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6/9

5 レベル5だそうです

説明回。今日から数話ほど連続投稿する予定です。





 目を開けると木製の天井があった。


「あれ…………?」


 見た事のない景色だ。

 それからしばらくして、段々と自分がさっきまで何をしていたのか思い出し始める。


 “ワレハ 二万モノ機械兵ヲ束ネル

 カラドギア機械兵団

 四機将ガ一機 国攫イ!”


「あ」


 そこで急激に記憶が蘇り体を起こす。


「おや、目が覚めたかい?」


「え?」


 すぐ隣から聞こえた声に振り向く。


 三十から四十歳程の男だった。帯のない着物の様な服装をした、黒髪の筋肉質な男性が笑っている。


「あの……ここは一体?」


 男性は手に歪なコップを持って俺の寝ているベッドの隣に座った。


「ここはアーガン王国の東部にある村の一つ、リンクだよ。さ、これを飲みなさい。水で薄めた気付け薬だ」


 彼は緑色の液体の入ったグラスを差し出した。脳裏に青汁という単語が浮かんだが、寝起きでまだ意識がハッキリせず、言われるがまま飲む。


 思ったより苦くもなく、水っぽかった。しばらくして体が少しぽかぽかして、意識も明瞭になる。


 どうやら俺は普通の家におり、ベッドに寝かされているらしかった。


 すると俄然と気になってくるのは、先ほどの“アーガン王国”なる国名だ。


「ありがとうございます。ところでその、アーガン王国と言うのは、ユーラシア大陸の国なんでしょうか?」


「ゆーらしあ大陸? それは、ここ人族が中心の中央大陸、獣人やエルフの多種族入り乱れる星雲大陸、魔族や魔獣の住処である暗黒大陸、そのどれかの別称かな?」


 返ってきた単語は期待とは程遠い内容だ。

 もし彼の言葉がジョークでなければ、ここで目覚める前、モンスター集団や魔萬公爵とやらを殴り殺したアレも、現実という事になる。


 いやもう現実なのだろう。あれだけの経験をして実は夢でした、という方が逆に納得がいかない。


 にしてもモンスターに魔族、獣人やエルフ……そういえば、後輩の奈良くんが仕事の休憩中によく、そういう世界に転生するウェブ小説を読んでたっけ。案外俺の状態がそうなのかもしれない。


「ふむ。もしかして記憶が曖昧なのかな? 君はシブの森――ここからさらに東に行った森と街道の境で倒れていたんだ。近くに馬車はないし、荷物もない。てっきり野盗にあったのかと思っていたのだけれど」


「あ、ああ、そういえば……」


 俺は咄嗟に、乗っていた馬車がモンスターに襲われ、荷物を失い森を彷徨っていたと話をでっち上げた。


「そうか。それは大変だったね。となると君の馬車や荷物だが……」


 彼はまたふむ、と腕を組んで何かを考え始めた。その隙に今度は俺が口を開く。


「あの、どうやら気を失っている所を助けて頂いたようで、ありがとうございました」


 ベッドの上で深々と頭を下げる。下手をすれば洞窟にいた様なモンスターの餌になっていたかもしれないのだ。どう考えても彼は命の恩人だ。


「ああ、いいっていいって。その辺りは持ちつ持たれつだよ。別に見返りを期待してって訳でもないしね」


 そう笑うと彼は手をひらひらさせた。そんな時だ。


「あなた…………あら、目が覚めたのですね」


 男性の後ろの扉がノックされた後、金髪を後ろで団子の様にまとめた女性が入ってきた。彼とは異なりヨーロッパ人っぽい中々の美熟女だが、それよりも俺はそのお腹の膨らみに意識を取られる。


「ああ。大丈夫そうだ。紹介しよう、妻のアマンサだ。見ての通り妊娠中でね」


 少し照れた様な男性の紹介に、アマンサさんは大きくなったお腹に負担がいかない様に、小さく会釈した。


「それでこっちは――あれ?」


 彼は思い出した様に首を傾げた…………うん、そういえば自己紹介もまだでしたっけ。











「そうか、スズキ君は島国の出だったのか。せっかくここ中央大陸に仕事を探しに命懸けでやってきたと言うのに、こんな事になるとは、アラウス神様も厳しい試練をお与えになる」


