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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-39 以心伝心




 なるべく深く傷をつけようと曲刀を振りぬいたホルストは空中でバランスを崩してしまい、あわてて瞬動を使って姿勢制御をする。

 そのままなんとか着地をすると呆然としたように曲刀の刀身を見るが、後方でドサッと倒れる音がして慌てて振り返る。

 そこには頭部を失ったリッパーベアーの死体が横たわっていた。


リッパーベアーは8等級の魔石を持つ魔物だ。

それはホルストが倒せる限界の強さを持つ魔物ということでもある。

このランクになると魔力を帯びない武器ではほとんど致命傷を負わすことは出来ない。

つまり付与系のギフトを持たないホルストがリッパーベアーを狩ろうとすると、何度も同じ部分を攻撃して傷を広げていかなければならず、少なくとも数十分かけて攻撃する必要があった。


 それが一撃、魔力を込め忘れた攻撃を含めたとしても二回の攻撃で倒せてしまった。

 戦闘開始してから3分も経っておらず、実質戦っていたのは1分にも満たないだろう。


 使えないと聞いていた魔力水。

 効果はそれほど高くないのに一振りしか効果がない。

作るのに魔石が必要でコストパフォーマンスが悪い。

何より数時間しか保存がきかないのに調合士に作ってもらわねばならず、欲しいタイミングで手に入らないのが致命的。

 

 そう聞いていた。

 そしてそれらはほぼ全て事実であった。

 しかしレオンという存在がそのほとんどの問題を解消してしまった。



 ナターリエからは神童だと聞いていた。

 実際しばらく接していてその通りだとも思った。

 しかしそれは商売やその知識に関する話であったはずだ。

 戦闘系ギフトを持たないレオンが探索者を目指すと聞いた時、ホルストの抱いた感想は「神童といってもやはり子供だったな」というものであった。


 探索者はそれほど甘いものではない。

 ホルストほどそれを思い知らされた人間はそう多くはいないだろう。


 子供のころから探索者を目指していた。

運動神経に優れ努力も欠かさず、剣や槍、弓に至るまでほとんど同年代に負けたことはなかった。

 ギフトも武技系のみとはいえ戦闘系、それを使えば模擬戦では負け知らずであった。

付与系ギフトを使えないと探索者で上を目指すのは厳しいとは言われたが、それを技量でカバーしてみせると息巻いていた。


 それが脆くも崩れ去ったのは探索者になってわずか一か月にも満たない時期。

 初心者卒業の目安と言われる、1階層平原エリアのボス戦であった。


 相手の動きはよく見えていた。その全てに対処して確実に急所へと攻撃を加えた。

 しかし効果はほとんどなかった。

最初はホルストを警戒していたそのボスも、そのうち無視して他のパーティーメンバーを狙うようになってしまった。

 

 結局ほかのメンバーの活躍もありなんとかそのボスを倒したのだが、ホルストの顔に笑顔はなかった。

 その日のうちにパーティーを抜けた。

 気のいい奴たちで慰留もしてくれたのだが、この先足手まといになることは目に見えていた。

そうなった時、気を遣わせるのが嫌であった。

何よりパーティーとして行き詰った時、この気のいい奴らが豹変してしまうのが怖かった。


 それ以来ずっとコンプレックスを抱えながらソロで採取活動をメインに活動してきた。


 そんな中にひょっこりと現れたのがレオンであった。

採取の仕方を丁寧に教えてくれ、いつも自分に指名依頼を出してくれていた女性の息子。

彼女が亡くなったと聞いて非常に残念に思った。彼女には恩もあったのでその息子なら多少は目をかけておくか、その程度に思っていた。

 

 だから薬草も継続的に納品することにしたし、探索者になりたいと言ったレオンに軽く戦いの手ほどきもした。


 しかしいつしか……このレオンとの付き合いが自分の中で重要な地位を占めるようになっていった。


 彼は引け目を感じていた探索者としての自分を優秀だと評した。

時には先輩として教えを乞い、時には信頼する探索者として護衛や採取を依頼し、カレンにもそのように紹介してくれた。

 その態度から本気で自分のことを優秀な探索者だと思い、信頼を寄せてくれていることは嫌でもわかった。


自信を取り戻すきっかけをくれた。

 

 そして今、長年の苦悩もあっさりと解決してしまった。


 甘い夢を見る子供どころか、探索者としても自分にとっては最高の支援者だった。

 聞けばそれなりの自衛手段もすでに手に入れており、ソロでもチャージボアを狩れるという。

 自分なんかよりよっぽど探索者に向いているかもしれない。


(ナターリエのいう通り、探索者においてもまさに神童だったな。この結果も予想通りって顔だし、ほんとたいしたもんだよ)


 こちらを見て笑みを浮かべているレオンを見て、ホルストは感嘆の吐息を漏らすのであった。



 


 曲刀を一振りして血を落とし、納刀してからこちらへ歩いてくるホルスト。

 それを笑顔で迎えながら、レオンは内心で冷や汗を浮かべていた。


(えっ……何?あの動き……。確かにホルストさんはそこらの探索者より数段上だろうとは予想はしていたけど……。えっ?まさかあれが探索者の標準とかじゃないよね?)


 件の神童は少し自信を喪失していた。


 この迷宮都市ベギシュタットにあるダンジョン、その一層には10等級~8等級の魔物が出現する。

 そして先ほどのリッパーベアーのように、8等級の魔物には付与系か魔術系のギフトなしにほとんどダメージを与えられない。

そんな魔物のいるダンジョンの中にホルストはソロで5年以上も潜り続け、毎回無事に帰って来ていた。

 だからレオンは、当然その技量はかなり高いだろうと予想していたのだ。

しかし今見た動きはその予想をはるかに凌駕していたのであった。

 「自分は戦闘能力が低いから三流だ」と卑下していたホルストが、である。

 


(もしあれで平均以下とかだったらどうしよう。ジェイムス君にも謝ろうかな……)


 混乱して弱気になったレオンであったがさすがにそれは杞憂であった。


 後日カレンに聞いたところ、ホルストの技量はやはり銅ランクにしては異常らしかった。「対人戦なら金ランクでも半数は負けるんじゃないかな」という彼女の言葉を聞いて、レオンは安堵の涙を流すのであった。




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