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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-58 忘れられた約束




 和やかな雰囲気になった4人が雑談を続ける中、レオンの視界にカレンと大柄な男が近づいて来るのが映った。

 そのままレオンが二人を注視していると他の面子もそれに気付き、雑談を止めて二人を迎え入れた。


「レオン、あいつらの衛兵への引き渡しが終わった」


「ありがとうございます、カレンさん。サレス様もありがとうございました」


「ああ」


 レオンがカレンに続き大柄な男サレスに声をかけると最小限の返事が返って来た。

 ただ彼は会った時からこのような態度だったのでレオンも気にせずに話を続ける。


「あ……それから想定外に大人数の武装集団が来てしまい申し訳ありませんでした。お二人がいて下さって本当に助かりました」


「あの程度は誤差。問題ない」


「そうだな、むしろ町のごろつきをまとめて処分できたので好都合だった」


「ははは……ありがとうございます」


 武装した十数人のごろつきを誤差と言ってのけるカレンと、好都合だったと笑みを浮かべるサレスにレオンは笑うしかなかった。

 ちなみにこのサレスという男はテオバルトが『どこかで見たことがある』と思っていた人物なのであるが彼がそう思うのも当然であった。

なぜならサレスはこの町の領主からレイナルドとパブロの護衛としてつけられた人物で、腕利きとしても知られている領軍の小隊長であったからだ。

そのため領軍への物資の納品に何度かついて行ったことのあるテオバルトも彼のことを何度か見かけたことがあり、微かに記憶にも残っていたのであった。

 

 しかし今回はそのサレスの腕利きとの評判を、身をもって味わうこととなってしまった。


サレスとカレンはたった二人でテオバルトの取り巻きたちを鎮圧してしまったからだ。

 念のため周囲にもサルガード商会やグレッツナー商会の護衛たちが伏せていたのであるが、彼らが駆け付ける前にあっさりと全員を昏倒させてしまったのは圧巻であった。


 もっともテオバルトはその鎮圧の場面を見る前にカレンに失神させられてしまったので、結局彼の脳裏にサレスの印象が深く刻まれることはなかったのだが……。


 そしてその場面を見ていたレオンとしても不満が一つあった。

 それはカレンと事前に打ち合わせていたにもかかわらず……


「でもカレンさん、テオバルトは僕に殴らせてくれる約束でしたよね」


「あっ………………。レ、レオンが倒れていてこっちに来るのが遅かったせいだ」


完全に忘れられていたことであった。




 微妙に慌てるカレンを見ながら皆が笑う中、レオンはそのテオバルトについて思いを巡らせていた。


(しかしテオバルトの奴……さんざん挑発したとはいえ、まさか武装した集団引き連れてウチに押し入ってくるとは思わなかったな)


 レオンは自分が『他所の商会と結託して下剋上を狙っている』などという噂を流したうえでしばらくプレージオに帰らずムゼッティ商会の不安を煽った。

 そして今日突然に堂々と姿を現し、慌ててやって来たテオバルトをすげなくあしらうことで暴発させることを狙っていた。

 しかしそれはせいぜい手をあげられるだとか、無理矢理連れて行こうとされるだとかその程度を想像していた。

 まさか武装集団を引き連れて押し入ってくるとは思っていなかった。

 

 レオンがベギシュタットまで仕入れに行くようになってから彼と接触する機会はほとんど無くなっていたのだが、どうやらその間により悪い方へと成長してしまっていたようであった。


 そこでレオンはふと父親であるサンチョを見る。

 しかしサンチョはレオンがから視線反らすように俯いてしまった。


(そんなテオバルトの相手をこの人一人に押し付けてしまっていたのか……)


 レオンのサンチョに対する思いは複雑であった。


 彼がもっとしっかりしていれば母親のルシアは死ぬことがなかったのかもしれない。しかし彼には悪意があったわけではなく、ただ気が弱かっただけだ。

 ある意味では彼のように従順に従うのも一つの処世術、レオンとしても一方的に悪いと決めつけることは出来なかった。

 しかも今回より負担を押し付けてしまったことでますますその想いは強くなってしまったのだが、だからといって歩み寄りたいかといえばそれも違うような気がする。

 なんとも対処に困る関係であった。


とはいえレオンがこの国を出ると同時にサンチョの身の振り方も考えなくてはならない。


そのためレオンはサンチョに何通りかの提案をして、彼の決断を待つこととなった。


しかしその結論はレオンの想像したものとは違った形で決まってしまうこととなってしまうのであった。



 



