表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
27/138

1-26 樹上のハンター大地に立つ 下




(おお、予想以上に効いたな)



 仰向けに倒れてから顔を押さえて悶絶しているフォレストエイプを見てから、レオンは手元のペットボトルを眺める。


 その中身は魔法水。


 ポーションの原料で、魔石の魔力を溶かし込んだ水。


 飲むと僅かながら魔力を回復することができ、武器に振りかけることで付与系ギフトと同様の効果を発揮するも出来る。つまり魔力のこもった武器でしか傷つけられない魔物でも傷つけることが出来るようになる。

ただしその効果は低いうえに一振りすれば効果はなくなってしまう。 

さらに魔法水自体の保存がきかず数時間で劣化してしまうため結局は使いものにならないとされていた。


 しかしインベントリと調合のギフトを持つレオンの場合は事情が異なる。


 インベントリに入れておけば魔法水も1日以上はもつし、魔石と水さえあればいつでも生成出来るので補充も簡単に行える。


 問題は威力だったのだがそのための実験が今日の目的の1つであり、その結果が今悶絶しているフォレストエイプだ。


 先に石にかけた魔法水は10等級の魔石、後でかけた魔法水は8等級の魔石で作った魔法水である。

 前者は軽く傷つける程度だったのが、後者はハッキリとダメージを与えた。

 つまり魔法水の原料となる魔石の等級によってその威力は変わり、レオンでも魔物に有効なダメージを与えられることが分かった。

 これは戦闘系のギフトを持たないレオンにとっては非常に大きな発見だった。


(ただ問題はコストパフォーマンなんだよなあ、せめてクロスボウが買えたらもう少し検証出来たんだけど……)


 しかしこれが実用的な手段かと問われると首を傾げざるを得ない。

 魔法水に使った魔石の等級は8等級だが、フォレストエイプの持つ魔石も8等級なのだ。

 魔物一体倒すのに同等の魔石を1個使っていては話にならないし、なによりもまだフォレストエイプを倒せたわけでもない。

確かに魔力水に浸した投石は有効だったのだが油断したところに顔面に直撃させた結果、悶絶している程度でしかない。

 相手を討伐するのに何発投げなければならないのかを考えるとこれをメインに戦うというのは難しい。

 

 そのため本来はクロスボウを買って来て、ボルトの先端を魔法水に浸しておけるような専用の矢筒を作るつもりだった。

 10本程度のボルトの先端を浸すだけなら魔石1個分の魔法水で十分に量は足りるし、数発でフォレストエイプを仕留められるなら元も取れると思ったのだ。


 ただ肝心のクロスボウが想像したより高かったうえにゴーレムの核を買い過ぎて金欠だったのだから仕方ない。昨日の実験自体は後悔していないし、優先度で言えばあちらが上だ。


 それにクロスボウ自体の性能もピンキリで複数買って試す必要があるかもしれないし、場合によっては弓に切り替えた方がいいかもしれない。

 どちらにせよこれについては気長に検証していくしかないのだろう。



(それにこっちも試したいしな)


 ここで魔法水については一区切りとしたレオンはインベントリから次のアイテム、野球ボール程度の半透明な球体を取り出す。

試したかったもう一つのアイテムだ。


 レオンは手に持ったそれに魔力を流し込みながらフォレストエイプを見る。

 いつの間にか起き上がって顔を押さえていたフォレストエイプの憎悪に染まった涙目と視線がぶつかる。


 そのまま数秒見つめ合っていると、馬車でも通ったのか街道の方から微かに物音が聞こえて来た。

 それに反応したようにレオンがそちらに視線を向けると気になったのかフォレストエイプもそちらに顔を向ける。


(えっ……引っかかるの!?)


