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狂狂狂倫  作者: ぷるとないと
7/10

思い込み

 朝、薄暗い光の中目が覚める。


 まだ少し重たいまぶたのせいでぼんやりとした視界に、窓の外を眺めている父さんが映った。


「……おはよう」


 不思議と自然に出てきた声に父さんが振り返る。


(あ、あぁおはよう)


 父さんは驚いたような表情を浮かべて声を返してきた。


 そういや俺から声をかけたのは初めてだったかもしれない。


(今日は朝から雨みたいだよ)


 部屋が薄暗い理由を告げられる。


 昨日の天気予報でも言ってたし、知ってたけど。


「あっそう、強く降ってないなら大して気にならない」


 布団から起き上がり、学校へ向かう為の準備を始める。


 するとそんな中、妙に浮ついた感のある父さんと目が合った。


「何? どうかしたの?」


(あ、いや、す少しは恋くんも、今の状況を受け入れてくれたのかな、と)


 わかりやすくたどたどしい、娘の彼氏の存在をそれとなく探っているつもりの父親の演技みたいになってる父さんが、嫌にむかついた。


「悪霊払いって金とかけっこうかかりそうだし、なによりメンドクサイと思わない?」


(……)


「……」


 特に何の反応も起こさないある意味正しいリアクションをとった父さんを放って、薄暗い部屋の中黙々と準備を進めていく。


 すると、少し遅れて背後の方から声が発せられる。


(と、父さん、悪霊じゃ、ナイカラアアァァァ……)


 どんよりとした厚い雲に覆われてるからか、天国の父さんからのツッコミに時差が生じたんだろうか。


(悪霊じゃ、ナイカラぁぁぁ)


「あぁ、はい、そうですね」






 大きめサイズのビニール傘を雨が軽く打ち付けてくる中、学校へ向かい父さんと並んで歩いている。


「何故、雨に濡れない様に傘に入ってきてるわけ?」


(雨の中を傘も差さずに歩くのに、なんだか抵抗感が強くてね)


 霊体のくせになにが抵抗感なんだか……と思う。


「父さんは幽霊のくせにスーツ着てるぐらいだから、きっと念じれば傘の一つや二つ出てくると思う」


(恋くんは父さんに遠巻きに全裸になれと言ってるのかい?)


「……全裸になれよ、父さん」


 俺の事を遠巻きにそんな風に思ってたらしい父さんに、最短距離で悪意を言い放ってやった。


(今日は雨だから止めておこう……)


 晴れだったらいい理由が気になったけど、そっと呑み込んでおく。


 そのかわりに、頭に浮かんだ一つの真理を口にした。


「今の会話で幽霊に足が無いと思ってた理由がわかった気がする」


 父さんも何かに気づいたように首を少し上向かせた。


(あぁ、なるほど)


 そんなどうでもいい事に頭を使いながら、不自然に傘の片側を空けて学校へと歩いていった。






 昼休みになっても雨は止む気配を見せなかった。


 今日はずっと雨か……


 昼食をとろうとカバンから弁当を取り出すところで、周囲の視線に気づいた。


 この間の一件を知っているクラスメイトから好奇の込められた目で見られていた。


 そんなに俺の事を気にしてどうすんだか。


 持ってきた弁当を机に置き包んでいる布を取った。


 すると、みんながっかりそうに目を逸らしていく。


(どうやら恋くんは弁当作り過ぎキャラとして期待されてたみたい)


「期待に応えられなくて悪いけど、今日は一人分だ」


 たかが一度妙な事をしたっていうだけで、なんでこんなに俺に対する周囲の反応が変わるのか……


「変わった事をしたっていうだけで、なんでこんなに意識を向けてくるんだろう」


(それだけみんな恋くんの事を気にしてるってことだよ。悪い意味だけではなく良い意味においてもね)


 さっきまでの光景が嘘だったかの様に、教室内はいつも目にしている光景に変わっていた。


(実際のところ恋くんの事をまるで気にもかけてない子も多くいたみたいだからね)


「まぁ、直接の被害者とかね……」


 言って、教室前方入り口付近で今日も安定の突っ伏しっぷりを見せている面隠し野郎に目をやった。


「いくらなんでもクラスメイト全員が俺の事をどうでもよかったり、気持ち悪がってたりとは思わないよ」


 一定数は優しい人や寛容な人が居る事は、俺でも知ってる事だ。






 雨が降ってる事とは無関係にやる気の出ない授業が終わった。


 担任の合図と共にクラスメイト達が一斉に騒ぎ出す。


 そんな中いつもの様に一番に教室を後にしようと動き出した所で、面隠し野郎が珍しく走って出ていったのが目に入った。


 急ぎの用でもあったのだと思い、俺も教室を出る。


 まだ人で混みあっていない生徒用玄関に着き靴を履き替え、傘立てに刺した自分の傘を取ろうとした。


「あれ……?」


 だけどそこには、自分の傘と思われる物が無かった。


 なんとなくとはいえ、頭に顔を思い出せない人物が浮かんだ。


(誰かが間違って持っていったんじゃないか?)


 父さんが冷静に別の可能性を示してきた。


「まぁ透明のビニール傘って見分けがつきづらいとは思うけど……」


 だからと言って、他のビニール傘はサイズが普通だったり小さかったりするわけで、自分の傘が無いのを確認したのは変わらない。


「……雨、そんなに強くないし、いっか」


 間違って傘を持って行った人の傘がわかるわけもないし、雨に打たれながら帰る事にした。


(ぁ……)


 父さんは何かを言おうとしてこらえていた。


 校門から出て、家までの帰り道を歩いてると後ろから見慣れたおじさんがついてくる。


 家に帰ったら制服を乾かさなきゃいけないのは、ちょっと面倒くさいな。


 そんな事を考えていると、突然雨が止んだ。


「そのまま歩いてたら風邪ひくと思うんだけど?」


 振り返るとそこには、見慣れた遠距離型ストーカーのほうがいた。




 

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