 俺の説明を聞くと、彼――ハルムさんは自分の事の様に同情してくれた。


 さらにお互いの事情や、簡単な紹介をすると色々とこの世界に関する情報も自然と手に入った。


 恐らく文化レベルは中世の中期から後期。イメージはヨーロッパのそれだ。電気ガス水道は言わずもがな。政治に関しては王や公爵という言葉から封建制に思えたが、若干異なる印象も受けた。


 一方で魔法や亜人族、モンスターという本来では空想上のものが当たり前の様に存在している。びっくりだ。


 だが一番驚愕だったのは他でもない、レベルやスキルという概念もまた、当然の様に存在していたのだ。


 思わず「ゲームでしょうか?」と突っ込みかけたが、真面目腐った顔で自分のレベルやスキルを丁寧に説明するハルムさんを前にしては、到底言えなかった。


 まぁ確かにレベルという指標がある分、危険察知はし易いはずなので悪い話ではない。


 というか。


 レベルについては赤ん坊から三歳児で大体5くらいあるらしく、成人する頃には最低でも10を超え、鍛え方によっては20に届くらしい。30を超えるとそこからは冒険者や騎士、傭兵と言った戦闘のプロ。なお50を超えるともはや伝説になってくるとの事。


 つまりは一種の指標のようなものらしい。


「でもそうなると」


 俺のレベルは確かとんでもない事になっていたはず。

 たぶん今の話だと明らかに人間ではない。


 だが悪い話ではない。


 見知らぬ場所、見知らぬ世界、見知らぬルール。そこで求められるのは間違いなく力だろう。


 そういう意味では助かった。

 食いっぱぐれないだろうし、死ぬ危険も低く出来そうだ。


 ……なお俺のステータスウィンドウの様なものは存在しておらず、彼らは専用の魔導具(魔法アイテム)やスキルによって調べているらしい。なら俺のウィンドウって一体なんなのだろうか。


 そんなカルチャーギャップにホッとしたり呆れたりしている俺を気遣ってか、ハルムさんが口を開いた。


「君の気持ちもよく分かるよ。荷物の事は大変気がかりだろう。けど、数日はウチでゆっくりしなさい。君の事は村長達にも話しておく。何よりまずは元気になる事だ。文無しの君から宿代や食事代を取るつもりもないから、安心してくれ」


「よ、よろしいのですか?」


 これはとんでもなく良心的な話だ。

 この世界の文化水準を考えるに、その提案は高待遇に過ぎる。少なくとも見知らぬ少年を置いておける程、このウチは裕福に見えない。


「なに、さっきは説明しなかったが私は村で唯一の魔法使いなのだよ。君一人くらいなら、なんとでもなる」


「ま、魔法を使えるんですか?」


「ああ。私も村人ではあるけれど、ちょっと特殊な立場でね。その辺りは必要とあらば話すよ」


 逆に言えば、必要がなければその辺りの事情は聞くなという風に聞こえた。最も俺は純粋に魔法の存在に驚いただけで、事情については彼の勘違いだ。


「じゃあしばらく安静にしておいてくれ。私は村長達に君の事を説明してくる」


「何から何までありがとうございます」


 俺の感謝の言葉にハルムさんは大げさだよ、と笑うと妻のアマンサさんと共に部屋から出ていった。


 しかし……凄いな。見知らぬ人間を家に置きっぱなしにするとか。いや、むしろ現代人である俺の心が汚れきっているせいか。












「ステータス」


 と、言う訳では一人きりになった部屋で俺はすぐさま、今度は自分の現状について確認を行う。


 声と共に目の前に例のウィンドウが開く。


 なにせ魔萬公爵を倒す前でレベル70だ。今は果たしていくつになっているのか。


「なんか、ゲームのキャラを育ててる感じがして面白いな」


 思わず頬が緩む。レベリングして最強クラスになったキャラを見てるだけで楽しいのに、それが自分自身と言うのはやはりワクワクする。


【名前 鈴木ダイスケ

 種族  ヒューマン

 称号  支配者殺し(ボス・スレイヤー) 蟲毒王 殺戮者ジェノサイダー 笑顔の強打者スマイリー・パンチャー 塚田ボシングマスター |魔人殺し(公爵級) |暴虐の拳徒 黒曜石のダンジョン盟主ボス

 ジョブ なし

 年齢  14歳

 状態異常  なし(鑑定不可――魔王刻印)


 レベル 5


 HP 10/10

 MP 0/0

 スキル 詳細

 魔術  詳細

 アイテムボックス 詳細】


「えッ!?」


 えっ、ちょ、レベル5!?


