1-61 エピローグ
プレージオの町の外れにある閑散とした墓地の一角。
火事の現場を離れたレオンはここへと足を運んだ。
大きな墓碑の前で手を合わせるレオン。
この世界には墓前で手を合わせる習慣はなかったのだが、レオンとしてはなんとなくこの方が気持ちが通じる気がするので前世の習慣を踏襲していた。
大きな墓碑の前には多くの花が添えられている……といってもすべてがレオンの母ルシアへと供えられたものではない。
この墓はいわゆる集団埋葬のための墓、貧困層や身寄りのない者たちが主に埋葬されている場所であった。
レオンは最初サンチョがルシアをここに埋葬したと聞いた時、わずかながら怒りを覚えたものであった。
しかし町を離れることが決まった今となっては、むしろ誰かが手入れやお供えをしてくれるここでよかったとも思う。
祈りを終えたレオンは城門へと向かう。
この町でのやることを終えたレオンは今日中に町を出ることにした。
自分を恨んでいると思われる代官の存在に気付いた今、彼を刺激しないためにも一刻も早くこの町を去ることに決めたのであった。
そのまま乗合馬車の最後の便へと飛び乗ったレオンは、まずはラブールを目指すこととする。
ベギシュタットへの通り道であるから当然といえば当然なのだが、今回はジスカール商会のオディロンにもすべてが終わったことを報告するためでもあった。
それに今後探索者になるのであれば今までのように立ち寄ることはなくなる。その挨拶を兼ねての訪問であった。
ラブールへと到着したその日、レオンがその足でジスカール商会を訪問すると熱烈な歓迎を受けた。当主であるオディロンはもちろん、ポンコツ令嬢であるナタリーや商会の人間たちからも祝福され、商人をやめることを惜しまれた。
さらにその翌日には領主夫人であるベルナデットからも招待を受け、お茶会がてら報告をすることとなった。どうやら彼女もレオンの動向を探っていたようで心配してくれていたようであった。
権力者側である彼女も関係の良くないメンブラート公国のことには口出ししにくく、随分ともどかしい思いをしたそうだ。
そんなこともありラブールには1日だけ滞在するつもりが、結局5日間も滞在することとなってしまった。
故郷であるプレージオにほとんど未練のなかったレオンであったが、このラブールではいい関係を築けた相手が多くなかなか離れがたかった。
そのことに感謝しつつもいつまでも滞在するわけにはいかない。
5日目の朝、レオンの姿は乗合馬車の乗り場にあった。
知り合いの面々とは昨日のうちに別れは済ませており、見送りは不要と伝えてある。
そして……
「こんにちは、そこの兄ちゃん。アンタも探索者志望の方ですか?」
不審者に捕まるのであった。