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魔女と狼  作者: 黒い龍酸
8/10

ネクロマンサー

村を出てしばらく歩いた2人は、すっかり夜が更けてしまったので、道中、付近にあった木の下で火をおこし、休むことにした。


「なぁアジサイ。魔女ってお前以外にいるの?」

「あぁ。多くは居ないが、存在はする。・・・一部はあまり会いたくないが」

「え?そんなにヤバい奴らなの?アジサイ以上に?」

「喧嘩なら買うぞ」


火が消えないように枝をくべながら兎狼はアジサイに質問を投げかける。アジサイが「会いたくない」と目を逸らしていると、兎狼は嘘だろと驚きの表情をする。そんな兎狼を見てアジサイは外套に魔力を込める。


「ぶっ飛んでるやつもいるが、あんまり会わないだろうな。魔女は気まぐれだし、ほとんどは放浪している。たまに拠点を構えている奴もいるが、会いに行く気は毛頭ない」

「じゃあ、アジサイもあるのか?その、拠点ってやつ」

「俺はない。色々な所を転々としている」

「え?じゃあ、青の実はいつ使うんだ?なんか作るのに使うんだろ。てか、持ってなくね??どこにやったんだ?」

「今更か。・・・空間の狭間に置いてある」


兎狼がキョロキョロと青の実を探す。アジサイは何を言ってんだというように外套の中を見せるように外套を広げる。


「お前の外套は何でもありかよ」

「そのために作ったからな。・・・・・・・・この顔にある紋章だって似たようなもんだ」

「それはどういう効果あるんだ?」


兎狼は初めて会った時から気になっていたが触れなかった、顔の所々にあるキズのような、黒いアザのような紋章の効果について聞く。アジサイはそっと自分の頬にある紋章を触り、目を伏せる。


「これは、ある意味呪いみたいなものだ・・・」

「?」

「馬鹿には分からん効果だ。知ったところで無駄だ」

「おう喧嘩売ってんのか?」


アジサイの反応で、兎狼は触れたくないのかと思い、それ以上聞くのを止めた。


「・・・あ、外套から物取り出したり、仕舞ったりするのはどうやるんだ?」


兎狼の質問を聞いて、アジサイは無言で近くの木に生えていたリンゴを取り、兎狼の前に出す。兎狼は何事かと思い首を傾げる。そして、アジサイは外套を広げる。


「このリンゴをこう、外套の中に入れる」

「待ってその一言がまず謎なんだけど、なに当たり前のようにやってんの?馬鹿なの?」

「バカはお前だろ」

「・・・・・・・・・・・・・・否定できねぇ・・・」


アジサイはリンゴを外套に押し付ける。するとリンゴは波紋を出した外套に吸い込まれるように消える。そんな光景を見ていた兎狼は不思議な物を見る目をしてそれをよく観察する。アジサイはリンゴがない事を示すように兎狼に手のひらを向ける。そして再び外套に手を当て、波紋を立てた外套に手を入れる。


「それで、中からリンゴを探して、取り出す」

「箱の中身はなんだろな、みたいだな」

「取り出したい物を頭で考えればすぐに出てくるが、余裕がある時は空間を手探りで探してる。・・・これか?」


リンゴを取り出そうと手を引くが、出てきたのは紫色の髪をした人の頭。突然の事に兎狼の目は点となり、アジサイは何かを察したのか冷たい目をする。そんな二人の空気は、なんとも言えない空気になったが、アジサイは容赦なくそれを引っ張り出す。すると、赤色と黒色の目をした色白で、白い渦を巻いた角を持つ男性の顔が出てきた。その顔の右頬には、何やら切り傷のような線のようなものがいくつかある。兎狼はアジサイの外套から出てきた男にびっくりして腰を抜かす。外套から出てきた男は顔を上げると、笑顔で明るい声を出す。


「ハロー」


ドコォ


男が一言発した瞬間に、アジサイは一気にその男を外套から引っ張り出し宙に投げ、勢いよく飛び蹴りをする。大きな音を立てた男は近くの木に顔面からぶつかり、そのまま落ちる。アジサイは男をまるでゴミを見るような目で見、兎狼は驚愕を浮かべながら、震えた手で男に指をさす。