 それはテオバルトたちを捕らえてから約2週間後、レオンがベギシュタットでの住民登録を終え、そのままとんぼ返りで再びプレージオを訪れた日のことであった。


 レオンの本音としてはそのままベギシュタットに留まってもよかったのだが、いくつか理由があって再度プレージオに帰ってくることとなった。


 一つは無事移転手続きができたことをレイナルドに知らせるため。

 パブロは既に公都に帰っていたのだが、レイナルドは出店の準備をするためプレージオに留まっていた。そのため最後にちゃんと報告しておこうと思ったのだ。だがこれはついでといってよかった。


 一番大きな理由はテオバルトたちの裁きに立ち会い、ムゼッティ商会のその後を確かめるため。

 ルーネス共和国の各都市ではだいたい1~2か月に一度、領主による裁きが行われる。

 その裁きがちょうど明日行われるとのことだったので、それに合わせてレオンもベギシュタットから急ぎ帰って来ていた。


 そして最後にもう一つ、それがサンチョの身の振り方を決めるためであった。

 無事ムゼッティ商会の支配下から抜け出せたレオンたちトーレス商会であるが、そのムゼッティ商会で格安で働かされていたサンチョも身の処し方を決める必要があった。

 まさかここまでやっておいて、このままムゼッティ商会で働き続けるというわけにもいかないからだ。


だからレオンはサンチョに3つ……厳密に言うと6つの選択肢を提示していた。


 このままプレージオに留まるか、レオンと一緒に迷宮都市ベギシュタットに来るか、もしくは心機一転して公都マルトローナに行くか。

 そしてその選んだ地で独立した商会としてやっていくのか、それともどこかの商会に入って働くのかである。


 もちろんそれ以外の選択肢を選ぶのも自由であるが、レオンの提案に乗るのならばある程度支援が出来ることも合わせて伝えておいた。

 どこかの商会で働くなら、グレッツナー商会かサルガード商会が面倒を見てくれると言っているし、独立するならレオンが資金を出す。またその場合であってもそれぞれの商会がある程度は仕事を回してくれると請け負ってくれていた。


 もっともレオンは、いまさらサンチョが独立した商会を持ちたがるとは思わなかったので恐らくどちらかの商会で働くのではないかと予想していた。

 そしてわざわざレオンについてベギシュタットに行きたがるとも思えなかったので、この町に留まるか、もしくはバシリオから遠ざかるために公都に行くのではないかと思っていた。

 とにかくその結論を聞くため一度帰って来る必要があったし、どちらにせよサルガード商会の世話になる可能性が高かったので、レオンとしてもレイナルドにはもう一度挨拶をしておく必要があった。


 

 前回はムゼッティ商会を警戒させないため、プレージオの近くまでグレッツナー商会の馬車で送ってもらい徒歩でプレージオに入ったレオンであったが、今回は普通に乗合馬車に乗って帰還した。

 以前乗っていた時は乗客も少なく車内は閑散としていたのだが、南で戦争が起きているせいかこの日は明らかに搭乗者が増えており車内は満員に近かった。

 

 馬車がプレージオの城門にたどり着くと、搭乗者たちが順番に降りて行き入城審査を行っている列へと並んで行く。


 レオンも列に並びもう2、3人で自分の番がまわってくるかというところで審査を行っていた衛兵がレオンに気付いた。

 その衛兵とは面識があり何度か言葉も交わしたことがあったためレオンは軽く目礼をしたのだが、急に顔色を変えた衛兵はそれには反応せずにずんずんと近づいて来た。


 そのただならない様子にレオンは思わず身構えたのだが、そんなレオンの様子も気にせずにレオンの眼前にまで到達したその衛兵は焦った口調で意外なことを口にした。


「レオン、ここはもう通っていいからさっさとウチに帰れ!」


「え?……通っていいんですか?」


 予想外の言葉に呆けた様子で問い返したレオンであったが、衛兵のただならない様子を見てレオンの顔色がサッと変わる。


「まさか……何かあったんですか?」


「ああ、だがここで詳しいことは説明しにくいから今すぐウチに帰れ!あっちには隊長がいるはずだから詳しいことは隊長に聞け」


「隊長さんが!?……わ、わかりました」


 衛兵隊の隊長が来ているということは、彼が出張ってくるほど事態がレオンの実家の周辺で起きているということだ。

 レオンは衛兵に礼を言うと身体強化を発動して一気に走り出すのであった。



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