 引っかかるほどの知能があると思えばいいのか、単純な手に引っかかるほど馬鹿といえばいいのか……


そんな疑問を抱きながらもレオンは容赦なく手に持った球体をフォレストエイプに投げつける。

 その動作に気付いたフォレストエイプがギョッとして咄嗟に腕を上げて顔をかばう。

 先ほどと同様の衝撃が来ると身構えていたフォレストエイプであったが、その予想とは異なり腕に当たった球体は簡単に割れてその中身が腕へとへばりつく。


 フォレストエイプの腕にへばりついたのは黄色がかったジェル状の物体で微かに発光していた。


 それはいつぞや作ってレオンが微妙だと判断した麻痺ゼリーである。


 普通に触ってもなんともないのだが、魔力を込めるとその効果が発揮され粘着性が増し触れたものを麻痺させる。


 腕に貼りついた気持ち悪い物体。

それを引き剥がそうとフォレストエイプは反対の手を近づけるのだがそこで自分の身体の感覚がおかしいことに気付く。

麻痺ゼリーの効果はどうやらフォレストエイプに有効だったらしく、その動きが徐々に鈍くなっていく。

やがて耐え切れなくなりその場に手をついてしゃがみ込む。


 さらにそこに向かってレオンからの2投目。

放たれた球体は動けないフォレストエイプの顔面に直撃。

 今度は緑色のジェル、毒ゼリーがフォレストエイプの顔面に貼りつく。

 

 フォレストエイプは反射的にそれを剥がそうと顔に手をやろうとするが、腕の支えのなくなった身体は簡単にバランスを崩してその場へ倒れ込む。

 それでもフォレストエイプはなんとか起き上がろうとするのだが手足はジタバタと足掻くような動きをするだけ。

その動きも徐々に緩慢になっていき数分もするとほとんど動かなくなる。


やがて完全に動きを止めたところでレオンはホッと息を吐いた。


 それでも念のため少し近づかずに様子を窺っていると、先に貼りついた麻痺ゼリーから微かな光が失われてポトリと剥がれ落ちる。どうやら効力を失ったようだ。

 

 少しすると同様に毒ゼリーも効力を失うがこちらは顔の凹凸のせいか貼りついたままだ。


 レオンはフォレストエイプの死体に近づいて軽く足先でつついて完全に死んでいることを確認すると、念のため解毒ポーションを片手に毒ゼリーを顔から引き剥がす。


 予想通りその効力は失われており特に毒を受けることもなかったので解毒ポーションをインベントリに戻し死体の回収作業に取り掛かる。



(麻痺ゼリーと毒ゼリー、予想以上に使えるな。ちょっと残酷なようだけど今のところ一番有効な攻撃手段だからなぁ……コスト的にもギリギリ元は取れそうだし当分はこれがメインウェポンになりそうだな)

 


せっかく新たに出来たものの使いづらかったこれらのゼリー。


 魔力を込めると効果を発揮し粘着性を増す。


 魔力を込めてから効果を発揮するまで多少のタイムラグはあるものの、そのまま手に持って使うには自爆のリスクが高すぎる。

そのうえ近接戦闘能力低いレオンが使うには投げるしかなかったのだが、ゼリー状のそれは非常に投げにくい。


しかし昨日、プラスチック状のスライムが出来るようになったおかげで事情が変わった。


ここでレオンが思いついたのがコンビニなどによくある防犯用のカラーボールだった。


調合という自分のギフト。

それを最大限活かす自分に合った武器がこれではないかとレオンは考えたのだ。

 調合で出来上がる成果物が薬品系、つまりは液体状の物が多いであろうことは容易に予想がつく。

 実際に現状でもポーション系に麻痺ゼリー、毒ゼリーと液体かそれに近いもの。

 これらを遠距離から投擲出来れば回復手段にも攻撃手段にもなり得る。

 


投げる時に割れない程度の強度はあるが、人体に当たった程度で割れる絶妙な硬さ。

それをゴーレムの核の数やスライムの量を調整しながらなんとか実現した。

 大きさはや形状は野球のボールを参考にして滑り止め用に凹凸もつけてある。

 今後もブラッシュアップは必要だろうが一夜漬けで作ったものにしては結構満足のいくものが出来たと自負している。

 ガラスではこうはいかないだろうし、味方に当てた場合は破片も危険だ。

 さらにスライムゼリーはコスパもいい。

 スライム一匹分のゼリーで2~3リットルはあるためカラーボールなら数十個単位で作れる。



 これとインベントリがあれば補給運搬、防御、回復、攻撃とかなり汎用性の高い役割を担えることになる。

個人的な戦闘能力は微妙かもしれないが、パーティー単位で見た場合は補助的な立ち回りとして有用な戦力になれるかもしれない。

 

 このカラーボールもどきが出来たことによって、レオンの中で漠然としていた今後目指すべき探索者像が徐々に形になりつつあった。

 

 






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