~2章 新たな友人~
…
「いい?これから母さんはやらなければならない事があるから家を出るわ。純平元気でね。」
「母さん!ヤだよ!母さん!」
…
母さん!と大きな声をあげ目が覚めた。
(ここは…)
真っ白な天井に綺麗な布団。
嫌な夢をみた。
だがどこか懐かしく、昔を思い出した。本当に幼い頃を思い出すようなそんな夢だった様な。
昔経験したことのある…のか?わからない。とにかく自分が懐かしむ感情。そんな夢だった。
「痛っ!」
突如、頭痛が稲妻のように駆け巡り、それ以降頭中で小動物が暴れまわってようにガンガンと頭が痛い。
頭を抑えながらうずくまっていると扉が空く音が聞こえた。
「あっ!宮内君起きたの!」
聞き覚えがある声だったがそれに構っている暇もなく頭が痛かった。
「大丈夫?今先生呼んでくるわね。」
どうやらここは病院のベットの上らしい。
当然先生とは医者の事であり、数分後医者がふっふっと小走りで走ってやってきた。
「ふう…おっ、宮内君。具合はどうかね?」
と軽い調子で聞いてきたが、頭が痛くこれはもう目を瞑るしかなかったので目をつむってうずくまってしまっているといつの間にか寝ていた。
翌日になり、目が覚めた俺は密かに病室を抜け出し景色の見える入院患者専用のエントランスホールがあったので、朝日をみるいい機会だとそこに設置されている椅子に座った。
机を囲む様に椅子が配置されており、エントランスから周辺の住宅地を見渡せるようにガラス張りだった。
俺は椅子を一つ拝借し、景色を見る様に座った。
時計を見ると短針が4、長針が12を指しており少し得をした気分になった。日が昇るのを見よう思いずっと外を見ていた。
「そういや…夢だったのかな。」
前に起きた学校での騒動が鮮明に思い出せず、ずっとこの病院で入院していたかのような錯覚を感じている。
(まあ…夢か。)
実感が沸かないし、ベットの上で見た夢だと思った。
【夢じゃないですよ。】
「おわ!?」
俺は、頭に直接ささやかれたような言葉に驚き椅子から転げ落ちた。
「誰だ!」
周りを素早く見回したが誰もいなかった。
それどころか、まだ薄暗い病院の廊下が妙に拍車をかけて恐怖感を煽った。
【戸惑うだろうが、君に直接話掛けているんだ。そう意識にね。】
すこし立って、学校の事を思い出してきた。
(ああ…あの時)
【紹介が遅れましたね。私の名前はルシファー。堕天使の長であり、又の名をサタンといいます。と言うよりもう一つの人格かな?】
イヤホンをしているかのように聞こえる少し笑ったような声に戸惑った。これが直接脳に話しかけているような感覚か。
…がなにより驚いたのが、
「え!?ルシファー!?」
「ルシファーって悪魔の!?」
「てかなんで俺なんかに!?」
色々と質問をしたいが、頭の中の処理が追いつかなかった。
周囲を見て、自分が病院にいることを思い出し、とりあえず落ち着いて座った。
「ふぅ。…ごめんつづけて。」
少し反省しつつ、声の主ルシファーとやらをを探るために少々黙ることにした。
【オッホン…では失礼して。】
咳払いで俺をなだめた後、今回の経緯について語った。
俺は彼…ルシファーを飲み込み、宿した状態であること。
俺の嫌悪、怒り、そして自分がいるべき場所はこんなところではないという傲慢さに惹かれ、引き寄せられたこと。
そして、自分が堕天使…つまり悪魔であり、その長であること。
「学校にいるべきではないというのが、傲慢なのか?」
【いやきみはいるべき場所ではないと感じていたはずだ。自分はもっと他の場所にいるべきだと。普通の学生でも学校に行きたくないとは思っている。が、君は学校にいるべきではないと考えていた。学校でどうあのいじめを対処するかをも考えずにね。十分に傲慢だと思うよ】
【でもその傲慢さのおかげで私に会うことができたのではないか】
「それはそうだけど…」
忘れかけていた、友達と話すという感覚が甦り時間を考えずに話した。
【…とまあ、おっと。こんな時間になってしまったね。】
最後に学校での最後を聞こうと思っていたが、ルシファーによって話を切られてしまったため聞き出せずにいた。
俺は、時計をみた。すでに2時間経過しており日が昇り始めていた。
窓から日の出を見ながら、そっと念じた。
(よろしくな。ルシファー。)
「宮内さん!何をしているんですか!」
看護師が困った顔をしていた。俺が病室から抜け出している事に気づいて、慌てて俺を探しに来た様子だ。
ショートヘアで顔立ちの整った女性だ。
こんな美人な人いたっけかな?
