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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
一章 転生?
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1-01 目覚め




 目を覚ますと妙に身体が怠かった。

 気分も最悪だが二日酔いではないようだ。

(昨日は会社……お母さんと馬車で……??)

 

 記憶が妙に混乱していてわけがわからない。


(まてまて……俺は……僕は……レオンシオ?……は?)


 自分の名前を思い出そうとして、出て来た洋風の名前に思わず自分の正気を疑う。

 それからしばらく混乱しつつも自分の記憶を探り続けた彼は徐々に現状を認識し始める。


 自分の名前はレオンシオ・トーレス。

 トーレス商会の長男にして一人っ子。


 しかし『日本人の俺』という自我もある。

 では日本人の俺の名前はというと……わからない。

 というよりも日本人としての記憶は全くと言っていいほどない。

 車も飛行機も携帯も分かるし、自分が成人男性であったこともわかる。

しかし自分が正確には何歳でどこに住んでいたかは分からない。

 どうやらエピソード記憶?と言われるものが全くないようだ。


 しかしレオンシオ・トーレスとしての記憶はある。


(それに……)


 レオンシオは辺りを見渡す。


 黒っぽく薄汚れた壁、裸足では歩きたくないような板張りの床、自分に掛けられた肌触りの悪い粗末な布、そして濁って透明度の低いガラス窓。


 どう見ても現代日本ではないだろう。


 身体を起こし掛けられた布をのけようとして自分の手が視界に入る。

 少し小さい少年の手。


やはり自分はレオンシオ・トーレスで間違いないようだ。

 確か12歳だったはずだ。


 そう自覚してから最初に気になったのは現状だ。


 体調が悪く、気分も沈んでいる。

 特に頭痛が酷く目も腫れぼったいのだが、一人で寝かされていた。


 窓の外は明るく、かといって朝日が差し込んでいるわけではないので恐らく昼間。

 

 風邪でも引いていたのかと思ったが特に看病されていた形跡もない。

 レオンシオの家庭は裕福ではないとはいえ、流石に病気の一人息子を看病もせず放置ということはないだろう。

 

 特に父親はともかく……


 そこまで考えたところで部屋の入口の戸が開いた。


 入って来たのは30代後半から40代のくたびれた感じの男。

 レオンシオの父親、サンチョ・トーレスだった。


 サンチョはレオンが上半身を起こしているのを見てためらいがちに声をかけてきた。


 「……レオン、体調はもういいのか?」


 「えっ……ああ、うん……まだそれほど良くはないけどもう少し休めば大丈夫だと思う……」


 さすがに頭痛が酷いし最悪だとは答えられずに曖昧な表現で返す。

 

 するとサンチョは微妙にレオンから視線をずらして気まずそうにおずおずと要件を切り出した。


 「そうか……分かっていると思うがそろそろ納品の時期だ。つらいだろうけどお母さんが亡くなった今はもうお前しかポーションを調合出来ない。テオバルトさんが催促に来る前に納品したいからなるべく早く調合してくれないか?」


 「えっ!?」


 (母さんが亡くなって!?…………そうか……そうだったな……)


 サンチョに母親が亡くなったことを言われ、一気に倒れる前の記憶がよみがえって来てショックを受けたレオンであるが、大人であった日本人としての自我のおかげかかろうじて大きく取り乱さずにすんだ。


 それでもレオンシオの感情に引っ張られているのか内心の動揺は激しく、なんとか自分を落ち着けるために大きく息を吸い込みゆっくりと吐き出す。

 

 しかしその深呼吸を見ていたサンチョはため息を吐いたとでも思ったのかビクッとたじろいだ後こちらの様子を窺うような視線を向けて来る。


(……そんな目で息子を見るなよ……というかそもそも母親を亡くしてショックで寝込んでいた息子に対して最初の言葉が仕事の催促って……)



 思わず……今度は本当にため息を吐きそうになったレオンであるが辛うじてそれをこらえた。

サンチョは元々こういう人間だし下手に感情をぶつけて余計に関係をこじれさせても仕方ない。

それに今はとにかく心の中を整理するために一人になりたかった。


そのためにはとにかくサンチョを安心させてこの場を納めなければならないので、レオンは仕方なしにフォローをいれることにした。


「ごめん……まだお母さんのこと、心の整理がつかなくて……。でも数日も休めば徐々に体調も戻ってくると思うからなんとか納期までには間に合わせるよ」


 そういってとりあえず納得させておけばこの場をさっさと去るだろうと思ったのだが、サンチョは未だこちらを窺うような眼をやめず動こうとしない。


 レオンはまだなんかあるのかと内心首をかしげる。


まさかこの男が自分を心配しているとか母親代わりにコミュニケーションを取ろうとしているとは流石に考えられないため、自分の言動のなにかが引っかかったのだろうかと考える。


 しばらく考えて先ほどの自分の言動は12歳の子供らしくなかったのかと思い至ったのだが、それこそ普段自分と全く交流を図ろうとはしないこの男が気付くはずはない。


 そこまでレオンが考えたとき、サンチョが再び口を開いた。


「その……テオバルトさんはたまに納期より数日早く来ることがあるから……」


「…………」


 (まさかホントに自分を心配したのかとわずかでも思ってしまった自分がバカみたいだな……。っていうかこっちは体調悪いけど納期は守るっつってんだからそんなもん追い返せばいいだろ!)


 今度はさすがにため息をこらえられず深々と息を吐き、目をつむると頭痛をこらえるかのようにして下を向く。

 そうしないと怒鳴りつけてしまいそうであった。


 レオンはしばらくそうやってしばらく自分の気持ちを落ち着けてから、やがてゆっくりと顔を上げる。


 するとサンチョは縮こまり視線を合わさないように下を向きながらも、チラチラとこちらを窺うようにわずかに視線をさまよわす。


 その様子にレオンはいっそう苛立ちを募らせるが、怒鳴りつけるのを辛うじてこらえ口を開く。


「……分かった……できるだけ早く作るよ……。済まないけどなるべく早く体調を整えるためにももう寝たいんだけど……」


 思わず嫌味っぽい言い方になってしまったのだが


「そ、そうか……済まないな。それじゃあ僕はこれで……」

        

 サンチョはこれ幸いと早口で返事をするとそそくさと部屋を去って行った。


 それを見送ったレオンはもう一度深々とため息を吐いた。




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