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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
三章 大陸南部動乱
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3-23 ヴェレンテ防衛戦 決戦




 視界を塞ぐ砂塵の中を走り抜けてレオンたちがその場へとたどり着いた時、そこはすでに激しい戦いが行われている戦場と化していた。


 レオンたちより先行して到着していたパーティーは二つ。

 そのうちの一つはやはりというか、当然のごとく徒然なる貴婦人であった。

 彼女たちは今も魔物たちの指揮個体、ジェネラルと一進一退の激戦を繰り広げている。


だがもう一つのパーティーの方はその戦闘には加わっていなかった。

別にさぼっているわけでも、別の魔物と戦っているわけでもない。

ただ単に、彼らはすでに戦えるような状態になかったというだけの話であった。


彼らレオンたちとはあまり面識のないパーティーだったのだが、今回の突入作戦のためにヴェレンテの防衛部隊から選出された金ランクパーティーだと聞いていた。

 とはいえ彼らも本来の活動拠点はベギシュタットのようで、ホルストと同じように戦争がはじまると同時に帰郷した探索者たちのうちの一組であったようだ。

 そのため彼らも実戦経験は豊富で魔物との戦闘にも習熟していたのだが、転移してからレオンたちがこの場に到着するまでのわずかな時間の間に、壊滅状態へと追い込まれてしまったようであった。


 六人いたメンバーのうち三人はすでに意識のない状態で横たわっており、そのうちの二人は息をしていなかった。

 また意識のある残りのメンバーの方も二人はすでに深手を負っており、唯一無傷なメンバーがその治療に当たっているというような状態であった。

その中には唯一レオンも顔を覚えていたパーティーリーダーも含まれていたのだが、事前のブリーフィングの際に見せていた自信にあふれた表情はすでになかった。

ただ片腕を失って脱力した状態で座り込んでおり、徒然なる貴婦人が戦い続けているのを傍観していた。

 


 今回突如として現れ、ヴェレンテへと侵攻してきた魔物たちの群れ。

その指揮官と思われる個体ジェネラルは、まさに異形と呼ぶのにふさわしいような魔物であった。


 そのベースがアリの魔物であるということに変わりはない。

 体長は五メートルに達しようかというほどの巨体ではあるものの、丸っこい腹部にそれを支える六本の足を持っており、下半身にあたる部分だけを見ればほぼ普通のアリ型の魔物と言っても差し支えなかった。

だが残りの半分、その上半身にあたる部分は明らかに普通のアリとは異なっており、胸部から上には直立した人間のような上半身が乗っかっていた。とはいえその肌の質感は人間のそれとは全く異なっており、硬質な外骨格のようなもので覆われているのでちょっとやそっとでは傷つけられそうになかった。

またその身体の左右には一対の腕らしきものも備わっており、その両方の腕には岩を削りだして作られたような、不格好な大剣が握られていた。

さらにその上半身の上には頭部があったのだが、その頭部は人間ではなくアリのそれであり、どことなく理性を感じさせる佇まいがかえって不気味さを醸し出していた。


 

「なんだよ……あの気持ちの悪い化け物は……」


「あれが指揮個体、ジェネラルなんでしょうね。それにしても…………なるほど、あれも『他の生物の因子を取り入れた』ってことなんでしょうか」


「えっ!?それってまさか……」


「ああ、人間の因子を取り入れたってことなんだろうね」


「そんな……」


 レオンの推測に驚きを隠せないセフィであったが、隣で聞いていたサミアの方は納得したように頷いた。


「…………なるほどな。確かにそれなら部隊を指揮できるだけの知能があったというのにも納得がいくな」


「…………マジかよ」


「間違いない。アイツ、付与ギフトを使ってる……」


「ええっ!?あれって……もしかしてウインドエッジなんですか!?」


 さらにカレンが指摘したことを聞いて、今度はハミードが驚きの声をあげた。

 レオンも慌ててジェネラルの持つ大剣を注視してみたのだが、確かに緑がかかった魔力を纏っていることが見て取れた。

 

