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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-27 個室でお願いします




 迷宮都市ベギシュタット。

 狩りから戻ったレオンは城門をくぐったところで一気に緊張を解いた。

 するとその途端、全身にドッと疲労感が押し寄せて来る。


 十分に勝算があったとはいえ、初の命をかけた狩りであった。

 慣れない索敵で常に気を張っていたうえに、命を失うかもしれないという漠然とした恐怖心。

 緊張状態がずっと続いていたために想像以上に疲労が溜まっていた。

 とりあえずどこかに座って休みたい気もするが、一度座ってしまうと動きたくなくなってしまうことは目に見えていたのでそのまま立ち止まらずに足を進める。


 目的地は探索者ギルド。

 今日の狩りの成果を買い取ってもらうためだ。

 探索者ギルドに登録できるのは16歳からだが持ち込み自体は誰でも出来る。


 人脈づくりや利益を考えるなら解体してから革や肉、魔石などを分けてそれぞれを扱っている商店に持ち込んだ方がいいのだがレオンがこれまで解体したことがあるのはハンマーラビットのような小物だけだ。

今回のワイルドボアのような大物を解体することは体力的にも技術的にも不可能であった。

 

 探索者ギルドの入り口をくぐると真っすぐ買い取りカウンターへ向かったレオンであるが、その手前で足を止めた。


 探索者らしき人々が並んでいるそこは窓口というべき場所であった。

 受付に立っている女性の前には大き目の台があり、その上に探索者たちが魔石や素材取り出して並べているのだ。


 とてもじゃないがワイルドボアをそのままドンとおける雰囲気ではない。

 目立ちたいならそれでいいかもしれないが、現状のレオンは探索者でもない子供なので自衛のためにも目立ちたくはない。

 そもそも人前でインベントリを使いたくもない。

 そのためどうしようかと悩んでいたところで、突然後ろからにゅっと腕が伸びて来て抱き着かれた。


「どうしたの?レオン君。姉さんに会いたくなっちゃった?」 


(この間、人違いで謝ってたのに懲りないひとだな)


「こんにちは、ナターリエさん」


 そう言ってレオンが回された手を軽くタップすると素直に離れてくれたので彼女の方へと向き直る。


 そこに少し不満そうな表情で立っていたのは、探索者ギルドの職員で色々お世話になっているナターリエ。

 どうやらレオンがもう少し驚くか慌てると思っていたようで、あっさりと流されたことがお気に召さなかったようだ。


 一方困っていたレオンとしては職員のナターリエが来てくれたことはまさに渡りに船で、さっそく買い取りの件を話そうとする。

 しかしそこでふと気づく。


『一人ではいっちゃだめよ』


 先日魔物の情報を聞いた時にナターリエから言われた言葉だ。


 口を開こうとしたところで固まってしまったレオンを見て訝しそうにしていたナターリエであったが、何やらレオンの後ろめたそうな表情をみて何故か満面の笑みになる。


「どうしたのかな?お姉さんにいうのは恥ずかしいのかな?大丈夫だから勇気を出して言ってごらん」


「………………」


 心配して忠告してくれたのを無視して狩りに行ってしまったことに後ろめたさを感じていたレオンであるが、ナターリエの態度を見て呆れるとともに少しホッとする。


(もしかしてこれは気を遣ってくれているのだろうか?)


 新たに湧いた疑問はとりあえず置いておくとして、少し迷ったもののどちらにしても狩りに行ったことは言わざるを得ない。

微妙に罪悪感も薄れたこともあってレオンは事情を話すことにした。


「あー、実はですね……その狩りに行って来たので獲物を買い取ってもらいに来たのですが……」


「えっ?ああ、持ち込みにきたのね。まったく一人で行っちゃだめだっていったのに……それで何を悩んでるの?」


「その、獲物がインベントリに入っているのですが人前でそこから取り出すのがちょっと……」


「ああ、確かにレオン君くらいの年齢の子供が人前で使うのはあんまりよくないわよね。けどどっか物陰で取り出してくればいいんじゃない?」


「それがちょっと持ち運べそうになくてですね」


「持ち運べないって……レオン君、何を持ってきたの」


「ワイルドボアを丸ごと……」


「ワイルドボア丸ごと!?」


「2頭とフォレストエイプ1頭です……」


「………………」


「………………」



 引きつった笑顔でナターリエの様子を窺うレオンと、こちらも引きつった笑顔を浮かべるナターリエ。

 そんな奇妙な状態が数秒続いた後、ナターリエがハーッと大きなため息を吐く。


「まあ色々言いたいことはあるけど確かにそれはあそこには出せないわね。ちょっと待ってて、個室取ってくるから」


「すみません、ありがとうございます」


 レオンの謝罪とお礼に少し困ったような笑みを浮かべて頷いたナターリエは買い取りカウンターの横に座っている女性職員に声をかけて何やら話し始める。

 途中その職員に驚いたような視線をレオンに向けてきたので愛想笑いを浮かべてやり過ごす羽目になったが、少しして話がついたようでナターリエが木札のようなものを持って戻って来た。