「あ、ごめんなさい。」
とりあえず謝って、それから俺は静かに病室へと戻った。
その日、医師が面談を実施する旨を伝えられ病室で待機していた。
(たぶん…永精の事だろうな。)
他の患者からそれとなく聞いてみた話、人間が呼び出した英雄や偉人は永精とよばれるらしい。
俺の場合、架空の神様を呼び出したんだ。医者も興味を惹いたんだろう。
「宮内さぁん。2階221番の診察室までお越しください。」
病室でテレビをみて暇を潰していると、急遽看護師に呼ばれた。
俺はテレビを見るのをやめ、ベットから立ち上がった。
ギシっと音を立てるこのベットの音がどうしても好きになれない。
病室が5階だった事もあり、エレベーターに乗って2階の221番診察室を探した。
角を曲がった先に221号室と書かれた診察室があった。
(ここか。)
診察室のドアを開けると少しぽっちゃりしていて優しそうな顔をした、白衣を纏った医者と対面した。
確か昨日、小走りで走ってきた医者だ。
「宮内君だね。昨日はびっくりしたよ!急に寝ちゃうんだから。…まぁそれはいいか。私が担当医の佐伯先生と言います。よろしくね。」
「よ…よろしくお願いします。」
そう言うと座るように促され医者の前にある丸椅子に腰掛けた。
「見た感じ元気そうだね。これはすぐ退院できそうかな。」
俺の療養過程を確認しておきたかったのか、その後検温、採血等色々と調べられた。
一通り調べ終わった後、こっちが本題とばかりに佐伯先生は椅子に深く座って話を始めた。
「宮内君。君は、学校で何があったか覚えているかい?」
徐々に思い出してはきていたが、曖昧な部分も多かったため「いや、あまり…」とだけ答えた。
本当は結構思い出していたが、事件とも呼べるレベルの騒ぎを起こしたのを咎められると思い嘘をついた。
「そうか。うーん」
医者…佐伯先生は俺に対して、言いたいことがあるがここで言うべきか否かを悩んで首を傾げていた。
しばらく沈黙した後、ハッ!と思い出したように話を再開させた。
「そういえば君は永精を呼び出したらしいね。何を呼び出したんだい?」
心なしか、医者は目をキラキラと輝かせるようにこちらの回答を待っていた。
「えっと。本人はルシファーと名乗っていました。本当かどうかは知らないですけど。」
「えっ!本当かい!?」
(これは、院長に一応連絡を入れておくべきか。でも彼の家族にも一応…)
またしばらくの沈黙
すぐ質疑応答中に一問回答するだけで考え込む医者に若干イラっとしつつ質問を返した。
「佐伯先生。俺は…その…永精に関してあまりよく知らないんです。永精についておしえてくれませんか?」
佐伯先生ははっ!笑いながら顔をあげた後、すぐに快諾してくれた。
「いいだろう。まず召喚者は極めて少ない。また永精とは昔の偉人や神様の事を指すんだ。そして永精には強さに応じてランクというものが存在するんだ。」
「ランク?」
「そう。三つ位がある。まず一番下の三位階級は、武将や歴戦の猛者が該当するんだ。三国志に出てくるような武将や戦国時代の武将がそれに該当するだろうね。二位階級には偉人や英雄が該当する。もし坂本龍馬やナポレオンを召喚すれば、間違いなく二位階級だろうね。」
熱く語る医者に若干引いている。多分自分はすごく冷めた目をしているだろう。
「そして、一位階級。これは創造主や神様が該当する。…そして君のルシファーこれは一位階級だ。」
(そうだろうな。)
ルシファーなんて誰もが知っている。異国の宗教でも周知している悪魔は、その知名度の分発揮する力も強力だろう。
ここで、一つ疑問が生まれた。
ここまでランク分けされているということは、日本にも他に召喚できた者がいるのか。
「日本で、他に召喚できた人はいますか?」
佐伯先生は、うんうんと頷いて答えた。
「例えば警察官に、剣豪・足利義輝を召喚できた人は有名だね。テレビでもインタビューを受けていたし。後、噂程度に聞いたことがあるんだけど…」
一つ。間を置いて息を整えてからこう答えた。
「神ゼウス。ゼウスを召喚した者がこの日本にいる。」
医者はさっきのニコニコとした笑顔とは裏腹に、一気に真剣な表情になった。
ゼウスと言えば、多分知らない人のほうが少ない程の超有名な神様だ。