「クソッ!よりよってレアギフトの風系付与かよ。厄介過ぎるだろ!」


「えっとたしか……、剣速と武器の切れ味が上がるんでしたよね?」


「ああ、しかも斬撃の後に突風が吹きつけて来やがる。これがなかなかに厄介でな。直接的なダメージはほとんどないんだが、いちいち動きを阻害されるからかなり戦いにくいんだ」


「なるほど、それは確かに厄介そうですね。それにどうやら剣術の心得もありそうですし、他のギフトだって持っている可能性も否定できませんね。さすがに現状だとこれ以上はわかりそうにありませんが……」


 そう言ってレオンは一つ深呼吸をすると、仲間たちの方へと振り返った。


「とはいえいつまでも傍観しているわけにもいかないので、そろそろ俺たちも仕掛けます。ただし最初は様子見、慎重にいきます。基本的に仕掛けるのはカレンさんとホルストさんのみで、他のメンバーは支援に回ります。お二人ともいけますか?」


「ああ、大丈夫だ。任せておけ」


「問題ない」


「それからセフィはブレードでの遠距離攻撃に専念、サミアさんは弓で牽制しながら周囲の警戒もお願いします。ハミードさんは基本的に俺の後ろからでないようにしてください」


「…………わかりました」


「了解した」


「は、はい」


 全員が即座に返事を返す中でセフィだけは一瞬悔しそうな表情を見せたのだが、これについては仕方がなかった。

 彼女にも前衛としての矜持があるのだろうが、相手はわずかな時間で金ランクパーティーを壊滅させた化け物だ。

 まだまだ駆け出しである彼女の技量では攻撃を捌ききれない可能性があるし、ベテランたちの連携に割って入るのも難しいだろう。最悪の場合、味方を危険に晒す危険性だってある。

 彼女もそのことが分かっているからこそ反論はしなかったのだろうが、やはり悔しいものは悔しいようであった。


 その一方で前衛も後衛もこなすことが出来るサミアの方は、あっさりとレオンの指示に頷いた。

 彼女の場合はどちらかというと自分のことを斥候要員だと認識しているし、ジェネラルの動きを見て即座に自分では厳しいと判断したので、レオンの指示に特に不満はないようであった。


 

「徒然なる貴婦人の皆さん、今から俺たちも参戦します!!」


 レオンが大声を上げると同時にホルストとカレンがジェネラルの元へと駆け出して行く。


「了解!相手はウインドエッジだけじゃなくて、魔術系ギフトも持っているはずだから気を付けなさい!!」


「わかりました!ありがとうございます」


 即座に帰って来たロザリンダの声に返事をすると、レオンは魔力を自分の頭部に集中させて一気に思考を加速させていった。そして一切の攻撃を行わずに戦闘の様子を注意深く観察する。

 レオンの場合、このジェネラルを相手に通用するような攻撃手段を持ち合わせていなかった。麻痺ゼリーや毒ゼリーが通じるとは思えないし、クロスボウで攻撃してもほとんどダメージを与えられそうにないので牽制すらならないだろう。

 それなら戦闘の様子を徹底的に観察して、攻略法を探ることに集中した方がいいと開き直ったのであった。


 まずは現時点での戦況の確認だ。


 二本の巨大な大剣を軽い棒きれのように振るっているジェネラルであるが、それに対する徒然なる貴婦人の前衛は三人であった。

そのうちの一人、重装備で大楯持ちの女性がジェネラルの正面を受け持っていた。

 かなり大柄な女性である彼女はいわゆるタンク役を担っているようでほとんど攻撃を行わず、大楯を使ってジェネラルの攻撃を捌くことに専念していた。

 とはいえさすがにジェネラルの攻撃を正面から受け止めるのは厳しいようで、頻繁に立ち位置を変えながら、上手く角度をつけて攻撃を受け流しているようであった。

 

