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狂狂狂倫  作者: ぷるとないと
4/10

立ち往生

「う~ん……」


 朝、目覚まし時計が騒ぎ出す前に意識が戻ってきた。


 ぼんやりしたまま、うっすらと目が開いていく。


 すると、知ってるだけの人が不審な姿勢をとっていた。


(お! おはよう恋くん。今日はいつもより早いんだね)


「……」


(ん? どうした?)


「いや……なんで添い寝してるんだろう? この気持ち悪い父親はって思って」


(父さん、そんなにキモイことしてる……?)


「父さんがこんなにも気持ち悪いんだって思っただけ」


(ハッハッハ……そうかそうか、確かに父とはいえ添い寝は気持ち悪かったかなぁ)


「いや、父さんが気持――(もういいよ! わかったよ! 父さんが気持ち悪いよ!)


 父さんはようやく意味をわかってくれたみたいだ。


 それにしても、この人どうして川の字で寝るみたいに、いの字で添い寝してるんだろう。


 そして、当然のように今日もつきまとうつもりなのか……


「ねぇ父さん」


(気持ち悪いですが、何か?)


 今日の父さんはキレのちくどいの模様。明日も居たら気を付けよう。


「父さんは、どうすれば消せ……成仏できるの?」


(恋くんに良い事を教えてあげよう。成仏とはされるものではなく、するものです)


「成仏……してくれないの?」


(恋くんって朝、低血圧だよね……)


 父さんはそう言うと、やっと起き上がってくれる。


 霊体とはいえ、ずっと顔を近くして叫んでたから嫌だった。


(まぁそうだなぁ成仏かぁ……それはやっぱり、恋くんのことが心配じゃなくなったら、するんじゃないか?)


 父さんは視線を少し上向きにして、こちらを見ずに言った。


「……バカな親」


(おいおい恋くん、そこは素直に親バカって言えばいいんじゃないか)


「……バカもわからない親」


(……ハッハッハ)


 父さんは上向きな視線を保ったまま、渇いた笑い声を漏らした。






「さて、と」


 昨日買い出しをして潤った冷蔵庫を開けて、中の食材を見る。


 今日は昼食に弁当を作っていくつもりだ。


 とはいえ、昨日作りすぎてしまった肉じゃがを持っていく事は決まっている。


 スーパーで安く売られていた大量に袋詰めされたじゃがいもをなるべく使おうと、なるべくの範囲を越えかなりじゃがが強調された、じゃが肉じゃがとでも名付けられる料理をタッパ一つ分丸々は持って行く気だった。


「げ!?」


(恋くんにしては珍しい声をあげて、どうした?)


 なんとなく玉子焼きくらいは持ってくかと思い、手に取った卵に表記された賞味期限を見て変な声を上げてしまった。


「卵が八個も、今日までだと……」


 やってしまった……卵がたくさん残ってるが故に犯してしまった致命的なミスだ。


「とりあえず四個、いや五個は弁当で使っておきたい」


(何個か朝ごはんにしたらいいんじゃないか?)


「俺、朝は食べれない人だから……」


 残念ながら、朝ごはんを食べる習慣は身についていない。


「う~ん、ゆで卵五個か玉子焼き五個分……どっちにするか」


(すごくシンプルな二択なんだね)


「朝っぱらから凝った物とか器用に作ってる人がすごいだけで、俺にはこの二択で精いっぱいなんだよ」


 そして計量カップを取り、その中に卵を六個割り入れる。


(あれ今、卵六個入れなかった?)


「玉子焼きならボリューム的に、六個ぐらいいけるはず……」


 ジュワー……


「で、出来たぁ……」


 目の前には四角い大きめのタッパに入ったじゃが肉じゃがと長方形のタッパに敷き詰められたしなしなの玉子焼きが置いてあった。


「……ま、まぁ後はご飯をよそって、って!?」


 炊飯器を開けると、母さんが昨日食べなかったのか一人分以上多くご飯が残っていた。


(冷凍すればいいんじゃないか?)


