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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-50 小さな嫌がらせ




「はぁー……全くあのバカはほんと使えねえよな」


「ギフトを持ってるからまだマシですけど、あれがなかったら本当に使い道ありませんよね」


「あれで商会長ってんだから笑えますよ。おまえで商会長が務まるなら俺は国王になれるってんだ」


「いや、さすがにそれは無理だろ。その顔で国王になっちまったらすぐに反乱が起きるぞ」


「ハハハ、違いねぇ」


「ちょ……テオバルトさん、それはいくらなんでも酷えですよ……てめえは何笑ってんだ!鏡見てから笑いやがれ!」


「なんだとてめえ!!」


 テオバルトと取り巻きたちは、今日もたまり場である酒場を貸し切り状態にしてワイワイと飲みながら騒いでいた。普段一緒に行動している取り巻きたち2、3人を含め、店内には10名以上の人間が集まっていた。

 一見楽しそうに騒いでいるのだが最近流れているレオンシオの噂のせいで、このところテオバルトの機嫌は非常に悪い。

今日もサンチョに当たり散らしたり街中で暴れたりしていたため、取り巻きたちは戦々恐々としておりご機嫌取りに必死だった。


 そんな微妙な緊張感の漂う酒場の中へ突然一人の兵士が駆け込んできた。

 唐突に現れた兵士を見て護衛役の取り巻きたちが一斉に立ち上がるが、その兵士の見知った顔を見て拍子抜けしたように再び腰を下ろした。


「なんだ、フリアンかよ。ビビらすんじゃねえよ」


「そんなに慌ててどうしたんだ?借金取りにでも追われてんのか?」


「いや、浮気がバレて母ちゃんに終われてんじゃねえのか?」


 汗だくで息を切らして入って来たフリアン。

それを見て取り巻きたちが一斉に冷やかしの言葉をかけるが、フリアンの耳には全く届いていなかった。

彼は焦った様子でキョロキョロと店内を見渡し後、目的の人物テオバルトを見つけると急いで近づき話しかけた。


「テ……テオバルトさん、帰ってきました!……あいつです、あのガキが帰ってきました!!」


「あ?帰って来たって……あのガキか!レオンシオが帰って来たのか!?」


「そ、そうです。そのレオンシオです。たった今北の門から入って来ました。身分証も確認したので間違いありません!」


 急に始まったやり取りの切迫した雰囲気に店内の雑談がピタリと止み、静寂の中で全員の視線がテオバルトたちへと集まる。


「それで……奴は一人か?誰か連れて来たりはしていなかったか?」


「えっ!?あ……はい、一人でした」


 レオンを見た時点でフリアンはすぐに報告に来てしまったため、カレンのことは見ていなかった。


「そうか、それで奴には監視していたことを感づかれたか?」


「いえ、自然にあの場を離れたので特には疑われていないかと……」


「そうか……よし、よくやった。おい、お前ら今すぐ人を集めて各城門に行かせろ。念のためあいつが出ていかないように監視させておくんだ。それからお前は親父に知らせてこい。残った奴は酒を抜いて得物を集めてこい!舐めたマネしたあのガキに自分が誰に逆らったか思い知らせに行くぞ!」


「へっ?いや、さすがに武装して押しかけるってのは……」


「いいからさっさとしろ!」


「は、はい!」


 命令された取り巻きたちが突然下されたあまりも物々しい命令に目を白黒させて固まるが、テオバルトに睨みつけられて慌てて取り繕う。

 唐突に騒然となった店内。取り巻きたちがせわしなく動き回りその一部が店外へと駆け出ししていく。

 そんな様子を腕を組んで見守っていたテオバルトに古株の取り巻き、お目付け役でもある男がそっと話しかける。


「テオバルト様、よろしいので?さすがにちょっとやり過ぎのような気もしますが……」


「やり過ぎじゃねえ。噂が本当ならあのガキはよその商人に取り入って俺たちに逆らおうとしてやがるんだぞ!コソコソ隠れて何を企んでたか知らねえが、洗いざらい吐かせてやる」


「ですがこの人数で武装して押しかける必要は……下手をすると騒ぎになるかと」


「かまわねえよ。この町が誰のもんか思い知らせるいい機会だ。衛兵たちにはたっぷり金を握らせてるし、わざわざあのガキをかばおうってやつもいねえ。多少騒ぎになったところで問題ねえよ。それにサンチョは俺にビビってるから絶対に逆らわねえ。残ったガキ一人ならなんとでもなるだろ」


「……そうですね、わかりました」


 男としてはもう少し言いたいことがあったのだが、想像以上に熱くなっているテオバルトの様子を見てそれ以上言うことはやめた。言っても効果がないことは一目瞭然であったし、それどころか不興を買うはめになりそうであったからだ。

