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Black Bird  作者: sikimasu
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〜3章 勉強の日々〜

学校のあの事件から約3ヶ月が過ぎようとしていた。外ではセミの大合唱真っ盛りで気温は1年を通して一番暑い季節だ。子供達は夏休みを謳歌しており、海では海水浴、山ではバーベキュー等特に家族連れが賑わっていた。

そして、俺の中で一番嫌いな季節でもある。

どうもジメジメと暑いのが好きになれない。どこ行っても人・人・人。中学からボッチでいじめられっ子の俺は、海や山にいく相手すら居ない。

…つまり不快な季節という事だ。


3ヶ月前から俺は、イーサンの場所の提供、保険の竹本先生の助力のもと中学1年生の時からの勉強を教えてもらう事になった。

最初はわからない事だらけで先の見えない不安と共に絶望していたが、竹本先生のお陰で同年代の人のレベルまで追いついてくる事ができた。

ただ、夏休みはほとんど返上したが。

まぁ竹本先生も夏休みを返上で勉強を見てくれたし、イーサンも断る事も無く場所を提供してくれた。


感謝の気持ちしかなかった。


イーサンに開放してもらった会議室の一角で日頃行われている勉強会で、竹本先生が借りてきたホワイトボードを元に勉強を行っている。ただ、会議室が結構広いため少し寂しい気もするが、教室で行われていた授業と苦痛の時間に比べれば、こちらの方がましだ。


「…でここの数式にこの数字をあてはめれば…って宮内君?聞いてる?」

竹本先生が、怪訝な目でこちらをみていた。

この授業が休憩も無しに2時間も行われていた為、少し疲れていたところを竹本先生に突っ込まれてしまった。


「先生。休憩しませんか?」


「何言ってるの!そんなんじゃ100点とれないわよ!」


先生は3ヶ月前、勉強を始める時俺に「私は本気で教えるからね!覚悟してね!」と言われていた。

俺自身は、竹本先生のやる気の話であってのんびりと皆のレベルまで勉強を教えてくれるのかと思っていたが

実際の授業の内容は予想を遥かに凌駕していた。


9:30 ~ 12:00 授業

13:00 ~ 15:00 授業

15:00 ~ 16:00 イーサンによる永精の勉強


間のいいところで休憩のため、時間の目標がない。つまり目に見えるゴールラインがないのが辛い。

そして今日からイーサンによる勉強も増えた為、ついていけるかどうかが不安だ。

本来なら学校でゆっくりと学んでいくのだろうが、休憩無しでノンストップで行われる授業に少し疲弊していた。


「次、日本史を始めるわよ!ん?」


突如、TRRRRR...と竹本先生の携帯電話が静かな会議室に鳴り響いた。


「学校からだわ。宮内君10分だけ休憩しておいて。」


そう言い残してそそくさと会議室から出て行った。

俺はピンと弦の様に張っていた背筋を緩ませて、椅子の上でだらける様に座った。

椅子の感触を確かめるように椅子の一番柔らかそうなところを何気なく手で押してみた。


(流石は病院の椅子。ふかふかしていて気持ちいいな。)


なにも考えずに病院の天井を見ていた。

ルシファーを召喚した3ヶ月前のあの日。あの日から色々な人に助けてもらって今こうやって充実した生活を送れている。その事に関してはやっぱりイーサンと竹本先生にはしっかりと感謝の気持ちを伝えた方が良い様な気がして、でも言えない自分を恨んでしまう。


「お待たせ!宮内君今日はちょっと私学校に帰らないといけないみたいなの。今日から追加の授業で1時間後イーサン院長の講義があるからそれまでここでゆっくりしておいて。じゃあね。」


竹本先生は少し驚いた顔をしながら慌てた様子荷物をまとめて学校に帰っていった。


(…なにかあった?)


まぁ自分には関係ないと言い聞かせて、イーサンが来る15時までの1時間をどう過ごすかを考えた。

ボーっとしているのもいいし、さっきの勉強の復習をするのも良い。あとは…


【病院を散策してはどうだい?】


「それはいいね。いっちょ行くか。」


椅子の跳ね返りを利用して、勢いよく立ち上がると会議室の扉まで早足で駆けた。

扉から少しだけ顔を出し、周りに人が居ない事を確認するとコソっと扉から這い出てゆっくりと扉をしめた。


(こんなにコソコソしなくても良いか…。)


盗人になったような感覚を覚え、嫌な気になったのを感知したルシファーに堂々としたら?と助言されたが、会議室と総合受付以外に行き来した事のない俺は別の道を歩くのが少し怖かった。

会議室の横にある病院の案内MAPを確認したら自分が今病院の真中にいるのがわかった。

案内MAPは向かって左側が入院病棟であり、右側は診察病棟と書かれていた。


(いつもは診察病棟からここまで来ているのか。じゃあ入院病棟に行くか。)


