ラウの住む村
「待て!お前今自分がどう状況か分かってるのか!?」
「頼んでもないけど魔獣と魂合成して生き返らせてくれたのはそこそこ感謝はしてるけど、俺はあの村に残る!!」
「訳が分からんやっぱりお前バカだろ!最悪死ぬかも知れないんだぞ!それに、あんな小さな村に何があるって言うんだ!」
早足で村に戻ろうとする兎狼とは反対に、早足だが説得やら文句を言いながら一緒に行くことを促すアジサイだった。
が、アジサイの一言に兎狼はピタリと足を止める。それにつられてアジサイも足を止める。
ゆっくりとアジサイの方へ振り返る兎狼の表情は、先程と打って変わって真剣だった。
「お前、あの村がなんなのか知らずに来たの?」
「?あぁ、俺は青の実があるいう情報しか見てこなかったからな。目的以外は興味がない」
「ふーん、お前こそ馬鹿なんじゃないのか?まぁいいや、教えてやるよ。あそこはな、“ラウ”の住む村なんだよ」
「ラウ?ラウって人類最強と言われている狩猟民族か?一国の千ほどの兵力に匹敵するっていう」
「そ。で、俺は、その民族唯一の赤髪なんだよ」
「・・・は?」
「だから、赤髪。お前なんも知らないの?」
「赤髪がなんだってんだよ」
「お前ホント何も知らないんだな。赤髪は、生まれた時から最弱なんだよ。そう言い伝えられてるんだよ。だから俺は、いつか村1番の最強になって、村の奴らを見返したいんだよ。だから悪いけど、俺は村に残る」
「ふーん」
兎狼の言葉に、アジサイは興味無さげに適当な反応をする。その反応が気に食わなかったのか兎狼はアジサイに近づき、胸元を掴む。
「お前、自分から聞いておいてなんだよその反応。お前もアイツらと一緒で、赤髪だからなれる訳ないって思ってんのか?」
「いや、お前の野望とか目標に心底興味が無いだけだ。お前が村の奴らをどうしようが、最強になろうがな。だが妙だな。昔俺が聞いた話と違うような・・・」
アジサイは、ふと何かを思いつき、自身の胸元を掴む兎狼の手首を掴む。
「お前、村や森から出たことはあるか?」
「は?出るわけないじゃん。あの村は基本的に外に出なくてもなんとかなるし」
兎狼の言うとおり、ラウの住む村の周辺の森は木の実や食料となる動物がそこそこ生息している。そうでなくても、ラウは昔、食料が無くなっても生き延びられるようにと魔獣を食す習慣もあった。食べれないであろう魔獣の革や動物の革は衣類として使っている。その習慣が尚も残る村の者からすれば、衣食住には困らない為、村からも森からも出る必要がないのだ。
「やっぱりか。行くぞ」
「は?え、お、おい!」
アジサイはそのまま兎狼の手首を強引に胸元から離し、そのまま掴んだ状態で村の方に歩こうとする。
「引きこもりのアホに真実を教えてやるよ。確か村に書物庫があったよな。お前と一緒にいた爺さんから聞いたが」
「は?真実?どういうことだよ。てか、なんで書物庫なんだよ。そこに何があるんだよ」
「いいから教えろ。また刺すぞ」
「・・・村の奥の、石造りの建物・・・」
「あそこか・・・。お前、バカだから文字なんて読めねえから行ったことないんだろ」
「その通りだよ!てかバカは余計だ!」
「人のこと性別間違えてそのまま死んだ奴が何言ってんだ。バカ以外の何者でもないだろ」
「分かるわけないだろ!お前見た目中性的すぎんだよ!」
「もう一回死にたいらしいな」
「すみませんでした!!」
口論をしながらも、兎狼はアジサイに引っ張られながら村へと帰っていった。
が、途中で腕が疲れたと言って、アジサイが外套を使って兎狼の片足を掴んで宙吊りにして村へ戻ったのだった。




