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魔女と狼  作者: 黒い龍酸
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狂気と遊戯の魔女

“絶体絶命”

とはまさにこの事だろう。そう兎狼は思った。

路地裏の行き止まりに追い込まれ、冷や汗をかく。目の前に居るイかれた青年を精一杯睨む兎狼。青年はつまらなさそうに棒つきの飴を咥えている。

「おいおい。ラウの一族で、しかも最強の赤毛だッて思ッてここまで誘い込んだのによォ。なんだよその体たらく」

「そ・・・そんなこと言われたって、俺は村では最弱って言われてたし、なにより、戦闘方法なんて学んでないんだよ!!!」

兎狼は精一杯の反抗的な態度を示す。青年は呆れたような表情をする。

「はァ?そんなの言い訳だろォ?お前は自分が最弱だからッて理由で学ぼうとしなかッたんだろォ?」

「違う!!!俺は学ぼうとした!でも村の皆は!!」

「あーあーうるせェ。弱い奴の言い訳とかだるいわ・・・。興醒め」

青年は兎狼に手のひらを向ける。すると、青年の手のひらに霜が集まりそれは氷の塊になってゆく。兎狼はもうダメだと諦め目を瞑る。

「じャあな。最強になれなかッた弱虫ウサギちャん」

ドカン

兎狼の横で何かが壊れる音がした。兎狼はゆっくりと目を開き横を確認する。すると、恐らく兎狼に放たれたであろう魔法で作られた氷の塊が壁にめり込んでいた。兎狼はハッとして青年の方を見る。そこで見たものは、空間にブラックホールのような穴を開けて来たであろう、青年の顔面に膝蹴りをしているアジサイと膝蹴りの衝動で後方に倒れている青年だった。兎狼は助かったと思い安心感と緊張が解けたことによりその場にへたり込む。

「ア、アジサイ・・・あ、ありが、ゴッ」

涙目になりながらアジサイに感謝を述べようとした兎狼だったが、そんな兎狼の顔にアジサイは容赦のない回し蹴りをした。

「いってー!!!!なにすんだよアジサイ!!」

「無事でよかったな」

「お前のせいで無事じゃねぇけどな!!!」

「俺が何かしたか?」

「お前数秒前の出来事を都合よく忘れんじゃねぇよ!!!バカなのか!!?」

「お前がそれを言うか。人の言いつけ破ってあいつにノコノコついて行ったくせに」

「それに関してはまことに申し訳ありませんでした!!!助けていただきありがとうございます、アジサイ様!!!」

兎狼はアジサイに奇麗な土下座をする。アジサイは呆れたように溜息をついて、青年の方に歩み寄る。

「久しぶりだな、シュピール」

「チッ、邪魔すんなよォアジサイ。あとちョッとでラウ一族の奴を殺せたのによォ」

「あんな弱い奴殺してもお前にとっては楽しくないだろう」

「まァな。あのウサギちャんがもうちョッと強くなッてから殺すのもありだなァ」

シュピールと言われた青年はポケットから棒つきの飴を取り出して口に咥えて兎狼を見てニヤリと笑う。兎狼はその視線にゾワリと背筋を震わせた。そんな二人を見てアジサイは再び溜息をつく。

「ところでシュピール。こんな所で何をやっているんだ」

「ん?あー、いやースピーリトからアジサイがラウの赤髪連れてるッて聞いて、ラウの最強なら楽しめると思ッてお前ら探しててたまたまここに?」

「そのついでに街の人間を殺していたなんて言わないよな」

「え?ダメか?」

「当たり前だ」

「あー・・・えっと、知り合い?」

兎狼は落ち着きを取り戻し今の状況に疑問が浮かび、恐る恐る二人に問いかけた。

「・・・・・こいつはシュピール。狂気と遊戯の魔女で、一部の国からはお尋ね者だ」

「お尋ね者になッた記憶がねェなァ」

「国一個滅ぼしかけた奴が何を言っているんだ」

「狂気と、遊戯の、魔女・・・。魔女ってことは、アジサイと一緒の」

「こんなイカれた奴と一緒にするな」

アジサイはシュピールと同種だと思われたのが気に食わなかったのか外套の一部を刃物ような形に変形させて兎狼の首元に当てた。兎狼は顔を真っ青にして降参というように両手を挙げた。

「で、でも二人とも魔女だってことはかわ、あ、すみません。外套を喉にジリジリ刺すの止めてください。俺が悪かったです」

アジサイは兎狼の謝罪を聞いて満足したのか外套の形を元に戻した。兎狼は思ったことでも余計なことは言わないようにしようと心に決めた。シュピールはそれをつまらなさそうに飴を咥えて見ていた。そんなシュピールをアジサイは指を指す。

「こいつは確かに俺と一緒の魔女だ。だが、こいつは人を殺すことを趣味にしていて、魔女というより罪人の方が近い」

「いいだろ別にィ、魔女なんてみんな罪人みたいなもんだろ?」

「シュピール・・・!!!」

「え?じゃあ、アジサイも何か罪を、ッ!!」

「シュピール、それ以上言えばお前を殺す。兎狼もそれ以上、余計な事を聞こうとするな」

アジサイは外套を使いシュピールと兎狼の首を絞めようとする。先程までと違い、アジサイからは明確な殺意を感じ、兎狼は冷や汗をかく。だが、反対にシュピールは楽しそうにアジサイを見る。

「なんだよォ、お前はやッぱりお人よしだな」

「そうじゃない」

「悪い、アジサイ・・・。もう聞かないから・・・」

「・・・・・・・言う必要がないだけだ。言ったところでこいつに何もできない」

アジサイは冷たく言い放つ。兎狼は言い返したかったが事実である為反論することをやめた。

「ッま、俺はもう用事が済んだからこの街から離れるわ」

「用事って・・・こいつを殺そうとしたことだろ」

「ごめーとー。あッ、そうそうウサギちャん」

兎狼はシュピールに話しかけられビクッとして背筋を伸ばす。シュピールはそんな兎狼を見据える。

「自分の境遇に言い訳をして、赤髪の運命から逃げんじャねーぞ」

「は?」

「じャーなー」

シュピールは手を振りながら壁に急に現れたブラックホールのような空間に入っていき、その空間はシュピールの姿が見えなくなると同時に消えた。

「赤髪の、運命?」

「・・・今のお前が気にする必要はないだろ。行くぞ」

「あ・・・おう」

兎狼はシュピールに言われた言葉に引っ掛かりを覚えつつ、アジサイと共に路地裏をあとにした。

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