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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-40 投球練習




 ホルストと狩りに行ってから数日が経った。


 ホルストの圧倒的な実力に少し自信喪失していたレオンであったが、カレンから技量だけなら上位の探索者に匹敵すると聞いて納得するとともに安堵した。


 そんなレオンをカレンは不思議そうに見ていた。

彼女曰く「あいつは使えるって言ったのに」とのことだ。レオンはてっきり採取が上手いという意味だと思っていたのだが彼女の評価は戦闘面の実力も含めてのものだったらしい。



 しかし安堵ばかりもしていられなかった。

 ホルストが上位探索者に匹敵するということは、言い換えれば上位ではあれが普通ということでもある。つまり上を目指そうと思えばあのレベルについて行く必要があるということなのだ。


 それにホルストからも今後定期的に森に行こうと誘われている。

 そしてその上で相性がよければ、レオンが将来探索者になったときパーティーを組もうとも言われている。


 それはもちろんあの魔法水を使った曲刀の使用を見越してのことであった。


 結局あの曲刀はホルストが買い取ることになった。


 そのためレオンは自分が同行できない場合でも必要ならいつでも魔法水を調合すると伝えておいたのだがその必要はないと断られた。そしてそれよりも将来パーティーを組まないかと誘われたのであった。


 誘ってくれるのは嬉しいのだが、だからといって魔法水を断る必要もない。

気になって理由を尋ねてみるとホルストの回答は非常に納得のいくものであった。


 まず一人でダンジョンに採取に行く場合、使うかもわからないのに持って行く必要はないとのことだった。

魔法水の材料である魔石もタダではないのだ。あれば確かに便利だが厄介な敵は避ければいいだけなので今のままでも別に困っていない。使うかもわからないのに、一回探索に行けば必ず失われる消耗品はもったいないということだった。


またダンジョンの攻略を目指す場合。

こちらについて論外とのことだ。

基本的に攻略となれば一日がかり、場合によっては野営をして数日がかりになる場合もある。しかし魔法水は数時間しか持たない。

一番必要となるボス戦で使えないのであれば全く意味がないというわけであった。


 結局あの曲刀は魔法水をインベントリに保存でき、いつでも調合で補充が出来るレオンが同行して初めて機能するものであった。

 そしてホルストが本来の実力を発揮するにはあの曲刀は必要であった。そのためのパーティー勧誘であった。


だから別に探索者としてのレオンが評価されたわけではなかったのだが、それでもレオンは嬉しかった。

 今までレオンが探索者を目指すと言えば周りはネガティブな反応ばかりであった。

それはもちろんレオンを心配してのことでレオン自身もわかってはいたのだが……それでもやはり悔しい気持ちあった。


 そんな中でホルストに自分と組みたいと言われて、初めて認められたような気がしたのだ。もちろんそれは曲刀ありきの話であったのだが、見方によってはあの曲刀もレオンの実力の一端であり、ホルストの本領を引き出す相性の良さともいえるのだ。


 しかし、だからこそホルストに負んぶに抱っことはなりたくない。


 そのため今日はもう一度自分の戦力を見直そうと街の外に来ていたのであった。


 まずは自分の戦闘手段について。

その主軸となるのは間違いなくインベントリによる防御と、薬剤などの投擲による攻撃及び援護だ。

 特にインベントリによる防御は自分の突出した能力だ。

 魔力の燃費もよく現状だと破られる心配もない。他のギフトに比べても遜色ない性能なので、これに関しては使いこなせるように習熟していけばいいだろう。


 問題は攻撃面。

 ホルストにあのスピードで動き回られた場合、レオンの投擲では援護が出来ないのだ。

攻撃したところで動きについていけてないのでホルストと射線が被ってしまい誤爆する危険性があるし、逆にホルストを回復しようとしたところで動きが速すぎてポーションを当てられない。

もちろん声をかけて合わせてもらうことも出来るが、それでホルストの動きを制限してしまえば本末転倒だ。


 対処法としてまず思いつくのが投射の速度と精度の向上である。

 その手段としてひとつ有力そうな方法もある。

 それは以前も少し考えていたクロスボウの導入である。

 あらかじめリロードした状態でインベントリに入れておけば咄嗟の時に撃てるし、魔法水に浸したボルトをセットしておけば魔物にも有効な攻撃手段になるだろう。

 速度も投擲より速いし、練習すれば精度も増す。


 ただこれは有効な手段ではあるが根本的な解決にはならない。


 回復を当てられない問題は解決されていないし、あくまでレオンの本領は調合士だ。ポーションと同様に今後増えていくであろう調合の成果物を有効に活かすには、やはりカラーボールの投擲の速度と精度を上げなければならない。


