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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-32 虫よけは忘れずに……




「うわぁー、ほんといい香り」


「そうだねぇ」


「いままで嗅いだことない素晴らしい香りですね」


「これは……確かに紅茶の香りのようですね。前にいただいた時と少し違うような気もしますが……むしろこちらの方が香り高い?」


 令嬢たちが初めての香りに顔をほころばせる中、やはり領主夫人であるベルナデットは紅茶を飲んだことがあるようで、以前自分が飲んだものを思い出しながらそれと比較をしている。


 そうしてそれぞれが十分に香りを楽しんだ後、ゆっくりとカップに口をつけていく。



「なにこれ!ものすごく美味しい!!」


「これはなんというか……とても甘くておいしいのですが、どこかホッとする味ですね」


「…………あっつーい!!」


「ちょっとナタリー大丈夫?美味しいからって一気に飲んじゃだめよ」


「…………」


 何故か一人だけレオンの注意を聞かなかったホスト役は別にして、おおむね好評なようである。


 無言のベルナデットも何やら考え込んでいる様子であるが、何度もカップを口に運んでいるので不評ということはないだろう。


「よろしければこちらのクッキーもお召し上がりください。こちらは敢えて甘さを控えめにしています」


「ん!?」


「うん、確かに甘くないけど……なるほど、この方が甘い紅茶には合いますね」


「えぇー……あ、本当だ。甘くないのに美味しい。それにその後紅茶を飲むとさらに美味しいよ」


「うん……でも甘いお菓子も食べたかったなぁ」


(おいこらっ、ホスト……)


 一部身内のはずの令嬢からの妨害はあったものの、非常にいい雰囲気で少女たちの会話は弾んでいる。

 その様子を嬉しそうに眺めていたレオンであったがそこにベルナデットから声がかかる。


「満足そうね、思惑通りと言ったところかしら?」


「いえいえ、そんな恐れ多い」


「そうかしら?でも……確かにあなたの言う通りこれは優雅な時間だわ」


「おっしゃられる通りこうして甘い物を頂きながらリラックスした雰囲気の中でお話出来るというのはとても贅沢な時間だと思っております。これがお茶会の最もいい点かもしれませんね」


「そうね、これなら招待された方もまた呼ばれたいと思うでしょうし身内で楽しむ分には素晴らしいと思うわ。ただやっぱり領主夫人として催す社交の場としてはね……」


 ベルナデットの言いたいことはレオンにもわかる。


領主、バラデュール家は貴族ではない。

しかし、貴族ではないからこそ常に権威を示し続けなければならない。

 そのためバラデュール家の人間が社交の場を開催するならば、それなりの品格や特別感といったものが求められるのだ。


 例えば夜会であればその規模に始まり内装や衣装の豪華さ、食事や音楽の質などで領主家としての格をわかりやすく示すことになる。


しかし今行われているお茶会ではそれを示すことができないとベルナデットは言いたいのであろう。


紅茶は確かに美味しいしこの場の居心地もいいのだが……豪華さなどはあまり感じらない。紅茶自体も現在は希少であるものの、今後レオンたちが売り出すのであればその希少価値は薄れてしまう。


 要は仲のいい相手や身内と楽しむ分にはいいのだが、領主夫人として客を招くには質素というかインパクトに欠けるのだ。


 実際、テーブルには白いクロスが敷かれ中央には控えめに花なども飾られているのだが、あとはティーカップと皿に盛られた素朴なクッキーのみでとても華やかとはいえない。

 もしこんな席に他国の嫌味な貴族でも招いてしまえば「所詮は庶民の成り上がりだな」と馬鹿にされてしまうであろうことには目に見えている。


 しかしそのことはレオンも当然理解している。



「そうですか……ところで話は変わりますが実は今回のティーセット、このカップも含めた紅茶に関する食器の数々は私が用意したものなのですがいかがですか?」


 やけにあっさりと引いて話題を変えてしまったレオン。

そのことを不審に思ったものの、ベルナデットはレオンに聞かれた通り素直に自分の手元にあるティーカップを改めて確かめる。

 というのも実はベルナデットとしても、この今まで見たことのないデザインの食器が気になっていたのだ。

 陶器製らしき繊細な作りが特徴的な食器、ティーカップ。

 飲み口は金色に縁どられていて高級感はあるものの、華美な印象はあまりない。

落ち着いたデザインで白地の中に淡い色彩の花の絵がちりばめられている。

 

