3 ステータスとか基本だよね
「ハァ…………げほっげほっ!」
俺は毒ガス兵器によりモンスター達を大量殺戮の後、放り出したリュックの所まで戻りようやく見つけたライターで一服していた。
しかしなぜか慣れているはずの愛用タバコ、ラッキーストライクの煙にかなりむせ返る。
「ごほっ……くっ、ラッキーってこんなにきつかったか?」
なおタバコを吸う前に顔にいつの間にかくっ付いていた仮面は外してある。
しかしこの仮面、取ると全身の力と全能感が抜け落ち、再び着けると同じ効果を感じた事から、どうにもさっきの力の源の様な感じがする。なにより良く見ると機械仕掛けの国攫いの顔とよく似ているのだ。
だが仮面よりも、今はこの咳だ。
「ごほっ、ごほっ、ダメだ。なんでこんなに咳き込む? まさか毒ガスのせい?」
愛用のタバコを吹かすと、どういう訳かむせ返ってしまうのだ。
一瞬、毒が残っているせい? と思ったがタバコを咥えなければ咳は起きない。タバコは月に一本か二本、嗜む程度。だからと言って咳き込む経験はなかった。
「勿体ない…………そういやなんか、背まで縮んだ気がするが…………」
また自身の体にやけに違和感を感じる。その原因を探ろうと自分の体に意識を向けた時だ。
例のポップが出現する。
【古代永久迷宮の四十階層ボス 蒼きサイクロプス を倒しました】
【古代海底迷宮の七十階層ボス ノーライフ・サーペント を倒しました】
【古代豊麗迷宮の六十階層ボス エメラルド・マンティス を倒しました】
【古代地相迷宮の三十階――】
何かが一気に表示されていく。
あまりに早いので何が書かれているのか分からないが、どこどこの何を倒したという報告が表示されているらしい。
「あ、RPGかこれ?」
しばらくするとそれが途切れ、最後に長ったらしい数字が出現する。
【レベルが 76 にアップしました】
【スキル “塚田ボクシング⑤” “見切り⑦” “狂化①” を習得しました】
「いやいやいや、レベルってなんだ。スキルなんて、カードゲームでは聞いた事がないぞ?」
これはカードゲームなのか? それともRPGなのか?
今この時になって現実か夢かという話は意識する気もないが、それでもカードゲームのモンスターを装備できる力を得たと思っらこれである。訳が分からない。
しかもちゃっかり塚田ボクシングのスキルが⑤って……。
「まさかステータスとか開いたりするのかね」
つい冗談で呟く。すると。
【ステータス表示】
「おっ!?」
なんと実際にそれっぽいウィンドウが表示された。
【名前 鈴木ダイスケ
種族 ヒューマン
称号 支配者殺し 蟲毒王 殺戮者 笑顔の強打者 塚田ボクシングマスター
ジョブ なし
年齢 15歳
レベル 76】
「じゅ、15歳だとっ!?」
その前に見えた支配者殺し 蟲毒王 殺戮者、笑顔の暗殺者などの物騒な称号すら忘れる程の衝撃が襲った。
しかし心当たりはある。
慌ててリュックからスマホで自撮りモードにしてライトをつけると――まぁ。
「わ、若いぞ俺!? なんか若いぞ!」
どうやら本当に若返っているようだ。
元々そこまでの年齢ではなかったが、それでも今は中学三年生か高校一年生だ。若いどころか少し幼さまで残っている。
「背が縮んでいるのも錯覚じゃないな……という事は咳き込んだ原因はこれか」
若返った身体にタバコが馴染んでないのだろう。
「他の項目はどうなってるのか」
悲しいかなこれまでが現実離れし過ぎて、それすらあっさり受け入れ、ちょっと楽しんでいる自分が怖い。
【スキル 詳細
魔術 詳細
アイテムボックス 詳細】
「ほんと、完全にRPGだな……スキルに魔術って。さっきのカードゲームはいったいどこにいった」
表示された内容があまりにもあれ過ぎて苦笑しつつ、スキルと魔術へ意識を向ける。
【所有スキル
(肉体) ・見切り⑦ 狂化①
(補助) ・なし
(格闘) ・ボクシング⑤
(魔術) ・なし
(運命) ・幸運C】
先ほど習得したスキルが並んでいた。
これは俺がもつ能力という事になるのだろう。
次に魔術の項目を念じる。
【魔術
・なし】
「………………そりゃあ、そうだよな」
当たり前と言えば当たり前の結果に肩を落とし、少し期待していた自分に気付く。
だが同時に疑問が残った。
「ん? じゃあさっきの大魔法とかいうのは一体――あれ?」
途中でウィンドウがさらにスライドする事に気付き横へ滑らせる。そこには。
【裏ステータス】
「はあっ!?」
なんだそりゃ、と突っ込みたくなる様な項目が出て来た。すぐさま念じてみる。
しかし。
『ああああああああああああああああああああああっ!』
「こっ、今度はなんだ!?」
洞窟の奥から子供の悲鳴が聞こえた。本気でビビった。
少し耳を澄ますも声はそれきり聞こえてこない。しかし声の出所と思わしき場所から距離がある上に、大きい声ではなかった。だが確かに聞こえた。
「あっちは……化物共が集っていた所か?」
俺に気付くまで奴等は何かに群がっていたのを思い出す。
嫌な予感しかしないが、子供の悲鳴を聞いて無視など出来る訳もない。
「出来ればこのステータスと、さっきの大魔法についての説明が欲しいんだけど。チュートリアルとかないのかね……或いは取説でもいいんだけど」
そんな誰からも返事のない愚痴をこぼしつつ、俺は溜息と共に声の方へと向かった。