 そしてそんな彼女の左右を固めているのが剣士と槍使い。こちらは攻撃役兼牽制役といったところか。

 ただ剣士である小柄な女性の方は機動力重視のスタイルのようであったのだが、実際にはなかなかジェネラルに近づけずにおり、かなり苦戦しているような印象であった。

 それに対して槍使いの長身の女性の方はかなりの手練れらしく、絶妙な位置取りでジェネラルの攻撃を上手く捌いている。ジェネラルの持つ大剣の間合いギリギリを出たり入ったりしながら確実に攻撃を叩き込んでおり、これにはジェネラルもかなり嫌がっているようであった。

ただし火力の方はあまりないらしく、こちらも有効打といえるものはほとんど与えられていなかった。


 総じてお互い決め手に欠けるような拮抗した状態にあったのだが、ここにホルストとカレンが加わってからは、ある程度優勢に戦いを進められるようになりつつあった。

 ただし決定打に欠けるということに変わりはなかった。



 一方、後衛組の方はロザリンダを中心とした魔術師が三人。


 一人は支援役のようで持久力と耐久力を強化する補助魔法の使い手であった。

彼女は主に前衛組の継戦能力を上げるのに役立っており、補助を切らさないようにしながら無難に立ち回っていた。

ちなみにこの街に来るとき、馬に補助魔法をかけていたのも彼女であった。


 さらにもう一人は土魔法の使い手。

こちらは一応攻撃役なのだが、実のところ土魔法というのはあまり火力が高いとはいえなかった。その名の通り地面にある土を変形させて操作することが出来るのだが、一度にそれほど大量の土を操れるというわけではないからだ。

そのため大穴を開けて相手をそこに叩き落とすというような使い方は出来ない。

一応地面から硬質化させた土の槍なども出すことは出来るのだが、所詮は土ということでそれほどの強度はなく、このジェネラルに対して有効打にはなりえなかった。

 そのため彼女も相手の足場を乱すことに集中して牽制役に徹しているようであったのだが、これも相手の足が多いためか、思ったほどの効果はあげていなかった。


 そして最後にロザリンダ。彼女こそがこのパーティーにおける最強の攻撃役であった。

それどころか彼女の放つ雷魔法は全ての探索者の中でもトップクラスの性能を誇っている。

そのため彼女の魔法こそがこの戦いの趨勢を決める切り札と言っても過言ではなかったのだが、その雷魔法がジェネラルの張る魔法障壁によって、ことごとく防がれているというのが現状であった。


そしてこれこそが、このジェネラルを倒すことが出来ていない最大の要因でもあった。

 

 強力な分扱いが難しいとされる雷魔法なのだが、ロザリンダはその魔法を威力や着弾地点のみならず、軌道までも自由自在に操ることが出来る。

 そのため彼女は本来、相手の防御をすり抜けるようにして魔法を当てることを得意としていたのだが、このジェネラルにはいくら軌道を変えようとも当てることが出来なかった。

常にピンポイントでその軌道上に魔法障壁を展開することによって、ことごとく彼女からの攻撃を防いでいたのであった。


 それが何かしらの感知能力によるものなのか、もしくは単純に反射神経によるものなのかは定かではなかったのだが、ジェネラルが魔法に対して非常に優れた防御能力を持っていることだけは確かであった。


それに魔法障壁を使えると言うことは、魔術系ギフトが使えるということでもある。

ロザリンダの言うように、そちらに対しての警戒も必要なようであった。 



 つまり、一見すると戦況は五分か優勢なようにも見えたのだが、実際のところは決定打を見出せずにいるというのが現状であった。

対して相手にはまだ隠し玉を持っている可能性が高いうえに、こちらには時間制限までついてくる。


 早めに打開策を見出さない限り徐々に追い込まれて行くことになりそうな状況に、レオンは必死で頭を働かせるのであった。










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