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まぜるなキケン~調合士の迷宮探索~  作者: 十並あそん
二章 新人探索者
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2-33 赤いポーション

 


 魔物たちの憩いの場を襲撃した翌日。

 レオンたちは平原エリアへと足を運んでいた。


 レオンは昨日宿に帰ったあと、泉で手に入れた赤い葉の植物でさっそく調合を試してみた。

 その結果、どうやらあの赤い葉の植物は触媒であったようで、スライムゼリーとキュアリーフ、両方の原材料と調合できることがわかった。

 そして実際調合してみた結果、出来上がったがポーションの一種らしき赤い液体と、赤いゼリーであった。

ただ出来上がったのはいいものの、初めて見た植物から出来た調合物であるためその効果が全く予想出来ない。

そのため試しに飲んでみるわけにもいかず、平原エリアを訪れて弱い魔物で実験してみることとなったのであった。


ちなみにいつまでもこの植物を『赤い葉の植物』と呼ぶのは不便だったので、本当の名前がわかるまでは便宜上『レッドハーブ』と呼ぶこととなった。




 レオンたちは平原エリアに到着すると、すぐさまメインのルートから離れてボスエリアとは違う方向へと足を進めた。

 せっかく見つけた新しいアイテムなので、まずは自分たちだけでその効果を試しかったからだ。

それに調合物はレオンとって生命線、しかもその素材は今のところかなり貴重なものなので、他の探索者に見られて騒がれることは避けたかった。



 進み続けることおおよそ三十分。

周辺から探索者たちの気配が完全に消えたところでようやくレオンは足を止め、セフィとイリーネに声をかけた。


「よし、この辺りで大丈夫そうだね。それじゃあさっそく実験台を探そうか」


「はい、わかりました」


「実験台って……」


 今回モルモット役に選ばれたのは初心者用モンスターの定番、ハンマーラビットであった。

とはいえ選んだ理由はそう大そうなものではない。

単純に動物型のモンスターで弱い相手だったからというのもあるが、レオンの頭の中に実験用動物といえばモルモットというイメージがあったため、それに最も近い魔物を選んだだけであった。


「なんか悪いね、付き合わせて……。昨日も結局、無駄足を踏ませちゃったし」


 ハンマーラビットの居そうな草むらを探りながら、レオンは詫びの言葉を口にした。

 昨日はあの後レッドハーブを探して森林エリアの中を歩き回ったあげく見つけられず、今日も自分の調合物の実験のためにこんなところに来ている。

 二人にとってはなんのメリットもないことにつき合わせて、レオンとしては申し訳ない気持ちであった。


「いえ、必要なことなので気にしないで下さい。それにもし使えそうならパーティーの戦力アップにつながるんですから、いくらでも付き合いますよ」


「そうだよ。私なんてさんざん訓練に付き合ってもらったんだからお互いさまだよ」


「そう言ってくれると助かるよ。二人ともありがとう」


「いえ、こちらこそいつもありがとうございます。それに正直に言うと、ちょっと楽しみでもあるんですよね」


「うん、わたしも。新しいポーションなんて初めて聞いたし、どんな効果があるのかちょっとワクワクしてるんだよね」


 ただレオンの心配はただの杞憂で、二人はむしろこの状況を楽しんでいるようであった。



 ハンマーラビットを探すこと十分程度。

 途中で襲って来たグラスハウンドを撃退したところで、ようやく目的のハンマーラビットを発見した……というよりもされた。


 今回ハンマーラビットの標的になったのはレオン。

 勢いよく突っ込んできたハンマーラビット。

いつもならその眼前にインベントリを展開するレオンであったが今回は生け捕りが目的、インベントリでまともに正面から受けるとダメージを与えすぎる可能性がある。

そのためレオンは今回はインベントリを使わず、腕に装備したプロテクターの甲の部分でその衝撃を受け流すことにした。

 だがレオンの近接戦闘の技術は、定期的に訓練を積んでいるとは所詮はおまけでしかない。技量は良くて並程度。結果的に受け流すというより、下からかちあげるようにしてハンマーラビットを上へと弾き飛ばすこととなっってしまった。

 すかさず接近したセフィが落ちて来たところをキャッチしてくれたのだが、ハンマーラビットはグッタリとしていた。


「………………ごめん」


「えっと……それほど意識は朦朧としているようですが大きな怪我もありませんし、これなら多分大丈夫だと思いますよ。それにポーションみたいな液体の実験なんですから、多少怪我を負っている方がいいかもしれませんよ」


「…………うん、そうだよな」


 いくら後衛で身体強化も劣るとはいえ、レオンも探索者を目指すような男である。

鮮やかな戦闘技術に憧れるような部分はあるし、もう少し上手くやりたかったというのが本音であった。

 ただ、それを横で見ていたイリーネは少しホッとしたようであった。

 