全知全能であり、全宇宙を統べる神話最強の神様であり雷を武器に様々な神話を作り上げてきた。
多分ルシファーに匹敵…いやそれ以上か。
「創造主である神を召喚した君にだけ話す。他言無用だ。お願いするね。」
そういうとニコッと笑いかけ、まあまあと肩を叩いた。
「まあ噂話程度だけれどね!はっはっは!」
やっぱり好きになれないこの医者にその後の体調の具合を報告し、診察室を出た。
途中、自分の病室に戻る途中ルシファーから【変わった人だね。】と言われ、同情しながら歩いていた。
途中すれ違った看護師に来客があることを知らされた。父親が来たのだと思った。
が…
扉を開けると、そこには保健室の先生…竹本先生がいた。
「あ!宮内君!良かった元気になったのね!」
そういうと、竹本先生は目に薄らと涙を浮かべて笑った。
あの学校の事件の後、竹本先生が生きていた事に至極安堵しつつも、若干恥ずかしさが芽生えたため「どうも」とだけ返事をしベットの上に座った。
「宮内君。その…ごめんなさいね。」
竹本先生が謝った理由がなんとなく理解できたため、大丈夫です。とだけ返答をした。
「先生。あの後どうなったのですか?倒れた時、あんまり記憶がなくって。確か俺…先生を攻撃して…」
「大丈夫よ。あの攻撃はあなたが倒れた後、あの沢山の武器は綺麗に散って無くなったわ。」
先生曰く、武器が散った後、蛍の様に綺麗な光が体育館周辺を包み込みグラウンドを見ると俺が倒れていた。
駆け寄って声を掛けたが反応が無く、慌てた先生が救急車を呼んでくれたらしい。
「その…すいません。」
「いえいえ!いいのよ。それより体調どう?問題なさそう?」
「一応担当医の人から、すぐ帰宅できそうと伝えられました。」
先生は良かった!とよろこんでくれた。
ただ、一つ問題があるとすれば…先生に申告するしかないか。
「あの…先生。僕はもう学校には行けません。」
さっきまでパッと明るかった先生の表情が一瞬にして曇った。
「そう…よね。あんな事があった後じゃ学校なんていけけないわよね。」
竹本先生は黙って考え始めた。長い髪を掻き上げ耳に掛けた時の横顔が綺麗で中学生ながら、少しドキッとしたのは内緒だ。
「…なら先生が勉強を教えてあげるわ!」
「ん!?保健の先生ですよね?」
驚いたが、先生に対する知識が乏しいため、実際に勉強をきっちり教えてくれるかいささか不安だった。
まぁ勉強が嫌いだし、勉強ができなくても問題がないが。
怪訝な目で先生を見ていると先生が軽く怒り出した。
「何よ!私だって中学生に勉強位教えること位できるわ!」
しばらく考えたが、今は選択肢がないのでとりあえずお願いすることにした。
今は中学2年生の1学期。そろそろ本格的に勉強し始めないといけない事は明白だ。
ただ、今まで勉強をサボっていた為不安が残る部分はあった。
「じゃあ先生は準備があるから帰るわね。」
先生はじゃあね。とだけ言い残して、扉を開けて帰って行った。
(意識が戻ってから忙しいな。)
久しぶりに色々な人と話したせいだろうか。疲れがドッと押し寄せてきた。
陽が差し込む病室の秋の陽気に負けて眠気が増してきた。
「寝るか。」
そのまま、ベットで冬眠するかの如く潜り込み夢の世界へと落ちていった。
「ふぁあ〜!」
勢いよく欠伸した俺は、14時間も寝ていたことに驚いた。よっぽど疲れていたのだろう。
「おはようございます。熱計りますね。」
ガラガラと病室に看護師が入ってくると温度計を渡された。
看護師に熱を測定され問題ない事を確認されると、病院の名前が入った退院案内の資料を渡された。
「宮内さん。今日退院の日だからここを出る支度をしてまた221号室…佐伯先生のところまで行ってくれる?」
「はい」と返事をして、俺は病室から荷物を取りまとめた。
といっても、よくよく考えてみるとそこまで荷物がないことに気づいた俺は服を着替えて持っていた備品をポケットの中へと突っ込んだ。
荷物をまとめた後、221号室までゆっくりと歩いて行った。
【純平君。】
「ん?」
【よかったら、永精のこともう少し詳しく病院の先生に聞いてみたらどうだい?私を理解することも一つの勉強だよ。】
(君が教えてくれたらいいだろう。)