俺は向かって左側の入院病棟の方へ歩いた。

入院病棟を暫く散策した後、自分が前回入院していた所を目指そうと思いエレベーターに乗った。階数表示のところには、7F整形外科・6F循環器内科・4F集中治療室(ICU)など様々な名前が書かれていたが、5階のボタンを押して5階を目指した。


5階に到着してから、暫く歩いていると前にいたエントランスが見えてきた。

エントランスからは周辺を一望出来、前は朝早く誰もいなかったが今回は色々な人がいて活気に溢れていた。

空いているところにゆっくりと座り、周りを見渡してみた。

病院利用者や看護師・休憩中の医者が各々自由にエントランスを使用していた。


「やぁ。何しているのかな?」


「うわぁ!?」


急に話しかけられたせいか、心臓が止まるかと思った程驚いおた俺はいつも間にか目の前に座っている看護師をまじまじと見た。

看護師は前に見たショートヘアの似合うすごく整った顔の女性だった。


「会議室にいなくて良いの?」


「先生が急な用事で帰ってしまって。次の授業まで1時間程暇なので…」


看護師はなるほど。私と同じで休憩中か。と相槌をうっていた。

よくよくみると、目が綺麗なカーブを描いており目の下には小さなほくろがある。ほくろのおかげですごく妖艶な雰囲気を醸し出している。


「あら、私の顔に何かついてる?」


ニコッと笑い掛けられて不覚にもドキッとした。


「ねえ。あなた名前は?」


「宮内…宮内純平。」


「私は山下恵里香っていうの。よろしくね!」


まるで女優やアイドルがニコッと笑いかけるように恵里香さんは俺にはにかんだ。俺は不覚にもドキッとした。

それからしばらく恵里香さんと話した。病院の話を聞くと、話したくない様な雰囲気だったので、

それとなくどうでもいい世間話をしていた。

多分、職業柄嫌なこともあるのだろう。


「話し込んじゃったわね。時間…大丈夫?」


ハッ!と振り返り柱にかかっている時計を見ると講義の5分前だった。


(まずい…いや走ったら間に合うか。)


恵里香さんの方を見て、「すいません」と断りを入れて勢いよく立ち上がった。


「病院内は走っちゃだめよ。じゃあね」


心の中を見透かされた様な気がして恥ずかしかったが、かまっていられないので慌てて会議室へ向かった。

香里奈さんはひじを机の上に載せてヒラヒラと手を振っている。

一つ一つの仕草がまるで好意を寄せているかの様で惚れてしまいそうだ。


(間に合え!間に合え!)

そう念じて病院内を早歩きで歩いた。

扉を勢いよく開けて中を確認するとイーサンが会議室の奥で杖の上に顎を乗せて座っていた。イーサンの上にある時計を見ると予定の時刻より3分程過ぎていた。


「竹本さんはどこへいったのかね。」


竹本先生が居ない事を疑問に思っているイーサンの顔はどことなく怒っている様に見えた。


「学校から電話が来て急用で帰ると…。」


イーサンは少し黙った後、後頭部をボリボリと掻きながら「まぁいいか」とつぶやいた。それはまるで俺に伝えるべきか否かをまよっている様だった。

聞き出したかったが、それはどうも聞いてはいけない雰囲気だったので出かかった言葉を口の中へと戻し込んだ。


「さぁ、授業を始めようか。今回から私が永精・魔法の事について授業をしていく。よろしく。」


「よろしくお願いします。」


「まず宮内君。魔法について講義していこう。魔法はどういう風に人体から発動されるか…、解明されていないのだ。手から火を出したり何もないところに水を生成したり。今世界がこぞって研究している内容だな。」


確かに、前に看護師さんが中庭で何もないところから少量の水を出して手を洗っていた。用途としてはとてつもなく庶民的だが、不思議には思っていた。


「火・水・土・風などを性質として、魔鉱石に判定された者はそれ自体を扱う事に長けている。但し、4大元素を扱えるものには一つの弱点がある。性質が水属性の場合、周辺に水がなければ少しの水しか出せない。つまり元素が近くになければ発揮できる力も弱いという事だ。」


「逆に言えば、海や川での水の魔法を使用する者は絶大な力を発揮する。」


(なるほど。)


【君には関係ない話だね。】


関係ない?という事はルシファーの属性は4大元素以外の性質という事か。


「次に光と闇、それから無についての性質を説明しよう。」


「光属性と闇属性、これは性質上相反するものである。光属性は希望や生命の創作を彷彿とさせるものであり、攻撃能力に特化している。そして光属性は凄く希少だ。」


「次に闇属性についてだが、闇属性はあまりに希少すぎて研究データがないのだ。」


苦虫を噛んだような顔が妙に印象的だったが特に気にする事のなく聞き流していた。


【私の恩恵の一つ。2属性攻撃を使える。属性は光と闇だよ。】


(それって、数少ない属性を二つも俺は使えるという事か。)