「3番の個室が空いてたから取って来たわ。行きましょう」


「はい」


 レオンが素直について行くとナターリエはカウンターの横を通り抜けて奥まった場所へと向かって行く。

 その道中で聞いたナターリエの説明によると量が多い場合や高価な品を扱う場合など、レオン以外にも買い取りカウンターに出せないという人間は一定数いるのでそのための個室がちゃんと用意されているらしい。

 それから個室の中には買い取り係の職員がいるそうでインベントリを見せることになるそうなのだが、個室の性質上その職員には守秘義務が課されているということなので問題ないと頷いておいた。



 『3』と書かれた大きな扉の前まで到着するとナターリエがその扉をノックすると、男性の声で応答があったのでナターリエの誘導に従いレオンは入室する。

 

 中には30~40代くらいの男性が立っており、少し驚いたような眼でレオンを見ていた。それに対して軽く目礼をしてからレオンは室内を観察する。

 広めにとられた室内には飾り気がなく中央に一台、隅の方に複数のストレッチャーの上に丈夫な板を張り付けたような台車が置かれている。

レオンたちが入って来た扉の向かい側にも奥へと続く大きめの扉があることから、納品されたものを運搬できるようにこの台車はあるのだろう。


 レオンのうしろでナターリエが扉を閉めるとそれを確認した男性が口を開いた。



「ナターリエか、珍しいな。どうしたんだ?」

 

「お疲れ様です、アルバンさん。こちらのレオンさんが大物を納品したいというのでご案内いたしました」


「ん?こちらの坊主がか?」


 そういって怪訝そうに部屋にいた職員、アルバンがレオンを見て来たのでレオンは口を開く。


「初めましてアルバンさん、レオンシオ・トーレスと申します。ギフトの関係でチャージボアを丸ごと持ってきてしまったのですが、納品方法に困っていたところナターリエさんにこちらにご案内いただきました」


 レオンの様子と発言の内容に少し驚いたような様子を見せたアルバンであるが、あまり細かいことを気にしない性格なのかすぐに納得したように頷く。


「あぁ、インベントリ持ちなのか。それなら鮮度もいいだろうし、珍しい部位の肉も手に入るのでこちらも大歓迎だ。この台の上に出してくれ」


「えっと2体あるのですが……」


「お、そうか。じゃあ2体目はこっちに出してくれ」


そう言ってアルバンは部屋の隅にあった台車をもう一台部屋の中央へと持ってくる。

 レオンは指示通りにその上でインベントリを開いてそれぞれにチャージボアの死体を乗せていく。

 それを愕然としたような眼で見るナターリエと興味深そうに観察するアルバン。


 ナターリエとしてはレオンがくだらない嘘をつくとは思っていなかったし、レオンならあり得るとは思っていた。

しかしそれでもチャージボアの巨体を目の当たりにすると、戦闘系のギフトも持たない目の前の子供がこれを狩って来たのかと驚きを禁じ得ない。


 一方のアルバンは死体の状態が珍しいほどキレイなことに驚いて観察を続けていた。


「さすがはインベントリといったところかまだ微妙に体温が残っているな。すぐに血抜きをしてさばけば肉の状態は最高と言っていいだろう。それに毛皮に傷がほとんどない。牙が片方折れてしまっているのは残念だがそれ以外は最高の状態ってところだな。頭部がひしゃげて牙が折れているからデカい鈍器で一撃、とどめに喉を掻っ切ったって感じなんだろうけど……どうやったんだこれ?」


 そう言って顔を上げたアルバンの視線を受け止めてレオンは曖昧な笑みを浮かべる。アルバンに守秘義務があるとはいえ必要もないのに自分の手の内を明か気はない。

 それよりもレオンとしてほぼ正確に戦闘の状況を読み取ったアルバンに驚きを禁じえなかった。さすがは探索者ギルドの職員といったところだろうか。


 しかしレオンは次のアルバンの発言でさらに驚かされることとなる。


「まあそりゃそんななりだし手の内を隠すのは仕方ねえか。それにしてもしっかりしてんなぁお前さん。どうだ、これほどの品質でチャージボア丸ごとなら確実に買い手はつく。なんなら顧客に話つけてやるから定期的に持ってくる気はねえか?」









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