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狂狂狂倫  作者: ぷるとないと
3/10

無関心

 死んだ父親の幽霊によって、生まれて初めての授業参観が強制的に行われ続け、特に何の心境の変化も無く昼休みになった。




 今日は弁当を持参していないから、購買でパンを調達した。


 ……いただきます。


「もぐもぐもぐ……」


(あのー恋くん。なんとなく察してはいるんだけど、今日は昼食を一人で食べる気分なのかい?)


「俺の昼食を誰かに分け与えた事は一日も無いけど」


(今日! 今日も一人で昼食を食べるのかいぃぃ?)


 父さん、テンション高いな。


 何をそんなに気にしてるんだか……


「父さんはさ、一人で黙々食べるのと誰かと黙々食べるのどっちが好き?」


(父さんの事を黙々好き前提で話すのを今すぐやめなさい)


「黙々は良いよ……黙々は何も考えないでいられる、とても幸せな事なんだ」


(その危険思想から今すぐ手を引くんだ恋くん!)


「まぁ、冗談だけど」


(父さん、冗談だと思えてないけど?)


 ……そんなに一人でごはんを食べてるのって変な事なんだろうか。


「父さんは一人な人が、一人でごはん食べてる事を何でそんなに気にしてるの?」


(自分の息子が教室で一人で昼食をとってるのを見て気にしない親はいません)


 ……へぇ~。


(せっかく教室で食べてるんだから、誰か誘えそうなクラスメイトはいないのかい?)


「誘えそうなクラスメイトって……関わりの無い人をどう誘えばいいのか……」


(ちょちょ!? 恋くん?)


「そもそも関わりの無い人にいきなり話しかけてもいいものなのか?」


(お願いだから関係無いって言おうか? 関わりの無いって本当に何もない感が強くて、悲しいからぁぁ……)


 父さんはそう言うと、静かに泣いた。






 焼きそばパンを食べ終えたところで、父さんがまた話し出す。


(さっき恋くんは、関係無い人に話しかけに行っていいか気にしてたけど、少なくとも同じクラスってだけで充分関係あるんだと思っていいんじゃないかい?)


「でも、ぱっつんメガネさんは全力で拒否してきた」


(ぱ、ぱっつんメガネさんは、自ら関わりにいくタイプの人なんじゃないかなぁ~)


「そっか、ぱっつんメガネさんは攻めなんだ」


(え、あーまぁたぶん……)


 父さんは少し歯切れ悪くそう言って、続ける。


(だから、あまり積極的じゃなさそうな人に声をかければ、きっとうまくいく)


 ぐっと握った拳を軽く振って俺に突き付けてくる。


 幽霊のくせに暑苦しい。


 きっとこういう霊が写真に映るんだろう。


「……父さんは、勘違いしてるよ」


(……?)


「俺は、人と関わらなくてもいいと、本心で思ってるんだよ」


(ッ!?)


「今の俺は、自分で考えて、自分で選んで、こうやって生きてるんだ。結果的に父さんに心配されるような生き方になってるかもしれないけど、これが本当の自分なんだよ。ただ、本当にこうなってるだけなんだよ」


(……恋くん)


「父さんの言ったようにすれば、誰かと仲良くなったりもするかもしれない。でも関わろうと思ってないのにそうやって、偽って、嘘をついて関係を深めてどうするの? そんなのただストレスを感じ続けるだけじゃないの?」


(……)


 無言で俺をじっと見ている父さんに、吐き続ける。


「それに、偽った自分で必ずしも関係が上手くいくわけじゃないだろ。だったら本当の自分、素の自分で生きる方が正しいし、それで出来た関係の方が楽だし価値があるはずだよ……」


 そう言い終えた俺の目に、楽しそうに昼休みを過ごしているクラスメイトの姿が映る。


 そして、父さんは言った、


(それは、今の恋くんの状況で言う事じゃないと、父さんは思う――)


 ――それだけは憶えていてほしい―― と。





 