 赤子か!?


 俺の戦闘能力はよくて三歳児なの!?


「なんで? どういうことだ?」


 動揺しながら何度も何度も確認する。しかし『5』という数値は全く変化しない。


「お、おかしい……なにが。何が起きた」


 徹夜して作ったはずのパワポ資料が、何処にも保存されてなかった様な心境でステータスを再度、一つずつ確認する。


「あれ、称号ってこんなに多かったっけ……いくつか増えてる?」


 魔人殺し(公爵級) |暴虐の拳徒 黒曜石のダンジョン盟主ボス。この辺りはなかったはずだ。だが魔人殺しという称号から、魔萬公爵を倒した結果なのだろう。


「マイナスっぽいのはないぞ。むしろレベルが上がる様な名前ばかりなのに……」


 レベル5。


 本当にこれは一体どういう事だ。前に確認した時はレベル70くらいはあったはず。それが目が覚めたら5って言うのはあまりに酷いんじゃないだろうか。


「まさか弱体化したって事なのか……ん?」


 不意に変な文字が眼に入った。


 状態異常  なし(鑑定不可能――大魔王刻印)


「こっ、こいつだッ!」


 絶対これだ。


 まず間違いなくこれだ。


「なんだ大魔王刻印って。いくら何でも物騒過ぎる……つか、これは一体どういう意味なんだ?」


 そう呟く新しいポップが表示された。


【大魔王刻印 大魔王の魂が封印されている。一定の期間を経て受刻者が死亡すると大魔王が復活する】


「…………」


 なにこれ? これなに。俺が死んだら大魔王復活するの?


 やばい。とんでもない危険物だ。魔王所か大魔王封印って。


 やはりこれのせいでレベルが5になったのか? どうしてこんな爆弾が俺に。前回見た時はなかった…………ん?


 頭を抱えているポップには続きがある事に気付いた。


【なお一定期間を満たさず受刻者が死亡すると、受刻者を殺害した者に乗り移る


 前受刻者 魔萬公爵】


「あの蔓ジジイっ!」


 思わず頭を抱えてベッドでもんどりを打つ。あの魔萬公爵こと蔓ジジイにそんなトラップが仕掛けられていたとは。


「……どうしようかこれ。身の振り方間違えると大変な事になるぞ」


 一人ああでもないこうでもないと考える。だが結局、この世界の事もまだロクに分かってない俺に答えなぞ出るはずもない。


「…………とりあえずこれは保留だ。うん」


 死ななければいいのだ。


 大魔王復活についてはそれでいい。俺だって死にたくはない。安全に暮らしていけば問題にならないだろう。


「しかし、レベル低下について何も書かれていないのはなんでだ?」


 そう。


 書いてないのだ。レベル低下の効果が。これまでの解説ならば表示される。少なくとも匂わせる一文は入る。にも関わらずない、となれば。


「……まさか」


 俺はあの時に確認できなかった例のステータスをついに呼び出す。


【裏ステータス】


 出た。本当に出た。ステータスウィンドウさえ存在しないらしいのに、裏まであるなんてどういう理屈なのか。


【裏ステータス――特殊魔法ユニーク・ソーサリー インペリアル・ウィザーズ


『ライフ』

 ・4/5回

『残存魔力』

 ・鉄魔力 5/5

 ・火魔力 0

 ・水魔力 0

 ・森魔力 0

 ・闇魔力 0

 ・光魔力 0

『手札』

 ・10枚(詳細)

