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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
三章 大陸南部動乱
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3-25 ヴェレンテ防衛戦 決着




 徒然なる貴婦人に所属する金ランク探索者カレン。

 彼女は今でこそ紅茶職人として知られているのだが、以前のクランに所属していた頃は金ランクパーティーのエースとして獅子奮迅の活躍をしており、白金ランク昇格も時間の問題だと目されていた。


 結局のところ本人にあまりその気がなかったことと、紅茶という興味の対象が他に出来てしまったことでその未来は実現されずにいるのだが、個人的な実力で言えばトップクランの前衛職に比べても遜色はなかった。


 その強さの根源がギフトにあるのかといえば、ある意味ではその通りではあるのだが、そのギフトだけで彼女ほどの強さが手に入るわけでもなかった。

実際彼女と同じギフト構成でも銀ランクまで昇格するのがせいぜいだという探索者は多い。

むしろそのギフトを完璧に使いこなせるセンスこそが、彼女の強さの根源であった。


 彼女の持つギフトは二つ。

 一つは力属性の付与ギフト。こちらは極めて汎用性が高いもののこれといった特徴のないギフトでもあった。

だが彼女の持つもう一つのギフト方は非常に特徴的なギフトであり、それこそが彼女の圧倒的な強さの秘密でもあった。


武技ギフト『爆豪躯』。

一瞬だけ身体能力を爆発的に上げることが出来るというギフトである。

極めて強力でありながら非常に扱いの難しいギフトで、それを完璧に使いこなせるからこそ、彼女は圧倒的な強さを手にしたと言っても過言ではなかった。


このギフト自体はそれほど珍しいものではない。

だが一般的な使い方と彼女の使い方とでは決定的な違いがあった。

一般的には緊急回避やとどめの一撃の際の切り札として使われているこの爆豪躯であったのだが、彼女の場合は普段の動きの中にも取り入れることによって、常人離れした動きを実現していたのだ。



一般人がそんな真似をすればまず間違いなくバランスを崩して転倒してしまうのがオチだ。最悪の場合身体に変な負荷をかけて大怪我をしてしまう可能性だってあるのだが、彼女は天才的にその扱い方が上手かった。

動きの要所要所にこのギフトを取り入れることによって、まるで常に使っているかのような身のこなしを実現してしまったのだ。


 そんなカレンであったからこそレオンは虎の子のフィジカルポーションを託したのだが、彼女はそんなレオンの期待に応えて、上昇した身体能力を最初から完璧に制御してみせた。



ロザリンダの電撃を受けて明らかに動きの鈍ったジェネラルの元へ尋常ではない速度で駆け出して行くカレン。

 それに反応してジェネラルが巨大な剣を振り下ろしたのだが、彼女はさらに加速をしてその斬撃を躱すと、すれ違いざまにジェネラルの身体を薙ぎ払った。

 その一撃はジェネラルの足のうちの一本を根元から叩き落とし、それだけではとまらずにその胴体にも深い傷跡を刻みつけた。


「ギ、ギイイイイ!!」


 ジェネラルは怒りとも痛みともとれるような絶叫を上げると、即座に反転してカレンに襲い掛かろうとする。

 しかしその途中でホルストに後ろ足を切りつけられて邪魔をされ、そこへ戻って来たカレンの大剣が再び襲い掛かかった。

 ジェネラルは慌ててそれを防ごうとしたのだが、その瞬間を狙ったかのように横からジェネラルの手元へと槍が繰り出された。

 槍使いの一撃。

それはほんの少し動きを鈍らせる牽制程度の効果しかなかったのだが、今のカレンにはそれだけで充分であった。

 防御よりも一瞬だけ早く振り下ろされた大剣によって、ジェネラルの片腕が切り飛ばされて宙を舞う。


 さらに次の瞬間、そのジェネラルの足元へと一本の矢が突き立った。


 それに合わせて一斉に距離を取るカレンたち。

 ジェネラルもそれに反応して咄嗟に自分の頭上へと注意を傾けたのだが、ゲートは開かれない。

だがロザリンダは構うことなく雷撃を放った……彼女自身の足元へと。

 