 あまり有意義ではない授業が今日もやっと終わった。


 だけど、今日は冷蔵庫の中身を補充する為にスーパーに行かないといけない。


 俺はさっそく家の近所のスーパーへと向かう事にした。




 今日の夕飯を何にしようか考えながら食材を見て回っている主婦でにぎわっているスーパーで何を買うか迷っていると、3メートル後方からついてくる心配性の父さんが声をかけてきた。


(流石にずいぶんと慣れてるな)


「基本的には自分で食べるものを決めて買ってるから」


(そうか……)


 と少し暗い声で言う父さんはどこか気まずそうだった。


「まぁ、料理が出来ればこれから先もそんな困る事は無いし……」


 そんな事を言う俺の後ろを見えてるだけの父さんが力なくついてきた。



 

 すっかり見慣れたオバちゃんのレジで会計を済ませ、スーパーを出る。


 オレンジがかった太陽の光を背に受けながら、家への帰り道を歩く。


 すると、ゴミステーション近くの電柱の側に段ボールが置いてあるのが目に入った。


「あ……」


 電柱との距離が近づいてくると、段ボールには人間に換算すると同い年くらいかもしれない仔猫がエサや水と一緒に入れられていた。


「猫が、捨てられてる」


(恋くん? なぜか微妙にニュアンスが違って聞こえたのは父さんのせい?)


 猫は俺の存在に気付くと、こっちに向かって甲高く鳴きだした。


 それがどんな気持ちで発せられたものなのか、俺にはわからない。


 けど、出ようと思えばいつでも出られるであろう段ボールの中に居続けてる猫の事が、妙に気になった。


 スーパーの袋をあさり、取り出した魚肉ソーセージを食べられるように剥いて、それを父さんに差し出す。


(え、何?)


「今日の夕飯に父さんに供えようと思って買ったやつだから」


(キレちゃうよ?)


 父さんがお気に召さなかった魚肉ソーセージをもったいないので猫にあげてその場を去った。


「ねぇ父さん」


(……何か?)


 どうやら怒りの感情もあるらしい父さんに言う。


「関わるって損する事なんじゃない?」






「……」


 無言で家の玄関に入り、母さんのヒールがない事が目に入った。


 雑に靴を脱いで冷蔵庫へと向かい、買ってきた物を詰め込んだ。


 居間にあるテーブルに目を向けるとメモが一枚置いてあった。


「友達と一緒に怪人さんのレベル上げしてくるね~」


 最近、ちょっと多いな……


(未夢は、またゲームか……)


「そうみたい、けっこう本気でハマってるらしい」


 制服を着替え、夕飯の支度をする。


「そういや、本当に父さんには何も用意しなくていいの?」


(きみらが今までに一度だってそんな用意したことある?)


「ああ~、そういえば、そうだった」


(正直黙ってようとも思ってたけど、仏壇どころか父さんの写真すら置いてないよね……)


「だから父さんの事は死んだことしか知らないんだって」


(興味持とうよぉ、探せばいくらでもあるだろう……)


 そんな面倒なやりとりをしつつ夕飯を作った。


 ……いただきます。


「もぐもぐもぐ……」


 ……ごちそうさま。




 食器類を洗って、沸かしておいた風呂に入る事にした。


「……ねぇ、父さん」


(……?)


「どうして一緒に入ろうとしてんの?」


(それは、3メートル以上離れられないんだから仕方ないだろう)


「いや3メートル以上離れてないでしょ、それ。離れて」


(父さんと恋くんは、男同士……)


「……」


(そんな不審者を見てるような目つきやめてぇぇ……)




「……フゥ~」


 風呂は体が浸かる瞬間が一番だよな。


「ちょっと本気でポルターガイスト挑戦しようかな」とか言い出した父さんには浴室の外に居てもらった。


 ……


 父さんは俺に誰かと関わりを持って欲しいみたいだけど……


 俺が誰かと関わりを持つには、自分を偽って、嘘をつく事になるし、時には損をする事にもなるかもしれない。


 どうしてそんな事までして、誰かと関わりを持って、保たなきゃいけないんだろう。


 みんなそうまでして、いったい何を得ようと思っているんだろうか。


 ……


 答えが出せないまま、風呂から上がった。




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