 また他の食器、カップの下に置かれた皿やティーポットなども似たようなデザインで統一されている。


「そうね……、紅茶用の食器というだけあってあまり見たことのない形状のものもあって興味深いわ。デザインもシンプルだけど安っぽくはないし質としては悪くはないわね」


「そうですか、質自体に問題ないようでしたらよかったです。というのも実は今回、紅茶のお披露目ということもあり、最初は紅茶自体に集中していただけるようにティーセットも含めてあえてシンプルなセッティングをさせていただいていたのです」


「……なるほど、そういうことね。つまり華やいだ雰囲気のものも用意しているということ?」


「さすがのご明察、その通りでございます。せっかくですのでこれからご用意させていただいても?」


「ええ、いいわ。ご用意して下さる?」


「かしこまりました……それではお願いします」


 レオンがそう言って入口の横に立つ使用人に向かって頷くと、再び扉が開かれ使用人たちがワゴンを押して入ってくる。


「うわぁ……凄い、何あれ?」


「お菓子の塔?」


「待ってましたー!!もうレオン君あるなら早くだしてよー」


 その中でも特に目を引くのが色とりどりのお菓子が乗せられた高さ30センチほどの塔のようなもの。


 よく見ると細い金属の骨組みで出来たスタンドに皿が三段セットされており、その皿の上にそれぞれお菓子やケーキ、パンのようなものが乗せられている。

 これは海外の映画やホテルなどでまれに見かける、イギリスのアフターヌーンティーに使われているスタンドを模したものである。

本来はどの段に何を置くかなど決まっていたはずだが、レオンもそこまで正確に覚えていなかったのでとりあえず見栄え重視でお菓子などを盛っている。



 令嬢たちがそちらに目を奪われている一方で、ベルナデットが注目したのはやはりティーカップだった。

 先ほどとデザインのベースは同じなようで、白地に金の縁取りと花の絵付けがされていることは変わらない。しかし、金の縁取りの面積は増えているうえにその金自体が立体的な意匠となっている。また花の絵も面積が増えて色彩も豊かになっており、先ほどのティーカップよりもかなり華やかな印象になっていた。


 そこへいつの間に準備したのか、同様に色鮮やかになったティーポットを持ったカレンが紅茶を注いでいく。


 またそれらと同時に花なども設置されていき、全てのセッティングが終わったころにはテーブルの上は立体的で色鮮やかに飾りつけられていた。



「お待たせいたしました。先ほどとはかなりイメージを変わったと思うのですがいかがでしょうか?」


「なるほどね、これが本来の社交用のセッティングというわけですか……。確かにこれなら多少内装に手を加えればお客様をお呼びしても問題なさそうね」


「ありがとうございます。私どもではこれが限界でしたが、ベルナデット様が内装を整えられた部屋であればより華やかな雰囲気になることは間違いないでしょう。ただもう一つ、内装を整える代わりに屋外で行うという方法もございます」


「屋外で?」


 イメージが湧かなかったのか、ベルナデットが少し眉をしかめるがレオンは気にせずに続ける。


「はい、といっても庭のテラスのような場所でですが……。例えば私は拝見したことはございませんが、領主様の館の庭園は大変美しいと伺っております。そこで春などの過ごしやすい季節に咲き誇った花を眺めなら優雅にお茶を飲む、というのも一つの楽しみ方でございます」


 これはもちろん領主邸の庭園がバラデュール家の自慢の一つであるという情報を知った上での提案だ。

 そしてその提案はどうやら正しかったようでベルナデットの反応も悪くない。

 レオンの提案を聞いて考え込んでいる様子ではあるが、実際にお茶会をしているところを想像しているのかその雰囲気は柔らかい。


 しかし、彼女からの言葉が返って来る前に別のところから反応が返って来た。

 いつの間にか二人の話し合いを聞いていた令嬢たちだ。


「うわぁ……領主様の庭園って……。あそこで花に囲まれてお茶会ってものすごく贅沢だよねえ」


「うん、想像しただで幸せな気分になるよ」


「そうね、たしかにあそこでお茶会やってみたいわね。でもお父様に知られたら張り切って改装しちゃいそうだわ……」


 わいわいとはしゃぎながら言い合う令嬢たちを見て、ベルナデットも笑みを浮かべる。


「そうね……このティーセットだと庭の雰囲気にも合いそうですし、一度やってみてもいいかもしれないわね」


 彼女たちに合わせてなんとなくそういったベルナデット。


しかしレオンとしてはその一言を見逃すことは出来なかった。






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