プロローグ
よろしくお願いします
『ギフト』と言われる力がある。
この世界の人間が持って生まれる特殊な技能であり、体内にある『魔力』というものを消費して、常人には出来ない能力を発揮することが出来る力。
ある者は剣で大岩を切り裂き、ある者は火球を放ち離れた相手を焼き尽くす。そしてある者は素材を掛け合わせて新たな物を創りだす。
このギフトという力はまさに神からの贈り物、この世界の人間に与えられた祝福であった。
だがそれと同時に呪いでもあった。
ギフトを持つ者は、その分野において比類なき力を発揮する。
しかしそれはその分野において、ギフトを持つ者と持たざる者の間に、隔絶した差が生じてしまうということでもあった。
つまり本人にいくら成りたいと思う職業があっても、その分野に適したギフトを持たなければ、いくら努力しても就くすら難しいというのがこの世界の現実であったのだ。
それは多くの分野において言えることではあったのだが、魔物という外敵がいるこの世界において、特にその差が大きな違いとなって表れたのが戦闘という分野であった。
まず身体能力からして違う。
この世界の人間は魔力を持つため、その魔力を使って自身の身体能力を向上させることが可能であった。
しかしその中でも戦闘に適したギフトを持つ者たちの身体強化は、その効率が他の者たちとは格段に違ったのだ。そのせいでまず近接戦闘という土俵にあがるだけでも、戦闘系のギフトが必須なのであった。
さらに魔物の中には、魔力を使った攻撃でしかダメージを与えることが出来ないものが多く存在していた。
そのためそういったギフトを持たない者は、どうあがいてもダンジョンに潜って魔物を狩る職業、『探索者』としてはやっていけないと言われていた。
そのはずであった。
(クソっ、ふざけんじゃねえぞ!)
アンドレは焦っていた。
今回の得物となる馬車の乗客は4人。
一人は現役の探索者であったが、残りは小太りの商人と実戦経験のなさそうなお嬢ちゃん。そして戦闘系のギフトも持たないくせに探索者になりたいとほざく馬鹿なポーション屋のガキだったはずだ。
それに対してこっちは戦闘系ギフト持ちが八人。こっちが買収している護衛と御者を含めると十一人だ、負けるはずがなかった。
それが今となってはこちらでまともに立っているのはわずか三人。
しかも今自分と対峙しているのはその馬鹿なポーション屋のガキ。そのガキによって自分は既に手傷を負わされていた。
アンドレとしては詐欺に遭ったような気分であった。
(なんだよその余裕のツラは!こっちは元銀ランク探索者だぞ!)
「クソが!」
怒りに任せて腕を突き出し、魔力を流し込む。
雷魔法。
弾速が速くかすっただけで相手の動きを鈍らせる、対人戦最強クラスの魔法。
多くの探索者たち屠って来たその魔法を発動し、バチッという音とともに紫電がポーション屋へと襲い掛かり、閃光が視界を焼く。
しかし……。
(なんで効かねえんだ!クソッ!)
視界が晴れたところに飛び込んできたのは、腕を前にかざして平然と立っている無傷のポーション屋。
その顔には余裕を示すかのように笑みが浮かんでいた。
それを見てさらにアンドレの頭に血が上る。
最大の一撃お見舞いしてやろうと全身の魔力を腕に集中したその瞬間……背後で殺気が膨れ上がった。
慌てて振り返った先には、剣を振りかぶった小娘。
(しまっ……)
とっさに回避しようとしたが間に合わず、首元から入った灼熱がアンドレの身体を通り抜ける。
(なんで……お前は、動けない……はずだろ……)
傾いていく視界の中で、彼女の憐れむような視線が妙に印象に残ったのだが、その脳裏に刻まれた映像もすぐに闇へと包まれていった。