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華絵  作者: 千尋
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(母と昔)

私の古い記憶それは5歳まで遡る。綺麗な床、高い天井大きな窓に暖かみのある色彩。すぐにそれは私達を不安にさせない為の作りだと思った。ここは様々な事情で親元を離れた18歳未満の子供達が預けられている[チューリップ園]という名の児童養護施設だ。花屋みたいな施設の名前と窓から見えるチューリップの庭の景色は今でも鮮明に思い出せる。


父の借金とギャンブル依存により家庭は金銭的に崩落それに加え度重なるDVと性的虐待により母の精神は普通ではいられなくなった。それを見かねた父は借金取りと母から逃げるように消息が解らなくなった。母はあんな男でも唯一のより所だったのだろう自宅で私と練炭自殺を試みるも私達が住んでいたアパートの隣人に臭いで感ずかれ警察に通報、警察が入る音に気づいた母は手元にあった包丁で腹部と胸部を刺した。すぐさま病院に運ばれるも着いてまもなく亡くなった。私は睡眠薬の過剰摂取と一酸化炭素中毒で入院することになるが症状は重くなく5日程で退院した。その後施設に預けられる事になる。


施設で二年目を迎えた私は小学生になっていた。預けられた当初は元気がなかったみたいだがこの頃には活気よく振る舞っていた。不自由なく育っていたそんな頃施設の人が私に里親希望の夫婦を連れてきた。中年の男性と20代後半の女性だった。

「嬢ちゃん名前は?」

「美奈子っていいます‥」

見知らぬ大人に私は怯えていた。

「美奈子ちゃんかこれから宜しくね」

中年の男は大きな手を差し出して歯茎を剥き出しに笑った。この時の私はあまりにも無力で不安の中ただただ運命に従った。


新しい家族との生活、親に大きなコンプレックスを抱えていた私は現実になかなか溶け込めなかった。気付けば紙と与えられたクレヨンで施設の窓から見えていたチューリップを無心に書き続けた。最初こそ優しかった新しい両親だが私の不安が目の前で起こり始めた。まだ若かった母が不倫をしたのだ。相手は大学生、繁華街が歩いていたところ声を掛けられそのままホテルへ若い男に言い寄られるがまま身体を許してしまったのだ。稚拙な行動、父は激怒した。感情がそのまま行動に現れるように母を何度も殴った。

後から聞いた話父は過去にも数回感情が抑えきれなくなり母に暴力を振るうことがあったのだ。巧妙に見える所を避けて痣を作った。幼いながら私は思った。父には理性がある。父は怒ったから殴ったのではなく殴りたいから怒ったのだと、その怒りが次は私に向くのではそんな不安がずっと離れなかった。その出来事から数年私に怒りが向くことはなかったが母への怒りは何度か繰り返された。父が私に怒りを向けたのは中学二年の頃だ。部活動から家に帰ると早上がりで帰ってきた父が母に怒りをぶつけていた。すっかり見慣れた光景に私は無関心を貫いていた。自分の部屋に行こうとしていたとき突然の怒りが私に向けられた。


「美奈子こっち来い!」

普段は温厚な父は怒りを纏うと気持ちと口調が強くなる。

「なに?お父さん」

冷たい感じで囁くように言葉を発した

「お前は何だ?いつもいつも自分は関係のないような目をして」

「何を言ってるの?その通り私は関係ないじゃない」

「これは家族の問題だぞ!分かってるのか!?」

家族を盾にした父は私の肩を強く叩いた。倒れた私は平生を装った。

「なんだその目は!?」

完全に怒りに飲み込まれた父は何度も私に蹴りをいれた。

向こう臑辺りに温かな温度を感じた。すぐにそれは流血したものだと解った。真っ白なソックスが赤く滲んできた。

私はこの時を待っていた。逃げるように家を飛び出して施設に向かった。チューリップの咲いたあの家に

自転車でおよそ15kmまだ子供の私にはあまりにも遠く感じられた。ただがむしゃらに足の痛みを引きずりながら私は進んだ。

時計は12時に差し掛かろうとしていた。施設に着いた私はチャイムをひたすら鳴らした。出てきたのは施設長だった。

「美奈子ちゃん?」

「高田さん(施設長)助けて!父親から虐待を受けてるの!」


私の必死の訴えで事態は大きく動いた。

警察も動き虐待の全貌が明らかにされた。今まで耐えていた母も被害を訴え父は警察に連行された。



それから一年後、施設に戻った。またチューリップが素敵な庭に帰ってきたのだ。安堵を漠然とした生活の中、思春期特有のセンチメンタルな気持ちの中過去を知りたくなった私は入院している母方の祖母を訪ねた。祖母とは七年振りだった。一度だけ施設にいた私の様子を伺いに来たのを最後、手紙で月に一度やり取りしているだけだった。二年前に家で転倒して足を折って以降認知症などの疾患を患ってからは手紙などのやり取りもしてはいないが入院する前に病院の場所を聞いていたのでそれを頼りに学校帰りに会いに行った。


私が住んでいるところからほど遠くない場所にその病院はあった。祖母は景色の見えにくい西側の個室にいた。


「おばあちゃん、私美奈子よ」

祖母は私の顔を見て頬を少し動かした。笑おうとしたのだろうか

「うぃ‥あ‥ぉ」

言語障害何か伝えようとしたのだろうか私には分からなかった。病状が思った以上に酷くてとても話が出来る状態ではなかった。手紙のやり取りの続き、積もった話が沢山あったのに私は酷く落胆した。祖母は死んだ。忘れよう。丁度この頃から私は思い出したくない事は忘れて自分の中からその人、事柄を殺し続けた。私に残ったのは施設とあのチューリップの庭だけだった。


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