赤髪が死んだ日
兎狼と魔女は森の中を無言で歩く。兎狼はチラチラと後ろにいる魔女を確認しつつ、何処か気まずさを感じていた。
その気まずい空間に耐えられなかったのか、兎狼は少しぎこちなく魔女に話しかける。
「な、なぁ、魔女さん、あんたはなんで青の実が欲しいんだ?あんなの食べれないのに」
「・・・青の実は食べるために使うわけじゃない」
「じゃあ、何のために?」
「・・・あの実の果実の部分は毒に改良し、種の部分は威力増した爆弾にして、どっかの国滅ぼそうかと思ってた」
「何それ物騒、え、教えたくないんだけど。え、俺帰っていい?」
「冗談だ」
魔女は真顔で言う。兎狼は少しあたふたしていた。
魔女は「ふっ」と笑って兎狼の横を通り過ぎる。兎狼は「冗談に聞こえなんだけど・・・」と苦笑いをして魔女を見た。
「そういえば、魔女さんは名前なんて言うの?」
「何故そんなことを聞く?」
「いや、特に意味はないけど」
「・・・名前は其の物の魂を表すとされている。それを教えるという事は、そのものと魂を繋ぐ行為と同じ」
「は?」
「・・・昔師匠から教わった言葉だ」
「へー・・・。で、名前は?」
「お前の耳はいったいどうなってるんだよ、察しろよ。今の一言から察しろよ。教えたくないってこと」
「いやー、俺難しいの分かんねぇし、名前で呼ぶ方が俺楽だし」
魔女は兎狼の事を、少しだが軽蔑した目で見る。兎狼はその視線に気づかず、名前を教えるように催促し続ける。魔女は溜息をついて小さく言葉を発した。
「・・・アジサイ」
「え」
「二度は言わない」
「・・・あぁ!へー、アジサイ〝ちゃん"かー」
「・・・ん?」
魔女、アジサイは兎狼の一言にどこか疑問を持つ。だが、聞き間違いと思い、歩き始めた。
兎狼は案内していたことを思い出し、アジサイの横に行こうと小走りをする。
「にして、アジサイちゃんって可愛い名前だよな。声はちょっと低めだけど」
「・・・お前、今なんて言った」
「お前じゃなくて、俺は兎狼だよ!う・ろ・う」
「・・・兎狼、お前俺の名前に何をつけて呼んだ」
「あれ?もしかして〝アジサイちゃん"って、俺っ子なの?」
兎狼の軽い雰囲気と反して、アジサイは黒い霧を発しつつ、顔を俯かせる。その表情は見えない。だが、どこか殺気を帯びている、しかしそれに気づかないのが兎狼の特徴なのだろうか、アジサイの顔を覗き込もうとアジサイに近づく。
「あれ?どうしたの?」
「我を守りし黒き衣よ、その力を彼のものに罰を与えるために我に力を貸せ」
アジサイを纏っていた黒い外套が風も吹いていないのに暴れだす。
さすがの兎狼も、どこか嫌な気配を察し、アジサイに近づこうとした足を止める。
そして
「マンテルニードアロー!!!」
アジサイが纏っていた外套が大きな針状になり、兎狼の腹部を貫く。そして兎狼は宙を舞い、地面に落ち、そのまま息を引き取った。
「あ、やっちまった」




