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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-35 遠足 




 迷宮都市ベギシュタットにある探索者ギルド。

 迷宮に出発するついでにいい依頼がないかを見に来る探索者たちで溢れかえる朝のピークタイム。

 それがようやく終わり安らぎと気だるさ、祭りの後のような若干の寂しさが混在する空気の中、一人の少年がその入口に姿を現す。


 革製の鎧……というよりは間接や急所部分のみを補強するプロテクターのようなものを身に着け腰には短剣も差しており、彼も戦いの場に身を置いていることが分かる。


 もっとも探索者ギルドに登録できるのは16歳からであり、彼の体格や容姿では若干その年齢に達しているようには見えない。

余程小柄で幼い容姿をしているのではない限りギルドの正規会員ではないだろう。


 実際その少年、レオンは14歳となったばかり。成長期に差し掛かかりこの1年ほどで10センチ以上身長も伸びたのだが、まだまだ小柄で身体も細く顔つきも幼さを残していた。

 


 紅茶のお披露目から1年と数か月の月日が経ち心身ともに成長したレオンであったが、お茶会の方はというとそれほど開催されてはいなかった。

 というのも領主夫人ベルナデットの提案で、一年間を準備期間に充てたためであった。


 そうした理由はいくつかあるのだが大まかに言うとアドバンテージの確保のためであった。


 まずベルナデットとしては人材の育成と、お茶会の作法の詳細に決める必要があった。

 毎回カレンを呼んで紅茶を入れてもらうわけにはいかないので、当然領主家の使用人が上手く入れられるように訓練する必要があった。

それにお茶会における作法、これはレオンがお披露目をしたままだと曖昧な部分が多かった。そのため詳細を明確に決めてしまう必要があったのだ。もちろん彼女にとって都合のいいように……


もしお茶会が流行すればもちろん他の富裕層も自分の家で開催しようとするだろうが、そこでネックとなるのがこの両者、お茶の入れ方と作法の習得であった。

これらを洗練した所作でこなそうとするにはどうしてもある程度時間がかかるため、ベルナデットはそこでアドバンテージを得ようと考えたのだ。



 そしてもう一つ時間のかかること、それがティーセットの製作技術の向上と在庫の確保であった。

 お茶会が流行れば富裕層はこぞって紅茶とティーセットの確保に走ることになるだろう。

 しかしその時、紅茶はともかくティーセットは在庫を抱えていなければ商機を逸することになる。

 何故ならティーセットは比較的、模倣が簡単だからだ。

 在庫がなければ製作を依頼すればいい。

 レオンとしては製作に苦労したのだがそれでも職人に依頼して数か月で出来たのだ。

富裕層が金に糸目をつけずに依頼すればその期間はもっと短くなるだろう。


 そのためレオン、ベルナデット、そしてジスカール商会のオディロンはそれぞれで職人を抱え込み、ティーセットの製作を依頼して在庫の確保と技術の向上に努めた。

 特に財力に乏しいレオンは、金策にいそしみながらもその稼ぎのほとんどティーセットに費やすこととなった。

 ちなみにカレンも紅茶の増産に努めており、レオンの「一度弟子を育ててしまえば、生産や教育を任せて自分は研究に専念できる」という説得に応じて嫌々ながらも数名の弟子をとって育てている。


 そうして一年かけて準備したかいもあって茶葉、ティーセットともにかなりの在庫を確保でき品質も向上した。

 その中でも特にいい出来のものはベルナデットに納品しているが金額はまだ受け取っていない。

 というのも現状だと市場価値がわからないので、お茶会の流行後の市場価値に応じて金額を受け取ることになっているためだ。

 その代わりいい出来のものは必ず真っ先にベルナデットに見せることになっているので、いいものを確保しておきたい彼女にとっても損はない。


 またそれ以外のものは全てジスカール商会に納めているが、こちらは販売を委託する形で、売却益に応じて料金を受け取ることとなっている。

 これは富裕層の知り合いなどおらず、仮に取引が出来たとしても立場が弱くて無理を押し通される可能性の高いレオンとしては当然の措置であった。


 そして一年が経ちようやく準備期間も終わり、すこしずつお茶会が開かれるようになってきた。

 といってもまだベルナデットも様子見段階なので、身近な者を相手にした小規模なものしか開催されていない。

しかしそれでも滑り出しは順調なようで、早くもジスカール商会には数件の問い合わせがあったようだ。

そして実際に一組、かなりの高値でティーセットも売れたようであった。


 こうして利益が出だすとレオンも資金繰りのために無理をする必要がなくなってくる。

そしてようやく探索者関連の方に時間を割く余裕も生まれてきたのであった。



 レオンは入り口をくぐるとカウンターへは向かわず、複数のテーブルが置かれているスペースへと向かう。

 このスペースはギルドに併設された酒場……ではない。

飲食は可能だが軽食のみで酒は禁止、椅子も置かれていない。

 というのも探索帰りで色々と感情の高ぶっている探索者たちに酒を出すとトラブルが絶えないうえに長居するようにもなる。するとただでさえ人で溢れかえるピーク時の混雑がより酷くなってしまうからだ。


 ちなみに椅子が設置されている待機スペースもあるのだが、そちらは探索者の使用は禁止。依頼者や買い取り業者など、ギルドへの来訪者用のスペースである。


 レオンも探索者ではないので本来はそちらへも行けるのだが、今日は探索者側で人と合流することになっている。

 スペースに到着するとその相手は探すまでもなく向こうから気付いて近づいて来てくれたのでレオンは手を上げて挨拶をする。


「こんにちは、ホルストさん。今日はよろしくお願いします」


「よう、レオン。気合入ってるな。今日も訓練してきたのか?」


「はい、商人としても護身の術は必要ですから……」


 レオンの探し人、それはポーションの原料である薬草キュアリーフを納品してくれている銅級探索者ホルストであった。

 彼とは納品のため定期的に会っていたがそれ以外にも付き合いがある。

 商品の受け取りや納品の際に何度か護衛を依頼していたし、レオンを介してカレンから紅茶の茶葉の採取も引き受けていた。


 また面倒見のいい彼はレオンに何度か戦闘における身のこなし方の手ほどきなんかも行っていた。


 そして今日、前から頼み込んでいた望みがようやく叶い、ホルストにベギシュタット近郊の森へと狩りに連れて行ってもらえることとなっていた。


 昨日から楽しみにしていたレオンはホルストと軽く会話を交わすと早速とばかりに出口へと向かおうとする。

 しかしそこへ後ろから声がかかった。


「よう、肉坊主。相変わらず羽振りがよさそうじゃねえか?今日は豪勢に護衛を連れて死体漁りか?」


 そこには下卑た笑みを浮かべた赤ら顔の男が立っていた。









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