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1 怪物日和

 一面、怪物だらけだった。


「――え?」


 俺、鈴木ダイスケは不意の轟音と浮遊感に襲われ目を覚ます。


 そして目に飛び込んできたのは夥しい数の化物達だった。


 それは四つの首を持つドラゴンモドキ、ヒュドラだったり。

 それは三つ目の巨大な蜥蜴、バジリスクだったり。

 それは羽を持ち生物の様に動く石造、ガーゴイルだったり。


 学生時代にやり込んだオンラインゲームなんかで、ダンジョンのボスとして出て来たお馴染みのモンスター達だった。


「――っ」


 パニックなりながら思わず後ずさる。


 彼らとは距離があり、連中は別な方向に注意を向けているので気付かれてはいないようだ。遅れてどうやらここは洞窟内らしいと気付く。

 いそいそと近くにあった俺の旅行鞄とリュックを掴み、適当な岩の柱に隠れる。


 訳が分からなかった。


「えっ? えっ?」


 自分は確かにJR湘南新宿ラインの始発電車に乗っていたはず。

 目的は悪夢の二十連勤の仕事の疲れを取る、三泊四日の鬼怒川温泉旅行。なのに目の前には現代日本にいるはずのない空想上の化物達だ。


 しかもよく見るとここは、東京ドーム数個分に匹敵するだろう巨大洞窟ときた。


 ここは何処だ?


 あれはなんだ?


 俺の鬼怒川温泉は一体何処にいった?


「GRRRRRRRRRRUU!!」


「は?」


 そんな疑問の中、近くで獰猛な唸り声が上がる。


 狼だ。

 ただ、普通の狼の十倍はでかい。ライオンが子猫に思えるサイズだ。


「ひっ――」


 慌てて逃げる様に物陰を飛び出す。

 が、今度はそこで無数の目と合った。


 巨大な空間にひしめく巨大な怪物達がこっちを見ていた。お互いに動くに動けない中で数秒の沈黙の後に。


「GRUUAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

「KSYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

「GUOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


 洞窟を震わす程の咆哮が響いた。


 距離の近い怪物達が駆け出してくる。さらに背後で先ほどの狼の足音が聞こえた。


「っ、ああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」


 大き過ぎる恐怖に直面した場合、大抵は足も思考も動かないもの。


 この状況で絶叫一つで足が動いてくれたのは我ながら奇跡だと思う。社会人になってから通い始めた塚田ボクシングジムの成果か。


 そんな現実逃避をしつつ必死に走っていると、出口らしい人工の扉が見えた。


「あそこに入れば――」


 だが突如、目の前にローブを纏い杖を持ったスケルトンが降り立つ。

 一瞬、リッチというモンスター名が脳裏を過ぎり慌てて踏み止まる。


「やばいやばいっ」


「GRUUAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


 しかし振り返ると先ほどの巨大狼が。


「ひっ――」


「KSYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


 さらに狼とリッチの間にはこれまた巨大な怪鳥が。


「GUOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」


 トドメとばかりに四階建てビル程の高さはあろう一つ目の蒼い巨人――サイクロプス。


「…………冗談でだろ。これ、夢だよな。そうだよな? 頼むから夢であってくれ」


 四体のモンスターに囲まれ恐慌半分。現実逃避半分。

 それでも無駄と分かっていながら重心を落とし後ずさる。


「GRUUOO!!!!!」


 それを嘲笑うかの様に巨大狼が大きく跳躍、飛び掛ってくる。


 まっ――前っ。


 速い。速すぎる。あの巨体で、この俊敏性で、飛び掛られれば左右も後ろも無理だ。


「――っ!」


 相手の拳を掻い潜る要領で、そのまま体を前方に投げ出した。あまりに無様な回避。


 だがそれが良かった。


 猫からゴキブリが逃げる様な感覚で、間一髪、その鋭利な爪の餌食にならず済んだ。

 代わりに背後ではリッチが狼の突進を喰らい、バラバラに弾け跳ぶ。


 ――ジュュュュュュュュッ!


 さらにすぐさま肉を焼く様な音と共に、強烈な刺激臭が鼻を突いた。

 なんだこの音と異臭――。


「GRUUU!!?? GGRRRRRRRRRUU!!」


 そう思い振り返ると先ほどの巨大狼の体が溶けている。


 唖然としてそれを見ていると、怪鳥が叫びながら液体を撒き散らした。それが掛かった巨大狼が絶叫しながら倒れる。


 液体のかかった所からは既に骨まで見えていた。


 ぞっと芯から震え上がった。だがその直後さらに恐ろしい光景が広がる。


「GUOOOOOOOOOO!!!」


 瀕死の狼とそれに襲いかかる怪鳥に、サイクロプスが鉄の棍棒を振り回し叩き付けた。


「KSYAA!!??」

「GRUUU!!」


 狼は今の一撃で胴体が抉れ、怪鳥に至っては頭がペシャと潰れた。


 ………………なんだこれ?


 今度こそ完全に腰が抜けた。

 それでも失禁しなかったの自分を褒めたいヤケクソな気分だ。


 だが二匹を撲殺したサイクロプスはその二匹を食べる事もせず、巨体を躍らせて俺の眼前に舞い降りた。


「ハハッ…………ハハハハ」


 笑うしかなかった。あまりに非現実的すぎて。

 それでも何かを求め、無意識に着ていたコートのポケットへ手を突っ込んだ。


 一瞬、スマホでもあればフラッシュで――等と発想が過ぎったが、ポケットにあったのはテッシュとハンカチと。


「紙? …………あ、カード」


 それが自分の隠し趣味である『インペリアル・ウィザーズ』というカードゲームの一枚だと思い出し――そこで抵抗する気力が消え、全身の力が抜けた。


「そういえば旅行中にデッキ弄ろうとして、昨日の仕事上がりに寄り道して買ったんだっけ……ははっ」


 もうこうなると、考えるのは一つ。


 これは現実じゃないという結論。


「そうだ。夢だろうこんなの。頼む、夢であってくれ」


 だが一方で本能が警鐘を鳴らす。さっき前方に飛んだときに擦り切れた手の甲が訴える。意識のハッキリした脳が叫ぶ。


 ――これは現実だと。


 目の前のサイクロプスが何の躊躇いもなく棍棒を振り上げる。

 けれど最早体に力は入らない。


「ああ………………ああ。ああっ。ああッッ! クソッ! クソッ」


 俺は動けないままサイクロプスを睨みつけ、湧き上がる理不尽に対する怒りに任せて叫んだ。


 これは夢だ! 悪夢だ! でなければ……一体、一体これは何の理不尽だ!


「このッ……ド畜生があああああああああ!」


 ――それが合図だった。


大魔法オリジナル・ワン MAGIC THE ORIGIN 発動】


「――っ!?」


 振り上げたサイクロプスの棍棒を遮る様に、目の前の空間そのポップアップの様なメッセージが出現した。


【施行者からシステムデータ抽出


 アカシックレコードへ迎合


 世界樹との接続


 マジック・オール・シス


 データ群よりオリジナルマジック構築


 OM群を再統合し特殊魔法ユニーク・ソーサリーを再現】


 サイクロプスの腕が振り下ろされる。


 同時に次のメッセージが現れる。





大魔法オリジナル・ワン MAGIC THE ORIGIN は特殊魔法ユニーク・ソーサリー『インペリアル・ウィザーズ』へ再構築されました。





 Commence battle...


 バトルを開始します――装備するモンスターカードをご提示下さい】





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