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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-25 樹上のハンター大地に立つ 上




 探索を開始して2時間が経過した。


(うーん、そろそろ帰るか……)


 あの後チャージボアをさらにもう一体狩ったものの、それ以降新しい獲物に出会うことはなかった。

 もっとも安全マージンをとって森の中には入らず、街道からもあまり離れないように森の外縁部に沿って行ったり来たりしていたので遭遇率が低いのは仕方ない。


 それよりも慣れない索敵で徐々に疲労が溜まってきていた。

 せっかく安全マージンを取って探索しているのに、ここで疲労からミスをして危険な目に遭ったら本末転倒だ。

本命の実験は出来なかったが狙っていたのは森の外での遭遇率が極めて低い魔物。

今回は実戦経験を積むことが出来たことだけでもよしするべきだと自分に言い聞かせたレオンは街へと引き返すことにした。


 そうして街道へと引き返し始めた瞬間、森の方から物音が聞こえて来た。

 しかも今回は森の上部、木々の上から物音は響いて来ているので相手はチャージボアではない。


 期待を込めてレオンが森に目をやる中、木々の合間の高い位置から黒い影が勢いよく飛び上がり、ちょうど森とレオンの中間あたりの地点に着地する。


 歯をむき出しにしてレオンを凝視する黒々とした瞳。暗褐色の体毛に覆われた身体は二本足で立っておりその体高は150センチメートル前後。

 前足……というよりは腕と言った方が適切なそれは異常に発達しており直立していても地に着くほど長い。

 その反面、後ろ足はあの高さから着地しても平気な程頑強であるのだが異様に短い。


 レオンが狙っていた獲物、フォレストエイプだ。

 その長い腕を活かして木々の間を飛び回り、森の中を高速かつ立体的に移動する厄介な猿型の魔物。肉体も強靭で魔力を通していない武器ではほとんど傷つけることが出来ず、逆にその長い腕を叩きつけられればレオン程度ならば一撃で昏倒する。

しかも繁殖期には群れを形成して集団で襲ってくる。

性格は極めて獰猛で肉食。

場合によっては銀級探索者のパーティーでも全滅の憂き目にあうことがあるという。




 これだけ聞くとレオンではとてもではないが相手に出来ないような魔物なのだが、それが森の外での遭遇となると途端に話は変わってくる。


「グギャアアアアーーー」


 完全にレオンをロックオンしたフォレストエイプは涎をまき散らしながら耳障りな甲高い鳴き声を上げ、唐突に両腕を天に向かって突き上げる。


 そして後ろ足を一歩前へと踏み出す。

 一歩ずつ、一歩ずつ……ゆっくりと突き上げた両腕でバランスをとるようにしながら……


「………………」


「グギャアアアアーーーーー」


「…………」


一秒に1メートル程度は進んでいるのだろうか。


「グギャッ、グギャッ」


「…………」


 その距離はなかなか縮まらない。


 このフォレスエイプという魔物、何故か地上での移動にその長い前足を使うという発想がないらしく、必ず後ろ足の二足歩行で移動する。

その移動速度は非常に遅くその気になればいつでも逃げられるのだ。


 しかも森から飛び出してくるのは縄張り争いに敗れた単独行動の雄のみ。

 

 フォレストエイプの群れ、つまり一匹の雄を頂点とするハーレムは弱い子供を連れていつでも逃げられように木の上からは降りて来ない。

 それなら一匹でも降りて来るなよと思うのだが、縄張り争いに負けてやけになっているのか、こうやって森から飛び出してくるフォレストエイプは常に一定数いる。


(まあ仮に集団で来られても逃げ切れることに変わりはないんだけど……バンザイした猿の集団にジワジワ迫られるのはチョット勘弁してほし……うわっ?)


 あまりにも間抜けなフォレストエイプの行動にすっかり気が抜けて妙な光景を想像していたレオンであるが、いつの間にかフォレストエイプとの距離が意外と詰まっていたことに気付いて慌てて距離を取る。


(危なかったな。まさか油断を誘うためにあえて間抜けな行動をしているのか?いや……これは疲労のせいか……やっぱり探索で無理は禁物だな)


 自分が単純に油断しただけなのだが、その原因をフォレストエイプと疲労に責任転嫁してすっきりしたレオンは気持ちを引き締めてからインベントリを手元に展開。

 取り出したのはここに来るまでの間に拾ってきた拳程度の大きさの石。


 全身に魔力を行き渡せて身体強化を施したレオンは軽くステップしてその石をフォレストエイプに向かって全力で投げつける。


 前世で野球経験でもあるのかその投球フォームは様になっており、身体強化の効果も相まってとても子供が投げたとは思えない球威で放たれた石は真っすぐフォレストエイプに向かっていく。


 そのまま見事にフォレストエイプの頭部に直撃……したのだがあっさりと弾き返される。

 当たった個所を見ても傷らしきものは見たらず、フォレストエイプ自身も何の痛痒も感じてないどころか何故かちょっと嬉しそうだ。


(まさかドヤ顔?「全く効かんなぁ」ってか?変な歩き方のくせにちょっと腹立つな。しかし身体強化しての投擲は予想以上だったな。子供の身体でもあれだけの球威がでたんだ。成長して手足が伸びて筋力がついたらメジャーリーガーも真っ青な球を投げられそうだな。あとはどれくらいダメージが通るかなんだが……)


 再度インベントリから石を取り出したレオンはさらにインベントリに手を突っ込んで、微かに青みがかった透明な筒状の物体を取り出す。


 ちょうど手になじむサイズの円筒形で上部だけ細くなっており、中には液体が入っているそれは……ペットボトルだ。


 昨日発見したスライムゼリー製のプラスチックのような物質、それを使った商品の第一号に考えているのがこのペットボトルだ。現状だとスクリューキャップが上手く作れず、ゴム状にしたスライムで栓をしている状態だが……とりあえずは、割れにくいポーション容器として売ろうかと思っている。 

モニターも兼ねてホルスト辺りに持たせて徐々に浸透させていく予定だ。



 そんな未完成なペットボトルの栓を抜き、中の液体を手に持った石にジャバジャバとかけたレオンは再び魔力を纏ってからフォレストエイプに向かってその石を投擲する。


 勢いよく飛んで行った石は余裕の表情を晒すフォレストエイプの額へと命中。

すると今度はフォレストエイプが軽くのけぞり当たった個所には小さな傷らしきものが刻まれる。


「グギャッ!?」


 驚いたような表情で石が当たった個所手で触ってからその手を見るフォレストエイプ。


 その間に3つ目の石と別のペットボトルを取り出して、再びその中身をジャバジャバとかけ始めるレオン。


 ジッと自分の手を見つめるフォレストエイプ。その手にはかすかながら血がついておりそれを確認したフォレストエイプの表情が徐々に険しくなっていく。


 そのまま怒りのボルテージ上がっていき、ついに最高潮に達したフォレストエイプは怒りの咆哮上げようと大きく息を吸い込み顔を上げ……ようとしたところでその鼻面にレオンの投げた3つ目の石がめり込む。


グシャリと音がしてのけぞったフォレストエイプはそのまま鼻血をまき散らしながら仰向けに倒れ込んだ。








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