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魔女と狼  作者: 黒い龍酸
7/10

真実と旅立ち

村に戻ったアジサイ達は、村長の家へと真っ直ぐに向かい、村長に書物庫の書物を読む許可をもらう。

道中村人達が宙吊りにされている兎狼を驚愕と異様の目で見ていた。兎狼はその視線に耐えられず、ただただ顔を隠して宙吊りにされていた。


バンッ


書物庫に着いたアジサイは書物庫のドアを勢いよく開ける。宙吊りにしていた兎狼をその場に落とし、中にズンズンと入っていく。兎狼は急に落とされた為受身を取れず、頭から勢いよく落ちる。頭に激痛が走り、頭を抑えてその場でゴロゴロと左右に転がる。その後勢いよく起き上がり、涙目になりながら、何かを探しているアジサイに文句を言う。


「いってえええええええええええええ!!!!!てめえ落とすなら優しく落とせよ!!!!」

「性別を間違えたバツだと思っとけ」

「お前まだ根に持ってんのかよ!さっき俺を殺したんだからそれでチャラにしてくれよ!」

「3回間違えたんだ、あと1回は痛い目見ろ」

「死ぬ以上に痛い目見れるかぁ!!!」

「あった。おい、ちょっと来い」

「はぁ?」


アジサイは一冊の本を取り出し、兎狼を呼ぶ。兎狼は渋々アジサイの方に歩いてく。アジサイが手に持っていた本には「ラウの歴史」と書かれてあった。


「ラウの、歴史・・・?」

「これは読めるのか」

「字ばっかりだと読む気が起きないんだよ。爺ちゃんに教えてもらったから普通に読めるわ」

「さっきまで読めないとか言ってたくせに」


アジサイは本を開き、パラパラとページを捲る。


「あった。ここを見ろ」

「え?・・・・・・・・は?」


兎狼はアジサイが指をさしたところを読む。そこには「赤髪は鮮血の色、戦場を駆け抜ける勇敢なる者の象徴。ラウ一族の中でも優秀で、秀でた才を

持つ証。赤髪を持つ者は一族の誇り、守る者なり」と書かれていた。兎狼は書かれている意味が全て変わらずとも、所々にある単語に驚愕と困惑を覚えた。

物心着いた頃から「最弱」、「出来損ない」と呼ばれていたのに、そこには「優秀」、「誇り」と、全く逆の事が書かれていた。


「これ、どういうことだよ・・・」

「俺は昔、この村以外の全土で、ラウ一族で生まれる赤髪はラウ一族の中でも最強だと言われていると聞いた。今は違う噂もあるし、最近は赤髪は現れず、褐色のラウ一族しか居ないと一族の連中から言われたってな」

「は?」

「だが、俺が村に来てみれば赤髪のお前がいる。噂通り、最弱と言われてな」

「・・・この文字が正しいなら、なんで、村の皆は、俺を最弱なんて・・・」

「考えられるのは二つだが・・・。直接聞いてみるか」

「え、誰に?」

「お前の爺ちゃんだよ」

「は?なんで爺ちゃん!?」

「お前の身内なんじゃないのか?」

「ちげぇよ!爺ちゃんは俺の育ての親!両親は俺を捨てて出てったから、代わりに育ててもらってんだよ」

「・・・なるほどな」


何かに納得をしたアジサイは書物庫を出て、兎狼と老人の家に向かう。兎狼は動揺しつつも、アジサイの後を追う。兎狼達の家まで着たアジサイ達はコンコンコンとノックをする。ドアを開けて出てきた老人は神妙な面持ちだった。まるでアジサイ達は来ることが分かっていたかのように。


「聞きたいことがある」

「どうぞ、中へお入りください。兎狼、お前もじゃ」

「あ、うん・・・」


中に入ると、老人は台所でお茶を淹れ始める。玄関先に立っていたアジサイ達に「どうぞ」と一言言って、椅子に座ることを促す。アジサイと兎狼は椅子に座り、老人が来るのを待つ。老人はお茶の入ったティーカップをアジサイと兎狼の前に置き、自分の所にも置いて椅子に腰掛ける。


「村長から聞いましたよ。貴方方が書物庫に行ったと。兎狼、読んだんじゃろ。アレを」

「え?あぁ・・・。でも、こいつに見せられたところだけ・・・」


老人は兎狼に「ラウの歴史」を読んだのか聞いた。兎狼は動揺しながらも答えた。兎狼の言葉を聞いた老人は「そうか」と小さく微笑む。


「なぁ爺ちゃん。あれ、どういうことなんだよ」


兎狼は嘘であってほしいという思いで、老人を見る。すると老人は少し申し訳そうな顔をして、目線を机の上のティーカップにおく。


「今まで騙してて悪かったのう。あそこに書いてある事は、事実じゃ。お前さん、赤髪はワシら一族の中でも、特に優秀で、強い」

「・・・なぜ、こいつを騙してたんだ」

「・・・・・・きっかけは、兎狼の両親が人攫いにあったことが原因じゃった」

「え・・・?」


老人はまっすぐ兎狼を見る。


「お前さんが生まれてすぐぐらいじゃった。森に人攫いが出たんじゃ。当時あの2人はワシと、お前さんを連れて木の実の採取に出てたんじゃ。狩りはまだ貯蓄があるから大丈夫だと思って、ナイフは置いていった。その結果、2人は攫われた」