【そうだね。】


ふと、光と闇を合わせた魔法があるのか気になった。希少種と希少種を合わせたらどんな効果になるのか考えただけでワクワクしてきた。

イーサンの講義がある程度進んだら、次は実習で魔法の勉強をすることになっている。

色々な魔法や技をルシファーに教えてもらうとしよう。


話のをつづけてもいいか?と目を見て訴えられたので、姿勢を正して話を聞く体勢に戻した。

背筋をクッと伸ばすのもあと30分の辛抱だ。


「闇属性は防御に長けていると言われている。光と相対的であり絶対に交わらないものとしての性質では納得のいくものがある。」


「そして光属性と闇属性が交わりあった時…つまり、衝突した時というべきか。どうなるとおもう?」


俺は、想像しうる闇属性と光属性が交わった時の事を考えた。光属性は攻撃…つまり矛であり闇属性は防御で盾と規程できる。まぁ矛盾というすごく有名な話があるがそれはどちらが優れているかという話だ。

つまり…


「魔力の強さ、そのものの強さに応じて光が闇を打ち消し、それか闇が光を飲み込む…とか?」


イーサンがこちらをバカにした様な顔でみてきた。


「光属性と闇属性は絶対に交わらないと言っただろう。ゲームのし過ぎだ。光と闇属性は反発し合って爆発する。」


ゲームのし過ぎと注意されたあとに爆発する。と真剣な顔で言われて笑いそうになったのを堪えて、話を聞いた。

しかしイーサンの顔は真剣そのものであり、笑いを堪えるのが苦行だった。


「つまり、光属性の魔法と闇属性の魔法を同時に放ったらその魔法の威力分、爆発が起きるという事だ。」


その二つの属性を合わせもつ俺は、使い方によっては爆発属性(自己流)も使えるという事は、すこし厨二心を…いや、だいぶ厨二心をくすぐられた。


「早く授業で魔法を実践したいです。」


授業後、イーサンと談笑している時に今後の授業でやりたい事を聞かれて本心を答えた。


「そうだな。まぁ今後実技も検討するか。それより、最後に無属性について話をしよう。無属性は名前の通り何も生み出さない属性だ。つまり、今言った火・水・風・土・光・闇。これらを己が使用することは出来ない。」


「つまり、自分から何も出来ないのだ。」


「じゃあなんで無・属性なんて名前なんですか?無…つまり魔法の使えない人間ていう事ではないんですか?」


「そうだな。誰もがそう思うだろう。しかし、無属性の魔法は他人の使用した魔法を取り込み自分の属性として使用する。強力な属性だ。」


つまり無属性は同じ魔法や同じ属性になりうるという事だ。

しかしそれでは、魔法を生成する本人。つまり、無属性と対峙しているほうが強いのではないか。

その考えが生まれた。


「まぁ無属性に関しても、あまり知られていない…つまり知らない事が多すぎる。私が知っている情報はこの程度だ。」


病院の院長イーサンですらあまり知らない属性がこの世に3つ。

特に闇・無。

これらの情報に関しては政府ですら情報を欲してるそうだ。イーサンは数少ない召喚者であり院長だ。

政府の主要人物や独自の人脈もあるだろう。そんなイーサンですら知らない事があるのが俺にとって不思議だった。

その後、約40分魔法についての法律や、決闘法について学んだ。

魔法に関する法律を総称して魔法律と言う。

魔法律の法はまだまだ整備されておらず、他の主要国からみても日本は遅れているみたいだ。

魔法律の中でもイーサンに覚えておけと言われたのが、1条と2条と3条からなる魔法律についての基本部分だ。


1条 魔法使用範囲の適合性。

魔法の使用は、訓練、助力、犯罪抑止、その他公共の場において適切と判断される場合に使用する事を認める。但し、戦争、テロ行為、その他犯罪に使用する事を禁止とする。


2条 永精

永精の特殊な能力は、1条と同じ条件下の場合において使用を認める。禁止内容も同じとする。


3条 罰則規程

本法律を破った場合は、憲法及び刑法、魔法律を適用する。


「結構当たり前の事が書かれていますね。」


「法律は基本的な事を記さないと、効力が発揮されないからな。まぁ学生にとっては嬉しいことかもしれないがね。それにまだ魔法ができて早々な段階だ。本当に必要な法律は今後できてくるよ。」


確かに今の学生には嬉しい内容だ。俺も試験でこの問題が出題されたら間違える事はないだろう。

イーサンの授業は魔法律の説明をして終わった。授業内容が頭の中で処理しきれずすごく眠たい。


「あぁ…終わった。」


「来週の月曜日は実践訓練も兼ねて、外でするかね。私も月曜日は久しぶりに休みだからな。どうだ?」


外という言葉を聞いて、高揚感を感じた俺は眠気が一気に吹き飛んだ。


「はい!」


「ん?まだ元気そうだな。じゃあもう一時間勉強するか?」


「それは嫌です!」


「そうか。なら、急いで帰りなさい。寄り道はしないように。」


机の上に大量に広げられていた教材の山とペンをそそくさと片付けて、会議室から抜け出した俺は足早に家に向かった。



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