 その狙いは彼女の足元からジェネラルの足元へと続く一本の水の道。

そしてそれを仕掛けたのは、完全にジェネラルから無視されていた土魔法使いであった。

 彼女はジェネラルに相手にされていないことをいいことに、レオンに声をかけられてからせっせと土魔法を使い続けており、密かに目立たないような一本の溝を形成してそれをしっかりと押し固めていたのであった。


 そこへレオンが大量の水を流し込んだことによって完成した一本の水の道。


 それは雨の日に学校の校庭に出現するような小さな川であった。

 とても貧相であり、だからこそ気付かれない攻撃手段。


それを伝って、ロザリンダの放った雷撃がジェネラルを足元から襲いかかった。

 再び流された電流に、全身を硬直させるジェネラル。


 そんなジェネラルの頭上で今度こそゲートが開き、セフィがそこから飛び出して来る。

 同時に四方からもカレンたち前衛組が襲い掛かる。

 多方向からの同時攻撃。

わずかな逡巡の末、ジェネラルが真っ先に対処したのはやはりカレンであった。

 他のメンバーからの攻撃なら、なんとか耐えられると判断したのだ。

 動きの鈍った身体を無理矢理動かし、残った片腕に持った剣で辛うじてカレンの一撃を受け止めたジェネラル。

 だがそのせいで隙だらけとなったジェネラルの全身に、次々と前衛組の攻撃が叩き込まれていった。

そして最後の一撃、セフィの光り輝く剣がその頭部へと振り下ろされる。


 その剣に付与されていたのは聖属性の上位付与ギフト、ホーリーエンハンス。


ジェネラルにとって誤算だったのは、一番注意を払っていなかったセフィの一撃こそが脅威であり、容易く自分の防御を突破するだけの破壊力を持っていたことだろう。

弱者として歯牙にもかけていなかったはずの相手の一撃によって、ジェネラルの意識は完全に断ち切られることとなった。



 四肢の力を失って崩れ落ちるジェネラル。

 そんなジェネラルに対してしばらく警戒していた面々であったが、やがてその動きが完全に止まっていることを確認して、誰からともなく一斉に息を吐いた。


「……終わったのか?」


「はい、恐らくは……」


「大丈夫。完全に死んでる」


「そ、そうか……。それにしてもとんでもない化け物だったな」


「三階層のボスより強かったかも……」


「…………マジかよ」


 前衛組が未だに少し身構えたまま言葉を交わす中、レオンもロザリンダへと話しかけた。


「……どうやらなんとか倒しきることが出来たようですね」


「ああ。本当に大したもんだよ、あんたたちは……。あのまま戦っていても恐らくうちらだけでは倒しきれなかったはずだ。それをまさか銅ランクパーティーに助けられるとはね」


「まあ活躍したのはほとんどカレンさんなので、実際はほぼ徒然なる貴婦人の皆さんのおかげなんですけどね。それより討伐完了の合図をお願いしていいですか?」


「そこはもうちょっと誇ってくれていいところだと思うんだけど……まあいいわ」


 そう言って苦笑するとロザリンダは頭上に向かって雷撃を放った。

 それが頭上で三度ほど明滅する。


すると僅かな間をおいてから、周囲から一斉に歓声が聞こえて来た。



指揮個体の討伐完了を知って、人間たちの士気は一気に跳ね上がっていった。

それに対して魔物たちは次々と混乱状態に陥っていく。

どうやら魔物たちはジェネラルの死亡を知覚できるようで、ジェネラルが死んだ瞬間から明らかに統制が乱れていったのだ。

その後は逃げようとする個体やパニックに状態になる個体、中には共食いを始めるものまで現れはじめて魔物たちの動きは混迷を極めていった。


そんな魔物たちに対して一気に攻勢をかけた防衛部隊は順調に魔物たちの数を減らしていき、日が傾き始めたころにはヴェレンテ近郊から魔物たちは完全に駆逐されていた。








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