「よし、それじゃあ飲ませる……のは無理だろうから、傷がある辺りにかけてみようか」


「そうですね」


 気を取り直したレオンが新しいポーションを取り出すのを見て、セフィはかけやすいように持ち替え、ハンマーラビットの首の後ろあたりを掴んでその身体を前へと突き出した。

 ダラリと力なく垂れ下がったハンマーラビットの身体。

レオンはそこに向かって、魔力を流し込んだ赤い液体を勢いよく振りかけた。


「わっ!ちょっと……暴れないで……あっ!!」


 すると急に凄まじい勢いで暴れ出したハンマーラビット。

ついには強引にセフィの手を振り切って着地すると、まさに脱兎のごとくといった凄まじい勢いで走り去って行った。


 三人はそれを呆然と見送るしかなかった。


 やがて気を取り直したイリーネがポツリとつぶやく。


「……なにあれ。もしかして狂暴化するポーションだったとか?」


「いや、さすがにそれはないだろ。それならこっちに襲い掛かってきそうなもんだし……」


「そうだよね。でもメチャクチャ暴れてなかった?」


「確かに尋常じゃなかったな。もしかして凄く沁みる液体だったとか?傷口にかけたのが良くなかったのかな?」


 様々な予想を立てて盛り上がるレオンとイリーネであったが、その横でセフィは自らの手をジッと見つめていた。


 それに気付いたレオンが声をかける。


「どうしたんだ、セフィ。もしかして怪我でもした?」


「い、いえ。大丈夫です。ただ、まさか振り払われるとは思わなくて……」


「確かに。凄まじい暴れっぷりだったもんな」


「いえ、そうではなくてですね……。確かに凄い暴れ方でしたが、それでもハンマーラビットの力では私を振り払うことなんてできなかったはずなんです。それなのに……」


「…………」


 それを聞いてレオンはふと考え込む。

思い当たる効果があったからだ。

 それはゲームなどではおなじみの効果で、この世界でも似たような効果を発揮する魔法が存在する。

そのため、レオンとしてはもしかして同じような効果を持つポーションもあるのではないかと期待していたものであった。


 居ても立っても居られなくなったレオンは、すぐさまインベントリを展開すると中から同じポーションを取り出す。

そして蓋を開けると一気にそれをあおった。


「あっ!」


「ちょっ……だいじょうぶなの?」


 それを見て慌てるセフィとイリーネであったが、レオンはそのまま一気に飲み干すと平然とした様子で味の感想を述べ始めた。


「うーん……そんなに辛いわけじゃないんだけど、なんかピリピリするな。ショウガっぽい?これはたしかに傷口にかけられると痛いかも……」


「そ、そんなことより飲んじゃって大丈夫なんですか?」


「えっ?ああ、うん。ハンマーラビットも平気そうだったからね。それに思い当たる効果があったから」


「思い当たる効果ですか?」


「そうなんだ。ちょっと見てて」


 そう言ってレオンは、空になった容器をしまうと軽く足踏みをする。そしてしばらく感触を確かめた後、おもむろにその場で真上へと跳びあがった。

 その高さは明らかの常人の域を超えていたが、身体強化を出来る人間からすれば驚くほどではない。

 そのためセフィたちの反応は「それがどうしたの?」といった感じのものだったのだが、レオンは嬉しそうに笑った。


「よし!いい感じだ。今のは身体強化なしね。そして次は……」


 そう言って、もう一度跳びあがるレオン。

 その高さは先ほどよりもはるかに高く、戦闘系ギフトを持ちレオンより数段強力な身体強化が出来るはずのセフィやイリーネですら、同じ高さまで飛び上がれる自信がないほどであった。

 

「す、すごいですね」


「……うん、びっくりした。でもレオン君、そのポーションって……」


「ああ、いわゆる強化ポーションってやつだね。その中でもこれは身体能力の強化、さしずめフィジカルポーションってところかな」


「す……すごいじゃないですか!それって大発見ですよ!」


「うん、ポーションを飲んだだけなのに、まるで補助魔法ギフトを使ったみたいだったよ!これがあればかなりの戦力アップになるんじゃないかな?」


「そうだね。まだ使うには色々と問題はありそうだけど、これが使えるようになればかなり強力な手札になるかもしれないね」


 そう言って笑うレオンはどこかホッとした様子であった。


 実のところレオンは今の自分の手札に不安を感じ始めていた。

 インベントリがあるため防御面はいいとしても、攻撃面では徐々に通用しなくなってきていたからだ。

先日のボス戦では麻痺ゼリーや毒ゼリーにほとんど効果が見られなかった。ボウガンも決定的な攻撃にはならないし、今後通じるかもわからない。

 イリーネの支援も出来るが、それだけでは二人でやっと一人前。

 回復役をやるにしてもそれだけでは中途半端。

今後上を目指そうと思えば、もっと手札が必要であったのだ。


 そのため今回の発見はレオンにとって非常に大きなものとなった。

 これでもっとパーティーの役に立てるし、これが存在するなら他の強化ポーションも存在する可能性が高い。

 そうなると、ますます戦闘の幅が広がる可能性があるのだ。


 実際この後実験してみてわかったことだが、もう一つの派生として赤いゼリーの方は貼りついた相手の身体能力を弱体化させる効果があることがわかった。

 これもどこまで通用するかはわからないが、幅が広がったことは確かだ。


 現状だと希少な素材が必要なため運用面ではまだまだ問題があるのだが、この日の成果はレオンにとっては非常に大きな一歩であった。










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