ともあえて探索者を選んだから不遇なだけなのであって、ある意味では自業自得といえなくもなかった。
(そういえばホルストさん、まだ帰って来ないのかな?あっちの情勢はまだ落ち着いてないとは聞いているけど……。戦火に巻き込まれてないといいんだけどな)
故郷が戦争に巻き込まれそうだからと言って、帰郷している先輩探索者ホルスト。戦争に参加する気はないとは言っていたが、昨日宿の店主であるヨーゼフに聞いた感じではまだ帰って来てないようであった。
(まぁあの人がそうそうやられることはないだろうしなぁ。それより帰って来た時に足を引っ張らないように、セフィと二人でしっかり経験を積んどかないと……)
心配ではあるが、これに関してはレオンに出来ることはない。それよりはホルストがいない間に経験を積んで、少しでも彼に追いついておくことを考えた方がよほど建設的だと思うことにする。
(まぁとりあえず今日は登録からだな)
レオンが頭を切り替えたところで、ちょうど宿の女将ヨハンナが朝食を持って現れた。
「なんだ、レオン君起きて来てたの?言ってくれないと……。今からレオン君の分も準備するからちょっと待っててね」
こうしてレオンは空腹を我慢しながら美味しそうに朝食を食べる二人を眺めつつ、今日の予定について頭を巡らせるのであった。