「なんで、俺や、爺ちゃんは、無事だったの?」

「お前の母さんがワシにお前を託してワシらを逃がした。まだここまで老いぼれとらんかったから、すぐに逃げ、村長に事情を話したんじゃ。お前さんを村に置いて村長と戻ると、そこには争った痕跡と、所々に血があるだけじゃった。その後、街に行った別の者が聞いた噂じゃが、闇オークションで売られかけていたお前さんの両親は自ら命を絶ったらしい。あの2人はよく王都にも護衛として呼ばれるレベルで優秀じゃったから、噂であっても広まるのは早かった。その話を聞いたその日の夜。村の皆で話し合いをし、歴史書があっても、村の中で弱いということにし、出来るだけ血の気の多い所に連れて行かず、村のみんなで兎狼を外に知られぬようにし、本人には最弱であると植え付けようとしたんじゃ」

「じゃあ・・・村のみんなが俺を弱い、最弱って言ってたのは、父さんたちみたいに、攫われないようにするため?」

「もしかして、何年か前から言われ始めていたラウ一族にいる赤髪は最弱だったっていう噂は、あんたたちが流してたのか?」

「そのとおりじゃ」


兎狼は村の全員から最弱と言われ続けた原因が両親の身に起きた事件だったと聞かされ、先程読んだ本の内容も含め頭がごちゃごちゃになり、放心状態になった。アジサイはそんな兎狼をチラッと見、再び老人に視線を向ける。


「こいつの両親がきっかけだとしても、普通に鍛えればいい話じゃないか。なんで逆の発想になったんだ」

「・・・この村で、争いを知らぬ、平和な子に育って欲しかった。それだけじゃ」

「・・・・・それはこいつの両親が望んでたのか」

「・・・魔女様には、なんでもお見通しかのう」

「赤髪は必ず戦いに身を投じる。それは産まれた時から決まっていた。王都で護衛として呼ばれていたなら、沢山の死をこいつの親は見てきたはずだ。

自分の子にまで、そんな世界を見せたくなかった。そう言ってたんだろう。で、人攫いに会った時、あんたに、息子はどうか平和な世界で生かしてくれって言った。違うか?」

「全くそのとおりです」


アジサイは「やっぱりか」と言いながら椅子の背もたれに寄りかかり、ため息をつく。老人は放心状態の兎狼に視線を移す。


「兎狼、お前さんはこれからどうしたい?」

「・・・え?」

「お前さんの両親と同じ強さを持ちたいか、真実を知ってもなお、同じ生活を送るか。好きな方を選びなさい。大丈夫じゃ、村長から許しはもらっている」

「俺は・・・」


兎狼はチラっとアジサイを見、自分の心臓に手を当てる。自分の中には半分ではあるが魔狼がいて、生かされている状態だ。しかも、油断し、アジサイに一度殺されていると言えば、両親と同じ、一族の最強と名乗るのは難しいだろうと。ラウ一族は魔狼を嫌う。本心では嫌っていないとは言え、魔狼がいると知られれば、皆より余所余所しくなるのではと。

兎狼は意を決した顔になり、老人を見る。


「爺ちゃん、俺、こいつと旅に出るよ。村の外を知って、両親以上に強くなりたい。それで、村のみんなを守りたい!」


老人は一瞬驚いたが、兎狼の意思を受け取り、微笑む。


「そうかい。・・・魔女様、兎狼を、よろしく頼みます」

「・・・あぁ」

「よろしくな、アジサイ」

「お前とそこまでよろしくする気はない」


兎狼はアジサイに手を差し出すが、アジサイは何処か違う方向に顔をそらす。兎狼は苦笑いして手を下ろす。そんな二人の様子を見て、この二人なら大丈夫だろうと老人は思う。


「そうじゃ、旅に出るならこれを持って行きなさい」


老人は椅子から立ち上がり、壁に掛かっていた弓を持って兎狼に差し出す。


「これは、お前さんの親父さんが使っていた弓じゃ。お前さんは昔から弓は得意じゃろ。形見として持って行きなさい」

「俺の父さんが使ってた弓・・・。ありがとう、爺ちゃん」

「さっさと行くぞ」

「あ、おう」


既に外に出ようとしていたアジサイに声をかけられ、兎狼は慌てて準備をし、外に出る。


「あ、爺ちゃん!今までありがとう!村のみんなや、村長によろしく言っといて!」

「あぁ。いってらっしゃい」

「行ってきます!」


兎狼は老人に手を振って、先を歩くアジサイを追う。


「ありがとなアジサイ」

「なんのことだ」

「俺に自信を持たせてくれたこと!」

「俺は真実を確かめたかっただけだ。それに、赤髪だろうが、お前はお前だ。赤髪であれ、馬鹿なことには変わりないだろ」


兎狼はアジサイの一言で胸が熱くなり、その場で立ち止まって、一滴の涙を流した。


「お前、何泣いてんだよ」

「だって、今まで、言われたことなかったから、急に」

「気持ち悪。早く行くぞ。バカ兎狼」

「な!バカって言うんじゃねえ!!!」

「事実馬鹿だろ、お前俺が指さした文、ちゃんと理解してなかっただろ」

「それはそうだけど!!」


兎狼は怪訝の目をしているアジサイに反論しながらも、アジサイと一緒に森の出口へ歩いて行った。

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