ルシファーに言われ、後々自分の為になるだろうと佐伯先生に詳しくきいてみることにした。
221号室の扉を開けると、前と変わらない様子で椅子に座った佐伯先生がいた。
「やあ宮内君!調子はどうだい?」
部屋に入るなりすぐに、大きい声で今日の調子を尋ねられ少しビクっとなった。
「まあ…普通です。」
それから現在の体については、なんら問題ないことを告げられた。
ただ、今後はストレスをためない様に気を付けることと注意を受けた。
「体の方はこれで大丈夫かな。あとは、少し今後の話をしたいから私と別室に行こうか。」
ルシファーに言われた通りに話を聞こうとしたが、佐伯先生は立ち上がって俺に同行を求めた。
別室にいく意味がわからないが、逆らう意味も特にないためついていくことにした。
病室を出て、エレベーターに乗り一番上の階を押しエレベーターが動いていく。
エレベーター内の静かな時間に戸惑いつつ今後の話とやらを尋ねた。
「今後の話って?」
「うん。それは着いたら話すよ。」
また、無言の時間に逆戻りしたこの空気に嫌気がさしつつもエレベーターの到着を待った。
チン!と目的の階層に到着したことを告げるベルがなり、エレベーターを降りると数十歩先に扉があった。
寧ろ扉のみあり、重要な部屋だということを認識することができた。
この病院のそれもかなり重要なポストについている人物のオフィスだろう。
コンコンと手で扉を叩きながら「失礼します!」と大きな声を掛けた。
佐伯先生は、勢いよく部屋の扉を開けて入って行った。俺も流されるがままに部屋に入った。
「やぁ、よくきたね。」
杖をもった老人、それもすごく立ち姿が綺麗な老人が窓の外をみながら話かけてきた。
夕陽の逆光が鋭く、ご老体を認識することができなかった。
「立ち話もなんだ。ここに座ってくれたまえ。」
言われたまま椅子に座ると紳士的な老人は、そのまま目の前に座った。
(日本人…じゃない?)
「驚いたかい?私はEthan Howard (イーサンハワード)だ。生まれはイギリス。育ったのはここ、日本だ。」
「そして、この病院の院長だ。」
真顔で机をトントンとリズムよく叩いている。
怒っている?どんな気分なのか、感情が読めない。
「何故俺はここに呼ばれたんですか?」
「今後…君は召喚者だから色々な者に探されることになるからねそれの説明。それと…今後の学業についてだ。」
(ああ…。)
学業。自分の突かれたくない心の隙間を開かれたみたいで胸が締め付けられるおもいだった。
重い。この空間の空気に押し潰されそうだ。
今、自分の中で一番話したくない話題を、心の確信をつかれたみたいでまっすぐこちらをみているイーサンから目を背ける事しかできなかった。
「君は私と同じで召喚者だ。それも第一位階のね。だから君には色々アドバイスをしようと思ってここに呼んだのさ。」
「えっと…」
「イーサンで構わない。」
「イーサンはどんな永精を召喚したんですか?」
この人も俺と同じ召喚者だと?案外召喚者って結構いるんだなと感心した。
「この蛇を纏った杖がそうさ。アスクレーピオスだ。」
(ん?知らないな。)
【アスクレーピオスはギリシャ神話における医学の象徴的な神様だよ。悲惨な最後を辿ったね。】
(へぇ。医者に医学の神様か、いいマッチングじゃん。)
ルシファーが間に解説を入れてくれる為、無知な自分でもある程度内容を理解できた。
アスクレーピオスはゼウスと同じギリシャ神話の神様であり、アポローンとコローニスの子供。
ケイローンを師とし、医学の才に恵まれその実力を遺憾無く発揮した。死人を生き返らせる程に。
だが、彼はその才能のせいで殺されてしまった。
「そういえば、君は…そのどこだい?」
ソファーに浅く座ったイーサンは俺の周囲を見渡し、あるものがないかのように探し始めた。
「なにを探しているんですか?」
「召喚した永精の象徴となる物だよ。私だったらこの杖のように。」
俺は、ルシファーを召喚した際飲み込んだ事を説明した。学校で起こったことも含めて。
「な!?」
無表情だったイーサンが初めて驚愕の表情をみせ、これは興味深いと熟考し始めた。
(飲み込んだ…か。そんな事例を聞いた事がないな。)
イーサンは咳払いし、話題を変えた。