 死んでいる人が的確な生活のアドバイスをしてきた。


「……冷凍ご飯って食べるタイミングわかんないんだよ」






 特に何の印象も覚えなかった授業が一旦終わり、昼休みになった。


 教室にいるクラスメイト達が、わいわいがやがやと移動やら昼食の用意をしている。


「……」


 そんな中、持ってきた弁当と言えるか分からないモノを机の上に並べる。


 大量のじゃが肉じゃがと多量の玉子焼きを目の前に、思う。


「これ、食べきれないよな……」


(こんなに作ったんだから、誰かに分けてあげればいいじゃないか)


 おせっかい背後霊さんは相変わらず、デス……


「みんな各自昼食を持ってきてるんだからいらないだろ」


 そう言いながら教室を見回すと、一人だけ昼食を用意してない人がいた。


「面隠し……」


(面隠しって、あのずーっと突っ伏してる子?)


「面隠しは基本的にああやって突っ伏している」


 授業中でさえ、担当教科の教師によっては突っ伏し続けるという、正直かなり変な人だ。


 ……何故そこまでして学校に来るのか? と、思わなくもない。


「……」


 でもまぁ、面隠しは昼食を用意して無さそうだし、一人で突っ伏してるだけだから声をかけてみてもいいだろう。


(恋くん! 持って行く気になったんだね!)


 教室前方入り口付近の席にいる面隠しへ、大量の食べ物を持って行くのを見て父さんが少しうるさくなった。


 面隠しの前に辿り着き、机を軽く指で叩き声をかける。


「ちょっといいか」


 面隠しは突っ伏した姿勢のまま首だけをひねり、左目を上目づかいぎみにして見てきた。


「……」


「今朝弁当を作りすぎてしまって、昼食を持ってきていないなら少し食べてくれないか?」


 とりあえず単刀直入に話を切り出してみた。


「はぁぁぁあああ!?」


 面隠しは嫌悪感全開丸出しで俺を睨み声を荒げる。


 あぁ……いるいる、こういういきなり強めの口調でくる奴。


「おめぇ頭オカシイんだろ?」


 ローテンションに対してハイテンションで吹っ掛けてくる奴って本当合わない。


「気色悪ぃからさっさと消えろボケェ!」


 面隠し野郎はそう言い放って、また机に突っ伏した。


 そして、その声に反応したクラスメイトの視線が一斉に俺の方へと向いた。


(……)


 だけど、そんな視線を俺の守護霊と化した父さんが遮ろうと立ちはだかる。


 まぁ、おもいっきり貫通しちゃってるけどさ。


 ……。


 それはそうと、俺は何やってんだか……






 クラスメイトに好奇の目で見られながら自分の席へと戻ろうとしている途中、薄茶ロングが腹を抱えて笑いまくってるのが見えた。


「ッッ。零零零れれれお前面白すぎだっつうのッハッハッハ!」


「俺はただ作りすぎた弁当をあいつに減らしてもらいたかっただけ」


 手に持っている弁当というかタッパを見せつける。


「それ、中身何入ってんの?」


 薄茶ロングは笑いの余韻を引きずりつつ訊いてきた。


「肉じゃがと玉子焼き」


 ブフゥーっと汚く吹き出し笑った薄茶ロングは、


「超家庭料理なんだけどー!」


 と言って、笑い続けた。


 周りのクラスメイトからも失笑が漏れる。


 なんか肉じゃがって、ザ・家庭料理って気がしない? と薄茶ロングがぱっつんメガネさんに言ってるのを背に席へ戻ろうとした。


「ちょ、ちょ零零零それ中身見して」


 だけど薄茶ロングに呼び止められタッパのフタを外し中を見せる。


「うわぁ、なんかしなってんだけど……これ、だしとか入れてないしょ?」


 とか言いながら、持ちだしたマイ箸で玉子焼きを一切れ刺して、そして食べた。


「……これ、砂糖入ってなくない?」


「砂糖なんか入れないけど?」


 すると薄茶ロングは、もう興味がないとでもいう様に、行った行ったと手を払った。


 自分の席へと戻った俺はすっかり冷めた調子で、作ってきた弁当を見る。


 ……作ったモノを否定されるのって、精神的ダメージでかいな。



 

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