『墓地』

 ・なし

『デッキ』

 ・???】


 そこに表示されていたのは、トレーディングガードゲームをプレイした事があるのなら、お馴染みの項目達だった。


「でも、この世界観に全く嵌ってないよな」


 問題はこれをどう解釈すべきかは全く分からないこと。


 とりあえず項目を一つ一つ見ていく。まず親項目である特殊魔法ユニーク・ソーサリー インペリアル・ウィザーズを確認する。


【インペリアル・ウィザーズ 大魔法によりカードゲームであるインペリアル・ウィザーズを現実に再現したもの】


 やっぱり俺の趣味のカードゲームをこの世界に強制的に再現した力らしい。ライフや場、手札にデッキ。この概念をファンジー世界にそのまま落っことした格好だ。


 さらに続きを読んでいく。


【再現されたモンスターカードは第一の魔法 “仮面演舞インフィニティ・マスクス”によりプレイヤー自身が装備が可能。


 また第二の魔法 “魔書ザ・グリモワール”により再現されたカードを自らの魔法としても使用可能となる】


 なるほど。機械仕掛けの国攫いを俺が装備したのは第一の魔法 “仮面演舞インフィニティ・マスクス”のおかげらしい。


 さらに二の魔法 “魔書ザ・グリモワール”によれば、カードをそのまま魔法として使えるようだ。つまり国攫いを現実に召喚したり、魔法・魔術カードを自分の魔法として使ったり出来るのだろうか。


 素晴らしいな。これならこの世界で困ることはなさそうだ。


 ……大魔王刻印と自分のレベルが三歳児並でなければ。


「でもライフってどういう扱いなんだ?」


 次に子項目へ目を向けると、そこには明らかに表のステータスと丸被りな項目がある。


 そう、表にはHPことヒットポイントという項目がある。いわば残りの命。では、ここに書かれたライフは一体どう解釈すべきなのか? 俺は詳細を開く。


【ライフ プレイヤーの死亡回数】


「回数!? 回数って、それじゃあこの回数だけ死ねるって事なの??」


 もはや人間じゃないだろそれ。凄すぎやしないか。


 あ、しかしロッ○マン的に考えればこれはコンテニュー回数だ。コンテニュー出来るだけでも異常だが、ロックマンのライフと考えると急に心もとなくなる。


 何より悲しいかな俺もレベル5である。雑魚がどれだけ復活しても意味はなかろう。


 そんな哀愁を感じつつ次の項目へ移る。


【残存魔力 カードを使用する際の魔力コストの残数と魔力の種類。モンスターを装備する際も、カードを魔法として使用する際も必要となる】


 これは予想通り。


 インペリアル・ウィザーズはカードを使う際に、使用するカードと同じタイプの魔力コストを要求される。


 つまり鉄魔力5とは、鉄タイプで、なおかつ魔力コスト5以下のカードなら、コストを払えば使用可能という意味だ。


 確か機械仕掛けの国攫いはゴーレムなので鉄タイプだ。魔力コストもちょうど5。……今考えると、彼を装備できたのはある意味、奇跡だったらしい。


 そして俺は『墓地』と『デッキ』を無視して最後の項目へと目を向ける。


 『墓地』はどうせ使用済みカードが送られる場所だ。現在0なのは使用済みのカードはないという事でもある。


 また『デッキ』に関しても気になったが、解説も???で、意味は分からなかった。


 なので最後の『手札』へ意識を向ける。この項目に書かれたカードこそ、現在俺が使えるカードなのだろう。

 幸運なことにカードは全て鉄タイプ。これなら殆どのカードを使える事になる。


「しかし……やっぱり裏ステータスにも書いてなさそうだな」


 ただ結局、ここまでレベル低下に繋がる情報は全くなかったな。やはり大魔王刻印が怪しい所だが、こうなったら致し方ない。


「まぁ、こうして凄い能力はある。すぐにレベルも上がるだろう」


 少なくとも三歳児並はまずい。

 大人に殴られて即死するレベルだ。けど逆にレベルは低いゆえにすぐ上がるはず。


 そう楽観しながら俺は最後の項目の詳細を表示する。


【手札 現在プレイヤーが所有しているカード。ドローはターン開始時、0時00分に強制的に行われる。プレイヤーのレベル5を超えた分のレベルを消費し、ターン開始時にレベル10につき1枚カードをドローする】


「…………………………え?」


 ちょっと待て。


 今、何か不穏な。


【プレイヤーのレベル5を超えた分のレベルを消費し、ターン開始時にレベル10につき1枚カードをドローする。また――】


 あ。

 これ、5を超えると強制的にカードに変換されるって事? それじゃあ。


【また、レベル5を超えた場合それはドローの為に蓄積され、レベルがそれ以上に上がる事はない】


 つまり――。


「俺どれだけ強くなっても、一生三歳児じゃん!?」







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