「くそ変態。何をしに来た」

「いたた・・・。いやだわァ、アジサイが眷属を見つけたって幽霊たちから聞いて、様子を見に来たのに思いっきり蹴りを入れるなんてひどいわー!サイテー!」

「人の外套から出てきたんだ。それぐらい我慢しろ。別のところから出てきたらまた警騎隊に突き出してたぞ」

「ちょっとしたイタズラ心じゃないのォ。相変わらずひどいわねェ」

「正当な判断だ」

「ア、アジサイ!こいつなに!!?アジサイの外套から、急に!お前人拉致って監禁する趣味でもあんの!?」

「ぶっ殺すぞ」

「あら?この子がアジサイの眷属?・・・赤い髪・・・ふーん、ラウの最強だなんてやるじゃないの」

「ちげぇよ。こいつは兎狼、俺が一回殺して、生き返らせた奴。契約結んじまってるから、一緒にいるだけだ」

「あら、私が教えた眷属蘇生やったから生き返ったってことね」

「あぁ。・・・あ?普通の蘇生も出来るのか?」

「出来るけど難しいのよね。眷属にするのが一番楽なのよ。普通の蘇生だと失敗する確率上がるし」

「今度教えろ。興味あるから」

「話盛り上がってるとこ申し訳ないんだけど!あんた誰だよ!」


兎狼は魔法関係の話で盛り上がっている二人の間に割り込み、男に問いかける。男はキョトンとしてから、何かを思い出したかのように「あぁ」と言って兎狼を再び見る。


「名乗るのが遅くなったわね。私はスピーリト。ネクロマンサーよ」

「ネクロマンサー・・・・ってお前が言ってたあの!」

「あぁ、そのネクロマンサーだ」


アジサイは嫌々な様子で兎狼に説明をする。スピーリトは笑顔で兎狼の前に行き、手を差し伸べる。兎狼はキョトンとして、差し出された手とスピーリトを交互に見る。


「え?」

「あら?よろしくって意味で手を出したんだけど、ラウの間では握手って文化はないのかしら」

「・・・あ、あぁ、そういう事か」


兎狼はスピーリトが差し出した手を握ろうとゆっくり手を差し伸べるが、その手はスピーリトの手首を握り、力いっぱいスピーリトを引っ張った。スピーリトは突然のことにバランスを崩してしまい、前に倒れかける。倒れかけているスピーリトの腹部に兎狼は容赦のない膝蹴りをする。そして更に追い打ちを掛けるかのように、スピーリトの手首を掴んでいた手を離し、自身の手を組んでスピーリトの背中に勢いよく振り下ろす。スピーリトはそのまま地面に落ち、苦痛の声を上げる。


「ごはっ!!!」

「見事なコンボ技。さすがラウ」


傍から見ていたアジサイはスピーリトにした兎狼の攻撃に賞賛の拍手を送る。攻撃をした兎狼の表情は見えないが、微かな殺気を帯びていた。スピーリトは何が起こったか分からずにいたが、自分に攻撃されたのだと分かり兎狼に噛み付いた。


「ちょっといきなりなにィ!!本気で攻撃してきたでしょ!!」

「気絶ぐらいは行くと思ったんだけど、ダメだったかー」

「戦闘は習っていたのか」

「いや、村のみんながやってるのをこっそり見て練習してただけ」

「それにしては動きが機敏だったな。さすがラウの最強の血が流れているだけはある」

「お前が素直に褒めると気持ち悪いな」

「よし死ね」

「ちょっとー!私を放置しないでくれるゥ!」


今にも喧嘩が始まりそうなアジサイと兎狼の間に割って入るスピーリト。2人はまるでゴミを見るような目でスピーリトを見る。スピーリトはアジサイに睨まれる覚えはあっても会ったばかりの兎狼に睨まれる覚えは無いため。どういうことか問い詰める。