 それに一応は父親のバシリオにも知らせを送っていた。何かトラブルが起きても最悪の場合はバシリオが出て来て何とかしてくれるだろう。

 

 半ばあきらめとともに男がそんなことを考えている横で、テオバルトは目を血走らせてどのようにレオンシオに思い知らせてやるかを考えていた。

 

(あのガキがやっと帰って来やがったか……トーレス家のくせに舐めたマネをしやがって。ちょっと甘い顔をすると自分たちが加害者だってことも忘れてすぐ卑怯な手で出し抜こうとしやがる。サンチョのやつもだいぶん反省した態度を見せてはいたがガキと女房のしつけくらいちゃんとしろってんだ)


 サンチョが生まれた時、ムゼッティ商会は非常に貧しく周囲からも非常に冷たい目で見られていた。

父親のバシリオになぜかと聞いたところ、権力者に取り入ったトーレス商会に嵌められたと教えられた。大きな商売を邪魔されて大損をさせられた挙句に汚名まで被せられたとのことであった。

 実際のところは身体に有害な商品をそうと知っていながら大量に買い付け、この町で売りさばこうとしたムゼッティ商会の自業自得であったのだが、テオバルトの中ではバシリオの言うことが真実であり、トーレス商会は憎むべき卑怯者であった。

 

だから政変の折、トーレス商会が失脚したのは天罰だと思った。


卑怯者のトーレス商会。会長は処刑されて残った家族は大量の借金を背負わされ商会も実質解散状態。

まさに卑怯者にふさわしい末路であった。

テオバルトの中では今の状況こそが正しい状態、自分たちムゼッティ商会は正当な権利を取り戻しただけに過ぎなかった。そしてトーレス家の者たちには反省を促すため、罰を与えてしかるべきなのであった。

むしろ恩情でポーションの納品の仕事を与えて生かしてやっているのだから、感謝されて当然だとさえ思っていた。


 それなのにその恩を仇で返そうとしているレオンシオ。一度きっちりと思い知らせてやらなければ気が済まなかった。




 テオバルトが号令をかけてから2~30分ほどが経ち、店の前にはテオバルトを含め武装した男たちが10人程度集まっていた。中にはテオバルト専属の護衛の元銀ランク探索者も含まれていた。


「よし、お前ら。これからあのガキの企みを暴きに行くぞ!ちょっと町の外に出て自分が偉くなったと勘違いしてるバカに現実を思い知らせてやれ!」


「おう!」


 手下の用意した剣を肩に担ぎ、周りを威嚇するようにして歩き出したテオバルト。その後にぞろぞろと武装した手下たちが続く。


 通りかかった住人たちは彼らを見るとギョッとして慌てて道の端へと避ける。


 それに気を良くしたテオバルトはより一層ふんぞり返り肩で風を切って歩き続ける。


やがて一軒のあばら家の前へと到達した。

 トーレス商会、レオンシオがサンチョとともに住んでいる建物であった。


 テオバルトが前に進み出るとその後に3名の取り巻きが続く。残りは中の人間を威嚇するためか建物を包囲するかのように横に広がる。


「おい、トーレス商会のガキ!いるんだろ!!てめえが帰って来てんのは分かってるんだ。さっさと出てきやがれ!」


 家の入口、横開きの戸の前まで来たテオバルトが大声で家の中に向かって怒鳴りつける。


 ところがそれから10秒経っても20秒経っても家の中からの応答はなかった。


 痺れを切らしたテオバルトは家の戸を蹴りつけてから再び大声を上げる。


「てめえがいるのはわかってるんだ!さっさと出て来ねえとこの戸を蹴破るぞ!!」


 そう言ってもう一度戸を蹴ってから中の様子を窺う。


しかしまたも返答はなかった。


 やがて後ろの部下たちがざわつき始める。

 テオバルト自身も「もしかして留守かもしれない」ということが頭をよぎり、徐々に不安になってくる。

 これだけ大勢で詰めかけて「いるのは分かっている」叫んでおきながら、本当に留守だったらとんだ大恥である。

 周りには部下たちだけではない。周辺の住民たちも何事かと出て来てこちらの様子を窺っている。


 徐々に恥ずかしさが込み上げて来て、それを隠すためにより居丈高になる。


「クソが……あのガキびびって逃げやがったか。おい、探しに行くぞ。てめえらも何見てやがる、ぶっ殺すぞ!!」


 テオバルトは大声で自己弁護の声を上げると戸に背を向けて部下たちに呼びかけてから、やじ馬たちを怒鳴りつけて追い払おうとする。


 そして家から離れようと一歩踏み出したところで、唐突に後ろから戸が開く音が聞こえた。


「どちらさまでしょうか?」

 

 テオバルトが振り返ると明らかに迷惑そうな顔をした若者、レオンシオが開いた戸口に立っていた。











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