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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-19 異世界の奨学制度?




 カレンはとある辺境の村に6人兄弟の5番目、次女として生まれた。

 なんの特産もない寒村の農家。

とても裕福とはいえなかったが親兄弟からはそれなりの愛情を注がれ、それなりに幸せといえる幼少期を過ごした。


 転機となったのは数えで6歳となる年のこと。

 その年に6歳となる子供たちが神殿に集められ、ギフトを確認する鑑定の儀が行われた。

 その結果カレンは探索者としてかなり優秀とされるギフトを授かっていることがわかった。

 本来は本人と付き添った両親にしか知らされないはずのその鑑定結果。

しかし鑑定の儀を行ったその翌日、それを何故か知っている男が彼女の家を訪れた。


大手クランのスカウトと名乗るその男は、優秀なギフトを持つ彼女を自分たちのクランに引き取り、探索者のホープとして育てたいという。

 クランに行けば訓練を受ける必要はあるが裕福な暮らしが出来るという。

 また真剣に訓練をして、将来優秀な探索者になれば富も名声も思いのままだとも……


 しかしカレンは貧しいとはいえ十分暮らせている現在の生活にそれほど不満はなかったし、わざわざ両親と離れてつらい訓練をしてまで富や名声が欲しいとは思えなかった。


 両親もカレンのその意を汲んでくれて断ってくれた。


 ところがその数日後、再度その男が彼女の家を訪れ、今度はカレン抜きで両親と男の間で話し合いが行われた。


 その結果両親から「せっかく才能があるのだから使わないのはもったいない」「この村で暮らすより裕福な暮らしが出来るようになる」「このまま村で暮らした場合、特別な才能があることが知られれば人攫いに遭う可能性もある」と作り笑いで説得された。

 

 あっさり手の平を返した両親にカレンは大きなショックを受けたが、6歳の少女が両親の説得と言う名の命令に逆らえるはずもなくカレンのクラン入りが決まった。




それから10日後、迷宮都市へと出発する日。

カレンが街へと向かう馬車と入れ違いで普段は見かけない大型の馬車が村へと向かうのを見かけた。


 後にその馬車の中身が、自分の売られた対価であることをわざわざ説明された。

 そしてその自分が売られた対価や今後の生活費、訓練にかかるすべての費用は彼女のクランに対する借金として加算されることも。


 これだけ聞くとえげつないやり口に感じるかもしれないが、この世界においてはこのクランはむしろ良心的といっていい。


 無理矢理攫うわけでも暴力で脅すわけでもなく正当な報酬を渡して身柄を引き取ったこと。借金に関して過剰な利子をつけられるわけでもなく、常識的な費用しか請求されていないこと。庶民としては贅沢ともいえる生活環境であったこと。


 これが酷いところだと強引に攫われて奴隷のようにこき使われ、非常識な借金を背負わされ、一生ギルドに縛り付けられる可能性もあったのだ。


 そう考えるとむしろカレンは運が良かったと言えるだろう。


 確かに親元から引き離され、田舎の寒村から出て来た6歳の少女にとってクランでの訓練の日々は非常につらかった。

しかし生活水準は高くなり特にひどい扱いを受けることもなかった。

むしろ探索者としては他が望んでも受けられないような訓練を受け、栄養十分な食事を与えられ、読み書きなどの教養までも身に着けることが出来た。


 それは客観的に見ればまさにエリート養成のための英才教育だ。

背負わされた借金も高等教育を受けるための奨学制度と考えれば悪いことではない。


本人が望んでいなかったことを除けば……


 実際カレンが成人する頃には一般人が生涯かかっても返しきれるか分からないような金額の借金を背負っていたのだが、彼女はわずか5年で上級探索者に上り詰めそれらを完済してしまった。


 ただそういう生き方を強要されたカレン自身が探索者という職業やクランに愛着を持つかも別問題だった。

 借金を完済したあともクランに所属して探索者を続けていたカレンであったが、それはただの惰性であって他にやりたいことが特になかったというだけの話であった。



そんなある日のこと。

ある貴族からの依頼をクランのメンバーと達成した際に食事に招かれる機会があった。

 これは本来とても名誉なことなのであるが、人付き合いが苦手なカレンはそういう席を避けていた。しかし今回は断るわけにもいかない状況であったため渋々出席することになったのだ。