「まあいいだろう。それより、今後の事について話そうか。」
「今後…ですか?」
「そう今後だ。君は探されるといっただろう?その説明だ。」
(探される?ああ。この能力が欲しいからか。なるほど。)
自分でも探される理由が、直感ですぐにわかった。
「日本の政府のJapan Ability Unit 通称JAU、他国政府…主に先進国だな。それから日本だと桜会。海外だと能力者で構成された’Keep’という組織がある。」
「君はJAU、桜会の二つの組織に君は捜索…いや調査というべきか。なんらかの接触を試みてくるだろう。」
イーサンは深刻な顔で俺にそう告げると、ソファーに深く座った。
「まぁ、高校卒業位の年齢までは接触してくる位だとはおもうがね。」
ニコッと初めて笑った。その表情に安堵を覚えた俺は、ソファーに背をあてた。
少し考えたがあまりにも先の話だった為、考えるのをやめた。
「桜会ってのはどういった組織なんですか?」
そうだな…とこれまた深刻そうな顔をした。横に座っている佐伯先生はもはや置物レベルで静かだ。
「私は桜会の者だ。まぁアスクレーピオスがゼウスに殺されたってこともあってゼウスといるのを極端に嫌っているというのもある。」
「が、JAUは能力者をかき集めて対戦争兵器としてチームを作ろうとしている。」
なるほど。佐伯先生の言っていたゼウスを召喚した者がいるという話は本当みたいだ。話の内容から察するにJAUに所属しているのだろう。
ここで突如佐伯先生が、口を開いた。
「まぁ君の将来の話だ。君が将来、来るべき時に君自身で判断すればいいさ。」
佐伯先生は俺の方をガシッと掴んで横に揺らした。その掴まれた手に少し…少しだが優しさを感じた。
イーサンが佐伯先生の話を聞いてニコッとこちらに笑い掛けてきた。
初めて和んだ顔を見て俺の緊張が少し和らいだ。
【純平君。聞いてはどうだい?例の話。】
そうだ。忘れていた。
先刻ルシファーに聞いてみるといいと言われていた件を聞かなくては。
場の雰囲気が佐伯先生のおかげで和やかになって行ったのを見てリラックスした状態で話始めた。
「すいません…その。授業を聞いてなかったので。召喚者について詳しく教えてください。」
「いいだろう。召喚者は永精に見込まれて召喚者となった。まぁ目をつけられたとも言うべきか。」
「召喚者は、永精の魔法を使用できる。あと3つの恩恵を受ける事ができる。私で説明するならば、私の属性は水であり、恩恵の一つ医神の目を使用することができる。」
医者の神にふさわしい名前の恩恵を聞いて興味が湧いてきた。
つまり自分にとっても恩恵とやらが受けられた暁にはルシファーにふさわしい技が放てるということだからだ。
これほど厨二心を揺れ動かすことはないだろう。
「医神の目はどんな能力なんですか?」
「患者や敵の弱点、つまり悪い・弱い所を可視化することができる。全ての医師の観点を持った目だ。もちろん場合によっては戦闘にも応用することができる。」
(なるほど。あとは召喚者の使い様によっては強くも弱くもなるということか。)
その後、竹本先生がイーサンの元に尋ねてきたことを知らされた。
イーサンに俺の勉強の為の場所を提供して欲しいと伝えにきたみたいだ。それを聞いて俺と会ってから決めると伝えて帰らせたらしい。
「毎日朝9時にここに来るといい。竹本先生が主に面倒を見てくれるらしいが、私も時折顔を出すとしよう。場所は私が提供するよ。」
イーサンは、杖を持ってソファから立ち上がり背筋をグッと伸ばした。
「年を取るとどうも腰にくる。」
俺は答えに戸惑い、佐伯先生の方をみた。佐伯先生も答えに戸惑い俺の方をみた。二人で見つめあってるみたいで少し気持ち悪かった。
「とりあえず、今日は帰りたまえ。明日総合受付でイーサンにアポがあると伝えると良い。勉強場所まで案内するよう伝えておくよ。」
「ありがとうございます。」
自分の人生で初めて、九十度頭を下げた。
自分の中で感謝をするということを学んだ気がする。
人生の中で全ての人間は敵だと思っていたが、竹本先生・佐伯先生・イーサン。
この3人のおかげで少し気が楽になった。
少し泣きそうになったが、なんとか堪えつつイーサンのオフィスを後にした。