「なんで急に攻撃してきたのよォ。アジサイにやられる覚えはあっても貴方とは初めて会ったのにどうしてよォ!」

「いや、こいつに魔獣と魂を合成された怒りをぶつけても倍返しで返り討ちに遭うから、全ての元凶だろうお前にぶつけた方がスッキリするかなって。なんか、お前見てたら徐々に怒りが込み上げて来て、つい」

「よくわかったな。俺なら三回は殺す」

「要するに八つ当たりってことォ!?ひどくない!?」

「へ?八つ当たりの何が悪いんだ?」

「その悪気のないというような顔やめてくれる!?」


スピーリトは涙目になりながら兎狼に怒る。が、兎狼は何のこと分からないというかのように純粋な顔をして小首を傾げる。

そんな二人を見ていたアジサイはため息をついて、スピーリトに話しかける。


「おい変態、眷属だけ解除する方法ってあるのか?」

「?ないわよ。眷属蘇生は契約も行われているのは分かるでしょ?。つまり魂の一部が繋がってるのよ。わかりやすく言うなら眷属の魂、つまり兎狼くんの魂を、アジサイの魂が鎖みたいに繋いでるって感じかしら。だから一回契約を外して再度別の蘇生法を行わないといけないの。でも、一度蘇生を行った魂は再度この世から消えようとするからそれをもう一度ってなると魂の負担が大きいからオススメはしないわよ。失敗の確率がグンと上がっちゃうから」

「つまり、俺は一生こいつと一緒にいるってこと?嫌すぎるんだけど」

「殺すぞ」


スピーリトの説明を聞いて兎狼はアジサイを指差して苦笑いを浮かべ、露骨な拒否反応をする。アジサイは真顔で兎狼を見ながら兎狼の首元に外套で作り上げた針を向ける。スピーリトはそんな二人を見て何か納得したような顔をする。


「ふん・・・。あんた達、なんだかんだで仲いいのねェ」

「は?」


スピーリトの一言にアジサイと兎狼は口を揃えて反応をする。スピーリトは嬉しそうにし自身の手を顔の横でパンッと叩き、笑顔になる。


「ほォら!息ピッタリじゃない!安心したわ、この二人なら良いコンビになるわね」

「ふざけんな。誰がこんな能無しと良いコンビになるんだ」

「どこが良いコンビなんだよ!喧嘩しかしてないんだけど!」

「さっきの反応も息ピッタリだったし、大丈夫よ!心配ないわね!」

「何がだよ!心配しかないわ!」

「うふふ、アジサイがここまであの人以外と仲良く喋ってるから仲違いするってことは無さそうね」

「あの人?」

「?あら、アジサイまだ彼に言って」

「スピーリト」


スピーリトの言葉を、アジサイは一掃し、スピーリトに殺意を向ける。スピーリトは何かを察して黙る。何も分からない兎狼でも分かるほどアジサイは怒っている。そして、これ以上踏み込んではいけないと兎狼は察する。


「・・・・・わかったわ。でも、一緒にいる以上、いつかは話した方がいいと思うわよ。あなたの過去は」

「必要ない。言うだけ無駄だ。バカのこいつがまともに話を理解できるとは思えないからな」

「さっきまでの真面目な空気はどこいったんだよ。・・・まぁ、俺も無理に聞く気はないし」

「お前にしては懸命だな」

「じゃ、いい雰囲気になったところで、私は帰るわねェ!また会いましょう」


スピーリトはいつの間にか空間に穴を作っていて、そこに入ろうとしていた。が、そんなスピーリトの肩をアジサイと兎狼は力いっぱい掴む。スピーリトは嫌な予感がし、ぎこちなく振り返る。そこには黒い笑顔を浮かべた兎狼と真顔だが表情に影ができているアジサイがいた。


「人の外套から出てきて、人のこと散々引っ掻き回したんだ、警騎隊に突き出さないと気がすまなくなった」

「今回だけはアジサイに賛成、俺こいつに怒りしかないわぁ」

「え・・・ちょっと・・・二人共・・・???」


アジサイと兎狼は顔を見合わせ頷き、口をそろえて


「覚悟しろよ」


と言った。

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