 もっとも全く楽しみがないというわけでもなかった。

彼女が唯一興味を持っていたのは貴族の屋敷で出されるという食事。


 元々無趣味で上級探索者としての高額な収入も使い道がなく溜まる一方であったカレンであるが、そんな彼女の唯一の楽しみとして多少なりとも金をかけていたのが食事であった。

 田舎の寒村出身のカレンが一人都会に連れてこられて家族にも会えず辛い訓練の日々を送る中、その心を唯一慰めてくれたのが田舎ではまず口にすることはなかった多彩な食材と調味料をふんだんに使った都会の料理の数々であった。


 そんな幼少期の食の喜びは大人になったころにはこだわりへと変わり、上級探索者となり資金にも困らくなった彼女はプチ美食家……というよりは食道楽へと化していたのであった。


 そんなカレンの舌を貴族の邸宅で出された食事の数々は十分に満足させてくれた。

 そして最後に出された珍しい一品という鮮やかな紅色の液体。


 飲みやすいようにとミルクと砂糖を足されたそれを飲んでカレンは衝撃を受けた。


 華やかな香りに、甘さの中に残る何とも言えないコク。

 あっという間に飲み干してしまい思わずおかわりを要求してしまったのだが、給仕してくれたこの屋敷の執事らしき男性は苦笑い。

 そこでカレンは今回招待してくれた貴族からこの世界における紅茶事情を聴かされることとなった。


 紅茶の原料となる茶の木。

それは海を越えた先にある南方のとある国にしか自生していない珍しい植物で、その国の有力貴族が独占的に栽培している。


 そのため紅茶は非常に希少な飲み物で、その国の王族と一部の上級貴族しか口に出来ない高貴な飲み物として扱われていた。


 市場に出回ることはほとんどなく、たまに出回るのは横流し品か、褒美として下賜されたものが売りに出された場合のみ。

今回手に入ったのも偶然で、金に困ったその国の貴族が売りに出したものの一部がたまたまこの国に流れついたのを見つけて高額で買い取ったらしい。

 

 そんな紅茶事情を聞いて一気に飲み干してしまったことを深く後悔したカレンはほんの少しでも残った茶葉を譲ってもらえないかと粘り強く交渉。

 普段の様子からは考えられない彼女の様子にクランメンバーが唖然とした様子で見守る中必死で交渉した結果、無償でいくつか依頼を受けることを条件にカップ一杯分にも満たない茶葉を譲り受けることに成功した。


 しかしそこまでして手に入れた茶葉も一度飲んでしまえば無くなってしまう。


 執事に紅茶の淹れ方を細かく教えてもらい、嬉々として茶葉を持ち帰ったカレンではあるが、飲みたいけれど飲んでしまいたくないというジレンマに数日間頭を悩ませることとなる。


 そしてさんざん悩んだ挙句、頭から絞り出したのがこの迷宮都市ベギシュタットの売り文句。


『神の創りし巨大ダンジョン【頂の迷宮】。この世の全てを集めしその迷宮で手に入らぬものはなし』


 世界最大のダンジョンにして、最難関と言われるベギシュタットの巨大ダンジョン。

砂漠、山岳、雪原などありとあらゆる環境が揃っており、そこに生きるモンスターや鉱物、植生も様々。噂ではこの世にあるすべての資源がこの迷宮で手に入るという。


 ならお茶の木もこのベギシュタットのダンジョンにあるのではないか。


 そう思ったカレンは居ても立っても居られず、早速行動を開始する。


 譲り受けた茶葉を詳細に観察し、その細かく砕かれた破片から本来の葉の形状を大まかに推測。

 様々なコネや人脈を使って紅茶に関するありとあらゆる情報を集めつつダンジョンに潜り、しらみつぶしに植物を採取。

 

 依頼の受注や探索を迫ってくるクランからも脱退して茶葉を探すこと3年、ようやくお茶の木らしき物を探し当てる。


 そこからさらに1年かけて加工方法を研究してようやく今に至る。




 

 






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