 ボウガンのように機械式で石を飛ばす兵器も聞いたことがあるが、武器屋では見かけなかったし構造もわからない。

 かといって布や紐で作ったスリングも微妙だ。速度は上がるかもしれないが制度には疑問符がつくし、タイミングを合わせて投射するのも難しそうだ。


 そうなると現状では結局普通に投擲するしかないのだ。

 ならばその精度と速度を上げるしかない。


 レオンはインベントリを展開すると中から手のひらにサイズの石を取り出し、手頃な目標を探す。

 ちょうど20メートルほどの位置に手頃なサイズの岩があったので、身体強化を施してからなるべくきれいなフォームを意識してそこに向かって投げる。


 かなりの勢いて放たれた石は見事に狙った岩へと直撃する。


 狙った位置から多少ずれたものの許容範囲だし球威も前世の高校球児クラス。これなら将来メジャーリーガー級の剛速球が投げられるだろう。

 悪くはない……だが、いまいちしっくりもこなかった。

 

 そもそもレオンは普段から旅をしていて狩りや訓練もしているので、細身ながらも14歳にしてはかなり鍛えられた身体をしている。

 そこに身体強化を施しているのだから成人男性どころかすでにトップアスリートをも凌駕するような、人間離れした筋力を発揮しているはずなのである。

 しかし球威はせいぜい高校生レベル、つまりフォームが整っておらず球に上手く力を乗せられていないのだ。もちろん腕の長さや筋肉のバランスなど色々な要因もあるだろうが、それにしても遅すぎる。


 しかしレオンの考えでは前世の自分は野球経験者だったはずなのだ。しかもおそらく投手経験もある。

 というのもレオンは複数の変化球を投げることが出来るのだ。

 未経験者で変化球を投げられるという人は少ないしだろうし、複数投げられるとなると野球経験者でもそれほど多くはないだろう。

 少なくとも野球経験があることはほぼ間違いない。

 

 それなのに何度石を投げてみてもやっぱりしっくりこない。

 うまく力が乗っていないというか、むしろ投げにくさのようなものを感じる。


 身体のバランスが変わったせいで投げにくいのか、そもそも前世とは脳が違うので運動機能の記憶がなく同じ感覚では投げられないなのか……。


 しばらく投げてみるものの上手くいかず、いい加減嫌になってきたレオンは息抜きに変化球を投げてみる。


 カーブ……というよりはちょっと回転のかかった山なりボール、そんな感じの石の軌道を見てレオンはため息を吐く。


(カーブにシュート、スクリュー、スライダー、フォーク、それから……ツーシーム?色んな変化球の投げ方を知ってはいるけど、変化自体はどれも大してことないよな。多彩といえば聞こえはいいけど取り敢えず手当たり次第に手を出して、どれも中途半端になってしまった典型的な駄目ピッチャーだったような気がするな)


 前世の自分を想像して思わず苦笑するレオン。


(特にスクリューなんか「とりあえず珍しい変化球を投げられたらかっこいい」とかそんな理由なんだろうな。そういやシンカーは右利き、スクリューは左利きが投げているだけで同じ変化球だっていうのは間違いなんだっけ?でも実際どこが違うって聞かれても、いまいちわかんないよな、シンカーの投げ方もわかんないだし……ん?)


 同じ変化球なのに右利きが投げればシンカー、左利きが投げればスクリューという話があり、前世のレオンもそう思っていた。

 しかしそれが間違いであるという知識もある。

 つまり後になって訂正されたということなのだろう。


 しかし裏を返せばそれまではその知識が正しいと信じていた。そしてレオンの投げられる球種はスクリューだ。


 レオンは右利きである。では前世のレオンは?


 右手に持った石を左手に持ち替え、スタンスも逆にするとレオンは大きく振りかぶる。


(うん、違和感がない……)


 そのまま左手を後ろに引き、左足に乗った重心を前へ移して右足を大きく踏み出す。重心の移動に合わせて腰、肩、肘、手首を連動させて力を一点に凝縮、左腕を鋭く振り抜いた。


 レオンの手元から放たれた石は先ほどより数段上の球威で岩へと迫ると、そのままその上を通過して彼方へと消えて行った。





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